劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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存在だけですが彼女たちも登場します……


ブラザーコンプレックス

 新人戦モノリス・コードの予選順位は、三高が一位で、以下一高、八高、九高となった。規定通りなら、準決勝は三高VS九高、一高VS八高となるのだが、一高と八高は戦ったばかりなので、此方も例外が適応される事になり、三高VS八高、一高VS九高となったのだ。

 その事が発表されてすぐ、達也はロビーをフラフラと歩いていた。もちろん深雪も一緒だ。

 

「あれは、七草会長?」

 

「誰かと話してるようですが?」

 

「妹さんだろ。双子の妹が居ると聞いた事がある」

 

 

 達也たちの場所からでは死角になっており、姿は見えないが、達也は存在を掴んでいるので断定口調だった。

 

「妹さんですか……さぞ可愛らしいんでしょうね?」

 

「深雪? 何で機嫌が悪くなってるんだ?」

 

「別に悪くなってませんよ?」

 

 

 深雪の機嫌が下降気味なのが若干気になった達也だったが、その事を気にしてる余裕はすぐに無くなった。

 妹たちとの会話が終わり二人と別れた真由美は、目聡く達也たちのことを見つけ駆け寄ってきたのだった。

 

「達也君、お疲れ様」

 

「いえ、会長は妹さんたちとおしゃべりですか?」

 

「知ってたの? ……って、達也君なら知っててもおかしく無いかな。七草は社交的で有名だし」

 

「そうですね。十師族の中でも七草の情報は比較的楽に手に入りますからね」

 

 

 もちろん十師族の中での事なので、他の家と比べれば七草も情報入手が難しい家系に分類されるのだが……

 

「新人戦は見ないって言ってたのに、なんだか興味が出たみたいなのよね。それでホテル代を借りに来たのよ」

 

「優しいお姉さんで」

 

 

 達也の社交辞令に、真由美は本気で照れ、深雪は更に機嫌を損ねる……その事に達也は気付かないフリをした。

 

「それでは、俺たちはこれで」

 

「そう、じゃあ達也君、深雪さん、また後で」

 

 

 真由美と別れた後、深雪は誰に対抗する訳でもなく達也の腕を取って組んだ。達也も視線を向けただけで特に解く事はしなかった。

 

「あら? あれは渡辺先輩」

 

 

 進行方向に摩利の姿を見つけ、深雪は少し気に留めただけで興味は無かったのだが、腕を組んでいる達也の歩が止まった為に深雪も足を止めた。

 

「お兄様?」

 

「さすがは九校戦だな……いたるところで有名人に会える」

 

 

 摩利の隣に居る青年に心当たりがあった達也は、その顔と情報を結びつけるのに一瞬手間取っただけで、別に冷やかしてやろうとか言う考えは全く無かった。

 

「美月? 何であんなところに……」

 

 

 摩利と青年をオロオロと見つめている美月を見つけ、達也も深雪も首を傾げた。

 

「兄上!」

 

「兄上?」

 

 

 エリカの叫び声に深雪がますます首を傾げ、美月は肩をビクつかせた。

 

「記憶違いで無ければ、エリカの二番目の兄だ。近接戦では既に世界トップクラスに数えられる猛者だ」

 

「そんな凄い方がエリカのお兄さんだったんですね。でも、何でエリカは怒ってるんでしょうか?」

 

「あっ、達也さん、深雪さん」

 

 

 オロオロと視線をさまよわせていた美月が、漸く二人に気付き近付いてきた。

 

「エリカちゃんが二人を見つけたらもの凄い速度で走っていっちゃって……」

 

「見てれば分かると思うぞ」

 

 

 そう言って達也は何の説明もせずに視線を三人に固定した。

 

「兄上はタイへ剣術指南の為にご出張のはずです! 何故こんな所に居るのですか! 和兄上ならいざ知らず、次兄上がお勤めを投げ出すなど……嘆かわしい」

 

