劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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胃の痛い思いをするのは、やっぱり彼


協力要請

 水波の作業を手伝っている間に、幹比古が生徒会室に顔を出しに来た。

 

「お邪魔します」

 

「いらっしゃい、吉田君。それで、わざわざ吉田君が生徒会室に来るということは、何か問題でも?」

 

「まぁ、それほど大事では無いと思うんだけど、達也の悪口が学校に蔓延しているから、根も葉もない噂だという事を風紀委員と部活連で徹底的に対応しようと思うんだけど、生徒会はどうするか話し合おうと思って」

 

「それなら簡単ですわ。生徒会としても、根も葉もない噂には徹底的に対応するつもりです。誰が流した噂かも分からない事を鵜呑みにして、達也様の悪口など、許せるわけがありませんので」

 

「そっか。北山さんも同じような事を言っていたから、恐らく深雪さんも同じ反応すると思ってたけどね」

 

「というか、何で幹比古がそんなことをしているんだ?」

 

 

 達也が悪口を言われているだけで、幹比古に直接関係しているわけではない問題だ。達也が不思議がるのもおかしくはないのだが、幹比古は苦笑いを浮かべながら答えた。

 

「さすがに深雪さんたちの精神を不安定にさせておくと、風紀上よくないことが起こりそうだったからね」

 

「そういう事か」

 

 

 既に一科生の間では深雪の前だという事を忘れて達也の悪口を言い、危うく氷漬けにされかけた男子生徒がいるという噂をエリカから聞いていた達也は、確かに風紀委員が動くべき案件になったのかもしれないと納得した。

 

「あら吉田君? 今、私の名前が聞こえた気がしたのだけど」

 

「き、気のせいですよ。ね、達也?」

 

「そうだな。それよりも深雪、この噂の出所が分からない今、どう対応するべきだと考える?」

 

 

 別に幹比古をフォローする気など達也には無かったが、下手に刺激して生徒会室を氷漬けにされるのはいろいろと面倒だと考え、あえて話題を変えたのだ。

 

「地道に根も葉もない噂だと言っていくしかないでしょうか……というか、本当に何処から流れてきたのか分からないのでしょうか? 職員室でも噂になっているようですが」

 

「どうやら職員室でも噂の出所は分からないみたい。でも、何故か職員室でも『達也が悪い』という事になってるみたいで、僕たちとしては納得出来ないでいたからね」

 

「どうして先生たちは達也さんが悪いと決めつけているのでしょうか?」

 

「それは、達也さんが先生より知識量も技術も上だからだと思うよ」

 

「雫?」

 

「北山さん、何かあったの?」

 

 

 風紀委員会本部で待機していた雫が生徒会室に現れたことで、幹比古は何か事案が発生したのかと身構える。だが雫は特に慌てた様子ではなく、当然の如くピクシーにお茶を頼んでほのかの隣に腰を下ろした。

 

「香澄が見回りから戻ってきたから代わってもらっただけ」

 

「でも雫。どうして達也さんが優れている所為で、先生たちが達也さんを悪者に仕立て上げようとしているの?」

 

「一年の時にも言ったけど、自分たちより優秀な生徒がいると、教師としてはやり難いんじゃない? 実際達也さんは、恒星炉実験や新魔法の開発という、ある意味技術者の目標的な事をやってのけてるわけだし」

 

「でもでも、それは魔法師全体の為や、九校戦で勝つためにやった事であって、達也さんは特に利益を得ているわけじゃないのに」

 

「そんなこと学校だって分かってる。頭では理解してるんだろうけど、研究者としてのプライドや、教師としての立場が危ういとか、そんな事を思ってるだけ」

 

「そんなの酷いよ! そもそも達也さんがいてくれなきゃ、一昨年の九校戦は優勝できたかどうか分からなかったんだよ!? 去年だって、達也さんが作戦を考えてくれたから勝てた部分が大きいのに」

 

 

 顔を蒼くして訴えるほのかの頭を、雫が優しく撫でる。そんな事言われなくても、この場にいる殆どが同じ事を思っているのだから当然だろう。

 

「昨年の九校戦は私も拝見させていただきました。確かにいろいろと凄い作戦を立てる人がいるんだなと思いましたが、あれは司波先輩だったのですか」

 

「俺は表に出て戦う程の魔法力が無かったからな。去年の生徒会長だった中条先輩にも頼まれてたし、突然の競技変更でごたごたしてたから、そのまま作戦参謀に任命されてしまったんだ」

 

「そのような事が無くても、達也様が勤めるべき役職だと私は思っていましたが」

 

「それは俺の性格が悪いと言っているのか?」

 

「滅相もございません」

 

 

 冗談めかして達也が尋ねると、深雪も冗談めかした表情で答える。もしかしたら深雪が慌てて謝るかもしれないとハラハラしながら見ていた泉美は、そんなやり取りが出来る達也を羨まし気に睨んだ。

 

「とにかく、風紀委員や部活連としては、達也を悪者に仕立て上げようとしている人間を許すつもりは無い、という事を報告しに来たのと、出来る事なら生徒会にも手伝ってもらいたいという要請をしに、僕が来たんだけど、結局北山さんも来たから、僕がわざわざ来なくても良かったのかなとは思ってる」

 

「いえいえ、風紀委員長である吉田君が動いてくれるなら、我々生徒会としても協力を惜しみません。噂の出所を探して、犯人にしっかりと反省してもらいましょう」

 

「あっ、一応言っておきますけど、問答無用で攻撃するのは止めてくださいね。生徒会長が率先して魔法を行使するなんて、全校生徒に示しがつかないので」

 

「分かってますよ、吉田君」

 

 

 ニッコリと笑みを浮かべた深雪だったが、幹比古はあんまり分かっていないんではないかと不安に駆られ、胃の痛い思いをしたのだった。




からかわれて胃の痛い思いをして、深雪が暴走しないかどうか気にして胃の痛い思いをしてと……

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