家に戻ってきた達也を出迎えた真由美は、複雑な表情を浮かべている達也を見て首を傾げた。
「何かあったの?」
「いえ、少し面倒な事になりそうだなと思いまして」
「面倒な事? お昼に泉美ちゃんから電話で聞かれた事?」
「それもありますが、USNA軍の方できな臭い動きがあるようです」
「USNA? この前達也くんが襲撃したのは国防軍の施設でしょ? 何でUSNAが介入してくるのよ」
「今回の件ではなく、昨年の事件の事で何か企んでいるようです」
「去年のって、南盾島の件?」
「えぇ。軍事衛星の件でまだ報復を考えているようでして」
ちょうどそのタイミングで、リーナが顔を出した。
「達也。ちょっといい?」
「何かあったのか?」
「ちょっとね。私の部屋に来てもらっていい?」
「構わない。先輩、また後程」
真由美に一礼してから、達也はリーナの後に続いて二階に向かう。途中で気にして部屋から出てきた雫やほのかとすれ違ったが、心配するなと目で伝えてリーナの部屋に入る。
「達也、去年の事件は覚えてるわよね?」
「その話か。俺が魔法協会に呼び出されたのもその件だ」
「あの時は何で邪魔するのって思ったけど、邪魔してたのは私たちの方なのよね」
達也が実験を中止させるために襲撃しようとしたところに、リーナたちUSNA軍が襲撃しに来たので、ちょっとした衝突があったのだ。
「その時USNAの軍事衛星を消しちゃったでしょ? その事で軍上層部が日本軍に報復しようとしてるって報告がシルヴィから入ったんだけど、達也も聞いてる?」
「そのようだな。具体的な事は何も聞いていないが、リーナの方は何か情報が入ってるのか?」
「残念ながら……でも、標的である国防軍のとある部署とつながりが疑われているとは聞いてるわよ。そっちの方は達也の方が詳しいんじゃない?」
「この前リーナの仲間を拘束して実験していた情報部だろう。どうもあの部署は俺に執心してるようだし、あの場に俺がいたことは知っているのだろう」
もちろん、研究所を襲撃したのが達也だとは知られていないが、北山家の別荘に達也がいたことは知られているのだろう。
「前々から思ってたけど、達也って事件に巻き込まれやすいのね」
「甚だ不本意ではあるが、どうやらそうらしい」
苦笑いを浮かべながら肯定する達也を見て、リーナは笑い出しそうになったのを必死にこらえて表情を取り繕った。
「本当なら軍事衛星を撃ち落とした連中に損害賠償請求をするのが妥当なのでしょうけど、その連中たちは既に散り散りになってるからね」
「既に軍法会議で裁かれ、何処かに飛ばされているだろうからな」
「そういうわけだから、USNA軍としては、日本軍に狙いを定めたらしいのよ」
「迷惑な話だ……俺はただ、非人道的な実験を潰しただけなんだがな」
「軍事衛星を消し去ったのは達也でしょうが」
「ああでもしなければ、世界中がUSNAの軍事衛星の所為で汚染されたんだぞ」
「分かってるわよ。でも、USNAとしては汚染された場合原因は日本にあると主張したでしょうね」
国防海軍が余計な事をしたのは事実なので、達也もリーナの言い分に頷いて同意する。そもそもを辿れば、自分の戦略級魔法に対抗した魔法を作り出そうというのが実験の根底にあるので、達也自身に原因の一端があると彼も思っているのだ。
「そういえば、あの時助け出した子たちは元気なの? 噂では七草や十文字じゃなくて、四葉が引き取ったって聞いてるけど」
「自我もしっかりしていると報告されているが、まだ研究所から出る事は出来ないだろうな。魔法力が安定していないらしいし、何時暴走するか分からない」
「達也の魔法でどうにかならないの?」
「こればっかりは無理だ。四葉の研究者に任せるしかない」
「そうなの……でも、これ以上酷くなる事はないって思っていいのかしら?」
「そう願いたいがな」
達也としては、調整体魔法師に特別な感情を懐いているので、彼女たちが無事に生活出来るようになればと願っている。感情が殆どない達也にしては珍しい事なのだが、その原因は達也と深雪、そして同じ調整体魔法師である水波にしか理解出来ないだろう。
「とにかく、USNAの動きはシルヴィから入りますが、最新のものかどうかは私にも分かりません」
「それなら大丈夫だろう。母上は個人的にバランス大佐と繋がりを持っているようだから、情報のふるい落としはそちらでやってくれる」
「大佐とですってっ!? 達也、貴方たち四葉はいったいどれだけの力を持ってるのよ……達也と深雪の二人だけでも大変なのに」
「四葉に喧嘩を売るのがどれだけ無謀か、リーナなら良く分かるだろ?」
「えぇ、散々な目に遭ったもの……」
「あれはリーナの自業自得だろうが」
パラサイトの宿主を容赦なく殺していった結果、リーナは達也と深雪に力の差を見せつけられたのだ。
「そういうわけなら、私はこれ以上気にしなくてもいいのね?」
「一応気にしておいてくれると助かるんだがな。あの事件は、半分は君たちの介入の所為なんだから」
「そんなこと言われても、私は命じられたことを実行しただけよ」
顔を真っ赤にして反論するリーナを見ながら、達也は去年の三月末に起きた事件を思い返して苦笑いを浮かべるのだった。
はい、次回から星を呼ぶ少女編に入ります