劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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脅してるようにも見えるな……


調査依頼

 あの噂が何処から流れているのかを調べる為に、深雪は生徒会の業務をほのかに任せてカウンセリング室を訪れていた。

 

「あら、司波さんがこの部屋に来るなんて初めてじゃない? どうしたの? 何か悩み事でもあるのかしら」

 

「悩み事は沢山ありますが、今日はカウンセリングを受けに来たわけではありません」

 

「じゃあなに? 今朝の話の続きでもあるのかしら?」

 

 

 今朝の話というのはもちろん、遥と怜美が新居で生活するという事だ。深雪の雰囲気から楽しい話ではないという事は遥にも理解出来ていたので、その話だと思い込んでいる様子だった。

 

「いえ、今回は別件です」

 

「じゃあなによ?」

 

「小野先生は、今一高内に流れている噂を、何処まで知っていますか?」

 

「噂って、九校戦が中止になるかもしれないってやつ?」

 

「えぇ、それです」

 

「それがどうかしたの? 所詮噂だし、まだ正式に決まったわけじゃないでしょ?」

 

 

 遥としたら、そんな事を深雪が気にするとは思えなかった。そもそも運営本部が発表したわけではない事を気にするような人物ではないと知っているからこそ、何故この部屋を訪れたのかが分からないのだ。

 

「その噂と共に、もう一つの噂が流れている事はご存知ですか?」

 

「もう一つ? 知らないわ」

 

「そうですか……」

 

 

 遥だって一日中情報収集をしているわけではないし、生徒が相談に来なければそういった話を聞いていなくても仕方がない。深雪は一度ため息を吐いてから、遥が知らない噂を話し出した。

 

「九校戦が中止になるかもしれない理由として、達也様が悪いという事になっているのです」

 

「達也君が? 何でよ」

 

「分かりません。四葉の次期当主だからとか、高校生レベルではない調整技術を反則だとか、さまざまな理由が上げられていますが、何故そんな事になっているのかは不明です」

 

「でも、その先の理由だと三高の一条君や、一昨年までの七草さんや十文字くんも問題にしなければいけなくなるし、後の理由でも達也君は高校生なんだから問題ないって事になりそうだけど」

 

「そうなんですよね。いろいろと調べた結果、達也様が原因だという噂が流れているのは一高だけのようなのです」

 

「……そっか。今は三高の一色さんたちや、四高の黒羽さんとかがいるから、他校の情報も仕入れやすいのね」

 

「そこで気になったのが、誰が一高内にそのような噂を流したのか、という事なのですが」

 

「一高にそんな噂を流して、誰が得をするのよ?」

 

 

 遥は達也のように心当たりなど無いので、至極まっとうな疑問を呈した。

 

「それを小野先生に調べていただけないでしょうか?」

 

「私に? 何で私なのよ。エレクトロン・ソーサリスにでもお願いしたら」

 

「もちろん、藤林さんにもお願いはします。ですが、小野先生もこう言ったことがお得意ですよね? なにせ先生の正体は――」

 

「ストップ! 今は遮音フィールドも張ってないんだから!」

 

「ご心配なく。音声遮断はしっかりとしておりますので」

 

「何時の間に……」

 

 

 深雪一人でも十分なのだが、部屋の外で控えている水波も音声遮断術式を展開しているので、この部屋の会話が外に漏れる事はない。もちろん、魔法の不適正使用なのだが、その辺りは達也がピクシーを使って改竄している。

 

「でも、何で私が調べなければいけないの? 四葉家の調査力を以てすれば、私に頼まなくても調べられるんじゃない?」

 

「噂を流した人物は、達也様を孤立させようとしている節が見られます。ですから、四葉家の息のかかった人物では、尻尾を出さない可能性がありますので」

 

「それじゃあ、私だって一応四葉家の関係者という事になるんだけど?」

 

「小野先生は藤林さんとは違い、正式に発表されているわけではありませんので」

 

「そういう事……でも、調べられるかは分からないわよ」

 

「達也様から、小野先生の調査力はお聞きしていますので。一昨年の九校戦の際には、非常に役に立つ情報をいただいたとか」

 

「あの時はまだ、達也君の正体を知らなかったから騙されたと思ったわよ……」

 

 

 買い取った情報をどう使おうかは達也の自由だと遥も理解している。だが心情的には、勝手にライバル視していた響子に情報を流された気がして気に入らなかったのだ。その後の論文コンペの会場でも、響子を介して達也に自分の隠形は見抜かれていると知らされ、ますます対抗心を燃やしてた時もあるほどだ。

 

「それで、犯人を見つけられたとして、司波さんはどうするつもりなのかしら?」

 

「もちろん、自分の罪を自覚していただきます」

 

「一応言っておくけど、さすがに殺すのはマズいと思うわよ?」

 

「問題ありません。四葉家にはそういったことに長けている人物もおりますので」

 

「そういう事を言ってるんじゃないのよ……達也君の判断も仰がずに貴女が実行して、後で達也君になにか言われても知らないわよ」

 

「ご心配には及びません。達也様を侮辱するような輩を、叔母様がお許しになるとは思えませんので」

 

「あぁ、ご当主様はかなりの親バカなんだっけ?」

 

「達也様をご自分の手で育てる事が出来なかったので、多少溺愛が過ぎていても仕方ないと思いますが」

 

「多少じゃないから困るんじゃないの……」

 

 

 達也が原因で戦争なんて引き起こされたら堪ったものじゃないと公安で話題になっているくらいなので、遥は四葉家の認識のズレに呆れ、ため息を吐きたい気持ちに襲われたのだった。




使えるものは何でも使う。達也から教えられたので、深雪もそれを実行してます

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