劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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準決勝はほぼカットです


決勝の対策

 三高VS八校の試合会場で合流したレオと幹比古は、達也と美月の顔色が良くない事にすぐ気がついた。

 

「如何かしたのか? 美月は兎も角達也が人ごみで酔った訳じゃないだろ」

 

「あぁ……ちょっと精神的に疲れただけだ。気合が入れば如何とでもなる」

 

「……何か悪いね、達也ばっかり矢面に立たせちゃって」

 

「気にするな……」

 

 

 最も、試合が始まってしまえば疲れたなどと言ってられないのは達也もレオも分かっていたので、これ以上は詮索しなかった。それに幹比古も従う形を取ったのは、幼馴染の機嫌が悪いのに感付いたからだ。

 

「そろそろ始まるな。達也、相手の一条ってどれくらいスゲェんだ?」

 

「見てれば分かるとは思うが、少なくとも高一のレベルでは無いだろうな」

 

 

 達也がそう言った直後、フィールドからもの凄い爆発音が聞こえてきた。

 

「……『干渉装甲』か。移動型領域干渉は十文字家のお家芸のはずなんだがな」

 

 

 達也の言葉にも反応出来ないくらい、レオも幹比古も将輝の魔法に目を奪われていた。

 

「あれだけ継続的に魔法を使いながら少しも息切れしないのは、単に演算領域の要領が大きいだけではないんだろうな」

 

 

 達也が一人感心を抱いてる横で、レオも幹比古も、エリカでさえも将輝の戦い方を見て口を開けている。

 

「収束系『偏倚解放』か。単純に圧縮解放を使えばいいものを……結構派手好きなんだな」

 

「『へんいかいほう』ですか? お兄様、その魔法はいったい」

 

「手間がかかる割りに威力の弱いマイナーな魔法だからな」

 

 

 深雪の質問に達也は苦笑い気味に収束系『偏倚解放』の説明を始める。それまで試合に目が釘付けだったレオたちも、今回は達也の説明に耳を傾けた。

 

「殺傷ランクを下げる為にあえて使ってるのか……力がありすぎるのも考え物だな」

 

 

 説明の最後に付け加えた言葉に、深雪が少し笑った。あたかも「それはお兄様もなのではありませんか?」と言いたそうな目をしていたのに、達也だけが気がついた。

 

「これじゃあ他の二人の魔法が分からないな」

 

「もう一人の方は分からんが、吉祥寺選手なら何となく見当は付く」

 

「ホントかよ?」

 

「吉祥寺真紅郎が発見した『基本コード』は加重系統プラスコード。出場した競技はスピード・シューティング。ならば得意魔法は作用点に直接加重を掛ける『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』」

 

「『基本コード』?」

 

「対象物の固体情報を改変するんじゃなくて、部分的に加重を掛けることなんて出来るのかい?」

 

「そうか、少し長くなるが良いか?」

 

 

 達也の前置きに、一瞬だけたじろいだ反応を見せたが、レオも幹比古も頷き覚悟を決めた。

 達也が説明を始めると、達也の周りの人間は試合そっちのけで達也の説明に集中する。その事が別に悪い事では無いのだが、達也としては意識の半分は試合に向けておいてほしいと思ったのかも知れない。表情が少し引きつっていたのだ。

 達也が説明の最後に『カーディナル・ジョージ』と言う別名を使うと、レオが納得したように手を叩いた。

 

「そうか、吉祥寺真紅郎って何処かで聞いた名前だと思ったら、『カーディナル・ジョージ』だったのか」

 

「だから一条選手だけを警戒していれば良いと言う訳では無いぞ」

 

「分かった。ありがとう達也」

 

 

 説明を終えて幹比古はお礼を言ってきたが、レオは何か気になってる様子だった。

 

「なぁ達也、直接試合とは関係無いんだが……さっき達也は『基本コード説は間違ってるが実在する』って言ったよな? つまり達也は全ての『基本コード』を知ってるんじゃないか?」

 

 

 レオの質問に、達也は少し驚きの表情を浮かべた。達也の周りで考えれば、レオは一番知識が乏しい事になるが、別に学年で乏しい訳でも無いし、知識は兎も角知力はしっかりと持っているのだ。

 

「お兄様、そろそろ移動する時間では」

 

「そうだな」

 

「おい!」

 

「俺は『基本コード説』では説明出来ない魔法を知ってるだけだ」

 

 

 立ち上がりそういい残した達也の背中には、「これ以上聞くな」と書いてあった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一高対九高の試合は、特筆する事なく一高の勝利で終わった。決勝までの短い時間、達也は外の空気を吸いに深雪と別行動を取っていた。

 

「(屋上にはエリカと幹比古が居るし、邪魔したら悪いだろう)」

 

 

 もちろん「そう言った意味」で二人っきりになってる訳では無い事を分かっている達也だが、あえてその場に行く必要も感じられなかったので、達也は普通にホテルの外に出たのだった。

 

「あれ、達也君?」

 

「藤林さん」

 

 

 普段なら階級で呼ぶのだが、何時誰に聞かれるか分からない状況なので、達也は苗字にさん付けで響子の事を呼んだ。

 

「如何したの? そろそろ決勝戦でしょ?」

 

「少し外の空気を吸いに……藤林さんこそ如何したんです?」

 

「私はお仕事よ。ちょっと気になる事があるから調べろって上司に言われたのよ」

 

 

 風間の事を「上司」と表現したのも、達也が響子の事を階級で呼ばなかった事と理由は一緒だ。

 

「そうですか……」

 

「勝てそう?」

 

「さぁ? でも一条選手は俺を意識してるようでしたからね……術式解体が使える事を教えた所為で、乗るしか無い挑発をして来ましたから」

 

「やっぱり? あれは達也君を意識した事だったんだね」

 

 

 響子も気付いていたようで、達也は苦笑いで答えた。

 

「何で俺なんかを意識するのかは分かりませんが、十師族の次期当主様に目をつけられましたからね。先輩たちにも頼まれてますし、とりあえずは戦いますよ」

 

「分かってるとは思うけど、無理はしないでね」

 

「この間風間さんに言ったように、大人しく負け犬に甘んじますよ」

 

 

 周りに人が居ないので気にする必要は最初から無いのだが、達也はしっかりと事情を悟られないように会話を進める。響子も笑いそうになったのを堪えて、そのまま会話を続けた。

 

「そう言えば達也君、気付いてる? 各校の女子が色めきづいてるの」

 

「……一条に見蕩れてるんじゃないですか?」

 

「達也君、ワザとでしょ」

 

 

 自覚してるとは言え、それを自分の口から言うのは何となく鼻につくと思ったので、達也はもっともらしい事で誤魔化そうとしたのだが、響子はそんな事で騙されてくれる人ではなかったのだ。

 

「達也君の戦ってる姿に見蕩れてるんだよ。それも一年生だけでは無く二年、三年もね。もちろん私も」

 

「……あまり目立つと叔母上に怒られそうです」

 

「気にするのそっちなの?」

 

「他に何か?」

 

「……またワザとでしょ」

 

 

 響子がジト目で達也を見つめると、達也は肩を竦めて身体を回転させた。

 

「そろそろ師匠から荷物が届くはずですし、これで失礼します」

 

「決勝、頑張ってね」

 

「出来る事はしますよ」

 

 

 響子の応援に、達也は事実のみを伝え移動する。そんな達也の背中を、響子は心配そうに見つめていたのだった……




エリカと幹比古では無く、達也と響子にしました。あのシーンは別に嫌いじゃないんですが、字で表わすと難しいので……

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