劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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さあ、盛り上がってきましたよ


モノリス・コード決勝 前編

 三位決定戦が終わり、決勝のステージが発表された。

 

「草原ステージですか……障害物が無い為に厳しい戦いになりそうですね」

 

 

 激励に来た面々の気持ちを代弁するように、深雪がそう達也に言う。

 

「いや、渓谷ステージや市街地ステージに比べたらまだマシだ。贅沢を言ったらキリが無い」

 

 

 達也のこの言葉に全員が一斉に首を傾げた。深雪たちはまだ分かるが、何故真由美や摩利までもが首を傾げたのだろうと、達也は別の意味で首を傾げたくなったが、その事はせずに説明を始める。

 

「一条家の『爆裂』は、液体を気体に変化させ、その膨張力を破壊力として利用する魔法だ。一条家の人間なら水蒸気爆発を利用した攻撃はお手の物だろうからな。一条選手にとって、渓谷ステージはそこら中に爆薬が仕込まれてるのと同じ事だし、市街地ステージは実際に水が流れている水道管が張り巡らされている。それに比べて草原ステージは爆薬となるものがない。無論森林ステージや岩場ステージの方が良かったんだが、渓谷ステージという最悪のフィールドをまぬがれただけでもよしとしなければな」

 

 

 達也の説明に、一年生は納得の表情を浮かべた。だが上級生たちの表情は明るくない。

 

「でも、遮蔽物の無いフィールドで、砲撃戦が得意な魔法師を相手にしなければいけないって事には変わりないわよ。かなり不利だわ」

 

「正面から打ち合えば確かに不利ですけど、さっきも言ったように一条選手は俺を意識してるようですからね。正面以外からなら何とかなります」

 

「だが、直接攻撃は禁止されてるぜ?」

 

「触らなければ良いんですよ。大丈夫、策はあります」

 

 

 桐原の疑問に、達也は人の悪い笑みで返した。達也としても、勝ち目が薄い事は理解している。だが妹に期待されてしまった以上、達也は簡単に負ける事は許されなくなってしまっているのだ。

 

「行くぞ」

 

 

 ずっと背後で黙っていたレオと幹比古に短く声をかけて、達也はステージへと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一高の三人がフィールドに出てくると、客席で一人大笑いしてる少女が居た。

 

「ちょっとエリカちゃん……恥ずかしいよ」

 

「だって……あの格好は笑うわよ。何あれ? 絶対笑いを取りに来たとしか思えないわね」

 

 

 レオと幹比古の格好を見て、エリカは腹を抱えて笑っている。その隣では注目を集めてしまってるのを恥ずかしがる美月がいた。

 

「……ふう、笑った笑った。これだから達也君の行動からは目が離せないのよね~」

 

「もう、恥ずかしかったんだからね」

 

「ゴメンゴメン。でも、あの衣装には何の意味があるんだろう……私には分からないわね」

 

 

 ひとしきり笑った後、エリカは二人の衣装の意味を探ろうと集中したが、結局は分からなかったようだ。

 

「……精霊が、吉田君のローブにいっぱい群がってる」

 

「えっ?」

 

 

 眼鏡を外した美月が、そう指摘すると、エリカは説明を求めるような視線で美月に目を向ける。だが、説明をしてもらえる時間はなかったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じタイミングで、三高の選手もレオと幹比古の姿を見て考えを巡らせていた。

 

「なぁジョージ、あれは何だ?」

 

「分からない……彼の事だからハッタリでは無いだろうし、僕の事も知ってたから『不可視の弾丸』対策かも知れない。あの魔法は貫通力が無いからね」

 

「だが、あんな布一枚で防がれる魔法でも無いだろ」

 

「うん……だから分からないんだ」

 

「まぁ、考えても分からないんじゃしょうがない。気にし過ぎて墓穴を掘ることだけは避けようぜ」

 

 

 将輝の言葉に、真紅郎を頷きとりあえず悩みは脇に置いておく事にした。

 

「新人戦の優勝は向こうに持ってかれたが、せめてモノリス・コードの優勝は俺たちが貰おうぜ」

 

「もちろん。将輝と僕がいれば優勝は確実だよ」

 

 

 達也の戦術と実力を目の当たりにしたのだが、それでも自分たちの方が優れていると二人は確信していた。達也本来の魔法を見てないのでそんな事を思えるのだが、それはある意味で仕方ない事なのだ。

 

「そろそろ始まるね」

 

「俺は正面からアイツの相手をする。ジョージは打ち合わせ通りモノリスに向かってくれ」

 

「分かった。でも始めは大人しくしてるよ」

 

 

 真紅郎は、自分が出なくても将輝なら相手をねじ伏せる事が出来ると信じている。将輝もそう思っているのだが、何分相手はイレギュラー、何が起こるか二人にも予想出来ないのだ。

 開始の合図と共に、達也が三高のモノリス目掛けて駆け出す。それに対抗するように、将輝は達也目掛けて攻撃を仕掛ける。

 

「(術式解体が使えるからといって、何処まで耐えられるか見ものだな)」

 

 

 慢心と指摘されればそうなのだが、既に社会的地位がある将輝から見れば……真実を知らない将輝からすれば、達也など一介の高校生に過ぎないのだ。対抗魔法『術式解体』が使えるからといって、自分が負けるなどと思って無いのだ。

 達也は将輝の魔法を右手のCADで発動させた『術式解体』で撃ち落し、その合間に左手のCADで振動系魔法を将輝に向けて放つ。もちろん達也の攻撃に威力は無く、魔法師が無意識に展開させている情報強化の防壁に阻まれている。

 だが、普通の意味での魔法力の差から考えると、達也の動きは驚きを呼ぶものだった。その証拠に、一高天幕では驚きの声が上がっていたのだ。しかし一高幹部の表情は優れては居ない。それどころか真由美や鈴音は心配な表情を浮かべたまま戦況を見守っているのだ。

 

「(将輝が攻め切れてない……想像以上に厄介な相手なんだろうな)」

 

 

 フィールドでも達也の動きに驚いている人物は居る。自分たちが今までやって来た戦いの中で、これほどまでに将輝に対抗してきた相手は存在しなかったのだ。それが今、圧倒的差をものともしないで対抗してくる相手が目の前に居る事が、真紅郎には信じられなかった。

 

「(何故これほどの能力を持ちながら、最初からエントリーしてなかったんだろうか……これだけ魔法が使えるのなら、スピード・シューティングで僕と良い勝負が出来ただろうに……)」

 

 

 真紅郎は、自分が戦った森崎よりも、達也の方がもっと緊迫した戦いが出来ただろうと考えていた。事故は災難だとは思っているが、あれはあれで良かったんじゃないかとも……

 

「(勝ちは揺るがないけども、彼を相手にして勝ったほうが喜びが大きいだろうしね。何でか知らないけど一色さんたちは彼の事を応援してたけど)」

 

 

 達也と将輝の打ち合いに変化が出ないのを見て、真紅郎はもう一人の仲間に声を掛ける。

 

「それじゃあ、打ち合わせ通り僕も行くよ」

 

「おう、ここは任せろ」

 

 

 ディフェンスを仲間に任せ、真紅郎も攻めに転じる。フィールドを半分くらい進んだところで、真紅郎の前にレオが立ちはだかる。達也対将輝の戦いの少し離れたところで、別の戦いが始まろうとしていた。




次で終わらない気がする……

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