劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼女は通ってないですから


待ち伏せのリーナ

 朝から憂鬱な気分で個型電車に乗り込んだ深雪に付き添う水波も、何処か機嫌が悪そうな雰囲気だった。

 

「水波ちゃんも納得してない様子ね」

 

「僭越ながら、私も深雪様と同じ気持ちですから」

 

 

 婚約者でもない二人があの家で生活するなど、水波にとっても堪えられる事では無かった。

 

「でも、叔母様が許可を出したのは私が覚悟を決めていると理解されての事だし、今更撤回を求めるわけにもいかないわよ」

 

「それは分かっております。ましてや達也様が反対していない以上、私がとやかく言ったところで意味はありませんので」

 

「他の方たちも私に一任したのだから、基本的にはOKなのでしょうね」

 

 

 そもそも反対するなら、深雪に一任などせずにその意思を伝えればよかっただけなので、深雪は自分以外は全員同居に賛成していると思っている。実際にはそうではないかもしれないのだが、今更反対しているメンバーを探したところで意味はないのだ。

 

「とにかく、小野先生と安宿先生には私から伝えるという事になってるから、水波ちゃんはついてこなくても大丈夫よ」

 

「私は深雪様のガーディアンとして、何処へでもついていく所存です。達也様からも任されておりますし」

 

「そう……水波ちゃんもつらいだろうけど、お願いね」

 

「かしこまりました」

 

 

 水波がそう返事をしたタイミングで、個型電車は一高最寄り駅へと到着した。まず水波が先に降り、危険がないかを確認して深雪を誘導する。もう何度も繰り返してきた行動だが、水波には一切の油断も無く、それを見た一高生徒は始めの頃は驚きもしたが、今では誰も反応する事は無くなった。

 

「おはよう、深雪」

 

「リーナ? 何故貴女がこんなところにいるのかしら?」

 

「私だって結果が気になるのよ。昨日ほのかから聞いたけど、達也の愛人二人が同居するかもしれないんですってね」

 

「その事なら後で電話なりで聞けばよかっただけじゃないの? 授業に出るわけでもないのに、こんな時間から学校に来るなんて、よっぽど暇なのね」

 

「そりゃ、今まで自由に使える時間なんて殆どなかったから、何をすればいいのか分からないのよ。まぁ、料理は禁止されちゃったし、それ以外となると殆どすることがないのよね……一人じゃ訓練するにも限界があるし」

 

「今家に誰もいないの?」

 

「響子や夕歌はいるけど、私の訓練相手としては相応しくないでしょ? どちらも戦闘より諜報向きだし」

 

 

 深雪の感覚としては、夕歌は諜報向きというよりは戦闘員向きだと思っているのだが、どうやらリーナにとっては違うようだった。

 

「達也かエリカがいれば訓練も出来るんだけど、二人とも学校だし、どうせ暇だったからこうして深雪が来るのを待ってたのよ」

 

「私が既に学校にいるかもしれないとは思わなかったの?」

 

「こんな時間にもういるなんてありえないでしょ? それで、結果はどうなったの?」

 

「はぁ……一応認める事になったけど、必要以上に達也様に近づかないことが条件」

 

「妥当ね。私たちだってまだ達也と結ばれてないというのに、愛人の二人が先なんて許せないもの。それこそ、勢いでヘヴィ・メタル・バーストを発動しそうなくらいに」

 

「せっかく出来た新居を吹き飛ばすような魔法は止めておいた方が良いわよ。ましてや、ヘヴィ・メタル・バーストは戦略級魔法なんだから、そんなものをあそこでぶっ放すのは問題になるわよ」

 

「分かってるわよ。そんな事になれば、私が日本にいられなくなっちゃうだろうし、達也に殺されるかもしれないじゃないの」

 

 

 リーナは達也の魔法を知っているので、最悪達也が打ち消してくれるだろうとは思っているのだが、自分の正体を知らないメンバーにその事を知られたら、いろいろと面倒になるとは思っている。そして本当にヘヴィ・メタル・バーストを放ち、家を吹き飛ばしたとなれば、婚約解消は必至だろうとも思っているのだ。

 

「とにかく、私はあの家にいないから確認しようがないけど、今日雫やほのか、エリカや一色さんたちに監視をお願いするつもり。何かあれば、追い出して構わないってね」

 

「それ、達也は承認してるの? あの家では達也のいう事が絶対だから、達也が認めてないとやりたくても出来ないわよ?」

 

「達也様にもちゃんと許可は貰うわよ」

 

 

 何当然の事を聞いているのだという目でリーナを睨みつける深雪の背後で、水波も似たような表情で頷いている。

 

「まぁ、達也が愛人の色香に迷う事はないでしょうけど、あんまり待たせるのも悪いわよね。私たちはまだ十代だけど、その人たちはもう二十代後半なわけだし」

 

「それは差別的発言よ、リーナ。いくら早婚が望まれている魔法師とはいえ、三十過ぎまで独身の方だっているのだし、三十過ぎてから子供を産む方だって沢山いるのだから」

 

「それは知ってるけど、やっぱり早い方が良いんじゃない? 二人目、三人目って考えると」

 

「それだけ達也様に愛していただけるのなら、別に歳なんて関係なく妊娠出来ると私は思うわ」

 

「深雪なら、想像で妊娠してもおかしくなさそうだしね……」

 

「しないわよ、そんなこと」

 

 

 さすがに想像妊娠したことがあるなど言えなかった深雪は、そんな事を伺わせない鉄壁のポーカーフェイスで受け流し、水波を連れて学校への道を歩き出す。さすがに二日続けて学校に行くわけにはいかないということで、リーナは大人しく家に帰って行ったのだった。




深雪の愛が重いような

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