「エリカ、僕は別に投げ出してきた訳じゃ……ちゃんと許可は取ったし」

 

「許可を取れば良いと言う問題ではありません! 次兄上がタイの王国から正式に任されたお勤めを投げ出したのは事実じゃないですか!」

 

「あれは大学のサークル交流みたいなもので……そんな大げさな事じゃ……」

 

「次兄上!」

 

「はい!」

 

「例えサークルの交流であっても、正式に拝命した事です。それを投げ出していい理由などありません!」

 

「仰る通りです」

 

 

 世界的な剣術家である千葉修次が妹に押され気味なのをみて、達也は「何処の家も妹が強いんだな」と感じていた。

 

「まさかと思いますが、次兄上はこの女の為に帰国した訳じゃありませんよね」

 

「この女って……あたしは一応学校では先輩なんだが?」

 

 

 摩利の言葉に一瞬視線を向けたが、すぐにエリカは摩利から興味を失った。

 

「兄上はこの女と付き合ってから堕落する一方……千葉の麒麟児と言われた姿は今は跡形も無く……」

 

「エリカ! 摩利に失礼だろ! 謝りなさい!」

 

「いいえ、謝りません! 次兄上がこの女と付き合ってから堕落してるのは紛れも無い事実です! そう言われたく無いのならもっとしっかりしなさい!」

 

 

 形勢逆転……に思われたが、結局エリカの勢いと言葉に圧され、そのまま『千葉の麒麟児』は妹が離れていくのを止める事すら出来なかった。

 今のやり取りを見ていた達也たちに気付き、エリカは駆け寄ってきた。

 

「見てた?」

 

「ええ」

 

「そう……達也君、今度奢りね」

 

「おい……まぁ良いが」

 

「よし! 交渉成立」

 

 

 とりあえず落ち着かせる為に、達也は三人に缶のカフェラテを購入した。自分のはブラックのコーヒーだ。

 

「全くあの馬鹿兄貴、あんな女に騙されちゃって……」

 

「世界的な剣術家でいらっしゃるんでしょ? 憎まれ口でも『馬鹿兄貴』なんて言っちゃ失礼よ」

 

「何でしって……ああ! 達也君なら修次兄貴の事を知っててもおかしく無いか」

 

「エ・リ・カ、私たちの前だからって呼び方を変える必要は無いのよ。修次『兄上』なのでしょ?」

 

「ああ! 忘れて! あんなのアタシじゃない!」

 

 

 エリカとしては、育ちの良いしゃべり方を聞かれたのが恥ずかしいようだった。

 

「エリカちゃん、こぼしちゃってるよ」

 

「エリカは修次さんが大好きなのよね?」

 

「違う!」

 

 

 美月が何とか話題を変えようと頑張ってるが、深雪の面白そうな表情は変わらない。達也は何となく妹がストレス発散してるような気がしていたのだった。

 

「深雪さんも! これ以上エリカちゃんを刺激しないで!」

 

「エリカって、ブラザー・コンプレックスだったの?」

 

「ッ! アンタには言われたく無いわよ! この超絶ブラコン娘がー!」

 

 

 ブラコン二人に挟まれて、美月は身動きが取れなくなっていた。達也はと言うと、なるべく知り合いだと思われないように少しはなれた場所に移動しており、美月の助けを求める視線にも気付かないフリ……と言うかその視線を黙殺してコーヒーを飲んでいたのだった。

 

「達也君!」

 

「何だ?」

 

「ちょっと付き合って!」

 

「は?」

 

 

 こう言う役目はレオだろ……と達也が思ったかは知らないが、その後三高の試合が始まるギリギリまで、達也はエリカのストレスの捌け口になったのだった。もちろん美月は深雪に捕まって同じ目にあったのだが……




七草シスターズと修次が登場。
達也の中でレオはエリカのストレス発散相手なんですね……

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