劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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またしばらく出せなくなりますし、思いっきり甘えさせたかった


久しぶりの対面

 魔法協会に呼び出された達也は、受付で名前を告げて中に入る。こんな事をしなくても中に入れるのだが、一応規則なので達也はそれに従っただけだ。

 

「お待ちしておりました、達也様」

 

「葉山さん、その呼び方は止めてくださいよ」

 

「ほっほ、達也殿は毎回面白い反応を見せてくれるので、ついつい言いたくなるのですよ」

 

 

 笑いながら達也に謝る葉山だが、全く悪びれていないのがバレバレであった。

 

「それで、何でこんな場所に呼び出したのですか?」

 

「私めは存じ上げませぬ。真夜様に直接お聞きくださいませ」

 

「例の噂の出所でも突き止めたのですか?」

 

「いやはや、達也殿のご慧眼にはほとほと参りましたな」

 

 

 真夜が待っている応接室まで案内して、葉山は扉を開けて達也を中へ誘導する。

 

「お久しぶりね、達也さん。慶春会以来かしら?」

 

「ご無沙汰しております、母上。直接お会いするのは、慶春会以来ですね」

 

「少しくらい会いに来てくれても良いんじゃないかしら?」

 

「いろいろと忙しいんですよ、俺も」

 

 

 他愛のない会話をしながらも、真夜は楽しそうな笑みを浮かべながら達也を自分の隣に座らせる。

 

「深雪さんとはお電話でお話しする機会があったけど、達也さんはあの場所にはいなかったようですしね」

 

「電話? あぁ、遥さんや怜美さんの件ですか」

 

「それ以外にもいろいろね。それにしても、相変わらず達也さんはモテモテで、私は嬉しいわ」

 

「そのような雑談をするために呼び出したわけではありませんよね?」

 

「たまにはいいじゃないの。母子の時間を作ってくれたって」

 

「時間的余裕があればそうしますが、今はそれどころではありませんので」

 

「仕方ないわね。葉山さん、達也さんにコーヒーを淹れて差し上げて」

 

「既にご用意してございます」

 

 

 達也の前にコーヒーカップを置き、再び壁際に下がった葉山を見て、真夜は満足そうに頷く。

 

「さすがは葉山さんね。これが青木さんじゃ、こうはいかないもの」

 

「青木さんは今、本部長の仕事の関係上東京にいないのでは?」

 

「そうよ。気に入らないから地方に出張させたわ」

 

「一応FLTと四葉の関係は公になっていないのですから、あまり人事に介入しない方が良いんじゃないですかね」

 

「公然の秘密になってるから大丈夫よ。そもそも、たっくんが出入りしてる時点で、四葉家との関係は会社内で噂されてるんだし」

 

 

 呼び方が変わったのを受け、達也はしばらく本題に入るつもりがないという事を理解し、葉山が淹れてくれたコーヒーに口をつけながら苦笑いを浮かべた。

 

「母上。いきなり呼び出されたわけをお教えください」

 

「だって、用件を話したらたっくん帰っちゃうでしょ? だから、もう少し雑談に付き合ってちょうだい。花菱さんから、たっくんの武勇伝は聞かせてもらったけど、情報部の連中をものともせずUSNA兵を救い出した話とかさ」

 

「その件でしたら、文書にして本家にご報告差し上げましたが」

 

「たっくんの口から聞きたいの」

 

「葉山さん、笑ってないで母上を何とかしてください」

 

「私めに真夜様をどうにか出来るわけございません故。達也殿もその事は重々承知のはずですが」

 

「俺より母上との付き合いが長いんですから、葉山さんならどうにか出来るでしょうが……」

 

 

 達也の言う通り、葉山ならばなんとか出来るのだが、彼は楽しそうにしている真夜を、孫娘でも見ているような眼差しで見守っているだけなのだ。つまり、葉山は真夜の味方だという事である。

 

「もっと気軽に会いに来てくれるって約束してくれるなら、本題に入ってあげてもいいわよ?」

 

「そう簡単に会いに行ける場所じゃ無いじゃないですか……毎回花菱さんを迎えに寄越すつもりですか?」

 

「彼なら喜んで迎えに行くと思うわよ? 彼は達也さんに心底陶酔しているみたいだし」

 

「何で俺なんかに陶酔しているのかは分かりませんが、花菱さんに迎えに来てもらうのは申し訳ないです」

 

「それじゃあ、もう少し母子の触れ合いの時間に付き合ってもらうわよ。今度いつ会えるか分からないんだから、思う存分たっくんと触れ合っておきたいし」

 

「……何かきな臭い状況になりつつあるのですね?」

 

「……そういう鋭いのはありがたいけど、今はあんまり嬉しくないな」

 

 

 真夜のちょっとしたヒントで面倒な事が起こるかもしれないという事を確信した達也は、纏っていた空気を厳しいものに変える。それを感じ取った真夜は、渋々真面目な表情を作って達也に向き直った。

 

「今一高内に流れている噂だけど、出所は達也さんが睨んだ通りよ」

 

「国防軍情報部所属、遠山つかさ曹長ですね」

 

「もちろん、それだけじゃないけどね。どうやら裏でUSNAが動いてるみたいなの」

 

「USNAが、ですか?」

 

 

 情報部に兵士を拉致られて、あまつさえ傀儡として使い捨てられたというのにという気持ちが達也にはあった。

 

「昨年の三月末だったかしら? 国防海軍がUSNAの軍事衛星を破壊しかけた事があったでしょ?」

 

「その事と今回の件が繋がっていると?」

 

「あの時達也さんのお手伝いをしたアンジー・シリウス少佐は日本にいるけど、ベンジャミン・カノープス少佐は向こうにいますからね。達也さんが消し去ったとは知らないでしょうが、日本にそれなりの報復を目論んでいても不思議ではありませんもの」

 

 

 真夜の宣言に、達也はまたリーナの所為で面倒になりそうだとため息を吐いたのだった。




流れで分かるかと思いますが、星を呼ぶ少女編をやります

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