劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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それだけの実力はあるでしょうし


向けられる期待

 深雪からの依頼を受け、彼女が生徒会室に向かったのを確認した遥は、最大限に張っていた緊張の糸を緩め、その場でため息を吐いた。

 

「まったく、達也君も難しい注文をしてくるんだから……」

 

 

 実は遥は、達也が原因で九校戦が中止になるかもしれないという噂を知っていた。だがあえて知らないふりをして深雪からの相談を受けたのは、全て裏で達也が仕組んだことだったのだ。

 

「深雪さんから言われるまでもなく、達也君から依頼されてるのよね……まったく、良いように使われてる感じがするけど、これも達也君の為だし」

 

 

 達也から犯人と思われる人物のリストは貰っているので、後はこの人物を調べて噂を流したのか否かを確認するだけで良いのだ。もちろん、直接尋ねて答えてくれるような事はないので、それほど楽な仕事ではないのだが、一から人物を探し出す手間は省けている分、何時もより楽な仕事だと思えた。

 

「それにしても、随分と大物が多いわね……」

 

 

 軽くリストを見ただけでも、一癖も二癖もありそうな人物ばかりで、遥はため息を吐きたくなる。達也からの依頼じゃなければ断りたいくらいの大物も含まれているので、それも仕方ないだろう。

 

「まったく、どれだけ敵を作れば気が済むのよ……」

 

 

 達也としては、別に敵対しているつもりは無いのだが、向こうが敵視してくるのならこちらも穏便に済ませるつもりは無いという考えの持ち主なので、いらぬ敵を増えてしまうのも当然だった。

 

「とにかく、一人一人調べないといけないのよね……一発で当たれば楽なんだけど」

 

 

 そう呟いたタイミングで、遥は扉の向こうに人の気配を感じ取り、瞬時に達也から貰ったリストを隠しカウンセラーの顔を作りノックされるのを待つ。

 

『小野先生、ちょっといいかしら?』

 

「安宿先生? どうぞ」

 

 

 来客がカウンセリング室の隣の保健室の主であり、自分と同じ達也の愛人として今日からあの家で暮らす事になった怜美だと分かり、遥は作っていたカウンセラーとしての顔を崩し、友人に向けるような態度で怜美を招き入れた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「小野先生は、一度部屋に戻ってから達也さんの家に向かうんですか?」

 

「どういう事ですか?」

 

「だってほら、このまま向かっても着替えとか何も無いわけですし、一度部屋に行かないといけないじゃないですか」

 

「あれ? 安宿先生は聞いていなかったんですね」

 

「何をですか?」

 

 

 本当に知らないようだと、遥は少し苦笑いを気味の笑みを浮かべながら説明を始める。

 

「深雪さんが言うには、私と安宿先生の荷物は全て、四葉家の方が新居に運び込んでくれたようです。もちろん、女性の方ですので心配しなくてもいいと」

 

「そうだったんですか~。でも、大家さんとかにご挨拶してなかったですし」

 

「そちらの方も四葉家の方が交渉してくれたようですよ」

 

「そうなんですか。四葉家の力ってやっぱり凄いんですね」

 

 

 おっとりとした空気が流れ始めたので、遥はすかさずお茶を用意してのんびりとした空気を満喫するつもりになっていた。だが、怜美がカウンセリング室を訪ねてきたのは、こんな話をする為では無かったのだ。

 

「小野先生は、例の噂の事を何処まで知っているんですか?」

 

「例の噂、ですか?」

 

「恍けなくてもいいですよ。先ほど司波さんがこの部屋を訪ねてきた理由は、その事を聞かれていたんですよね?」

 

「何故そう思ったのでしょうか?」

 

 

 ほとんど肯定したに等しい返答をした遥だが、怜美が何故その事を知っているのかを確かめる方が大事だと思い、あえて厳しい視線を彼女に向けた。

 

「そんなに怖い顔しないでください。私だってそれなりの情報網は持っているんですから」

 

「それで、安宿先生はどうしたらいいと思いますか?」

 

「達也さんを悪者に仕立て上げようとしてる人物を許す必要は無いと思います。ですが、さすがに殺したりするのもどうかと思いますがね」

 

「何故その事を? さっきの会話は外部に漏れないようにしてあったはずですが」

 

「簡単ですよ。先ほど達也さんからそんな展開になるんじゃないかって聞いただけです」

 

「なるほど……? 達也君と会ったんですか?」

 

「昼休みにね。ちょっと見つけてお茶に誘った時に、そんな話になったの」

 

 

 まったりとした空気の中でするような会話では無いと思えたが、達也と怜美なら何でもありかと遥は自分の心を納得させ、そしてため息を吐いた。

 

「達也君も分かってるなら、深雪さんを寄越さずに自分で頼みに来ればいいものを……」

 

「来てたんでしょ~? そもそも、私が達也さんを捕まえたのは、カウンセリング室から出てきた時だもの」

 

「バレてましたか」

 

 

 先ほどのリストも、昼休みに達也から受け取ったもので、この部屋に達也が来ていた事は怜美にも知られていても不思議ではない。だが達也が怜美にもその話をしていたという事は、遥にとって意外だった。

 

「何故安宿先生に達也君は話したんでしょうか」

 

「今日はやたらに凍傷で保健室にくる子が多かったから、達也さんに何か知らないかって尋ねたのよ」

 

「あぁ、そういう事でしたか」

 

 

 聞くまでもなく、原因は深雪だと理解した遥は、それで達也が怜美に話したのかと納得した。

 

「私からも、小野先生にお願いするわね」

 

「期待されても困るんですけどね」

 

「またまた、ご謙遜を」

 

 

 怜美がどこまで自分の素性を知っているのか分からない遥は、余計な事は言わずに笑みを浮かべて対応するのだった。




保健室大繁盛……
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