真紅郎が駆け出したのを、達也は何も黙って見ていた訳では無い。将輝の意識が一瞬だけ逸れたのを見計らって、一気に距離を詰めた。
だが詰めた分将輝の放つ魔法を『術式解体』で撃ち落すのが難しくなり、ついには撃ち落せなかった攻撃が達也に襲い掛かってくるようになった。達也はそれを、魔法を使わずに回避し、更に距離を詰めていく。
一方で一高モノリスに向かって行った真紅郎の前に立ちはだかったレオに向けて『不可視の弾丸』を放とうとした真紅郎は驚愕の表情を浮かべる事となった。
遮蔽物の無い草原ステージにおいて、将輝同様真紅郎の得意魔法にも有利で、この距離なら外しようが無いと思われていたのに、レオがマントを地面に叩きつけると、それは壁となりレオの姿を隠した。
「(まさかそういった使い方だったのか!? これじゃあ『不可視の弾丸』が使えない)」
『不可視の弾丸』は、その性質上相手を視認しなければならないのだ。単純ながらも効果的な対策に驚いてる真紅郎に、金属片が飛んでくる。
レオの攻撃をかわす為に、真紅郎は空中に逃げる。そこに追い討ちのように『風』が襲い掛かってきた。
「(もう一人!)」
真紅郎は身体を後ろに移動させる事によって、幹比古の風撃によるダメージを最小限に抑える。
レオは視認出来ないし、レオよりも厄介な後衛を先に倒してしまおうと考えた真紅郎は、『不可視の弾丸』の照準を幹比古に合わせた。だが……
「幻術!?」
幹比古のローブに群がった精霊の力を利用して、幹比古は影を増やす。どれが本物か一瞬で判断出来なかった真紅郎の攻撃は不発に終わった。
「(まさかここまで対策を練ってくるとは……やはり君は一筋縄ではいかない相手なんだね)」
自分の得意魔法にこれほどまで対策を練られていた事に素直に感動し、真紅郎は視線を一瞬達也へと向けた。
その一瞬を見逃さずに、レオが再び真紅郎へと攻撃を仕掛ける。今度は上空に逃げられてもいいように頭上へと『小通連』を振り下ろす。
「しまっ!?」
自分が試合中だということは忘れてはいなかった。だがまさかあの一瞬の隙を突けるほど、レオの事を高く評価してなかったのだ。
「(ゴメン将輝……)」
このタイミングじゃいくら自分の方が上でも避けられない。そう判断して衝撃に備えて目を瞑っていた真紅郎だったが、苦悶の声は攻撃してきた相手から聞こえてきた。
「ガァッ!」
目を開けるとつい先ほどまでレオが立っていた場所に将輝の攻撃が飛んでいた跡がある。達也と対峙していた将輝だったが、視界の端で真紅郎たちの戦いを捉えていたようだったのだ。
「将輝!」
助かったという言葉を省いたお礼を将輝に向け、真紅郎は幹比古へと攻撃を繰り出す。得意魔法に拘らず加重系統の発動させる。
幹比古はいきなり重力の方向を変えられ、なす術無く地面に落ちた。そしてそこに重力が加わり、幹比古は地面に押し付けられ残っていた空気を吐き出した。
一気に雲行きが怪しくなってきた試合状況に、一高天幕では諦めの声が上がっていた。
「頑張ってたけど所詮二科生か……」
「でも、まだ司波君は頑張ってるよ?」
「時間の問題さ。何せ相手は十師族、しかもその跡取りだぞ」
期待していた分、一気に二人もやられると諦めてしまう人が多かったのだろう。事実幹部以外の殆どが、この時点で三高に勝つことを諦めていた。
「この展開はマズイな……」
「そうね……このままじゃ一条君との戦いが終わる前に吉祥寺君がモノリスに辿り着くわね」
ディフェンス二人がやられてしまった為、達也一人を心配してられる状況では無くなっているのだ。このまま真紅郎がモノリスに辿り着けば、達也がやられなくとも一高の負けは決定する。
「なにっ!?」
幹部も諦めかけたその時、将輝の気が一瞬逸れたその瞬間に、達也は将輝との距離を一気に詰めた。
「自己加速!? いや、これは……」
「はんぞー君と戦った時に見せてくれた動きね」
達也にとってはさほど大変では無い動きだが、初見の人間にとってはその動きは脅威だ。
「アイツは本当に二科生か?」
「体術が優れてるとは聞いていたが、まさかあれほどとは……」
「あれならまだ何とかなるかも」
味方内から見れば、達也の動きは頼もしいものに映るだろう。だがそれが対峙している人間から見たら如何映るのかを、全員が失念していた。
レオを撃ち落し、真紅郎が幹比古を倒したのを確認した将輝は、視線を達也へと戻した。
「ッ!?」
油断していた訳では無い。むしろ警戒していたといった方が正しい。だがほんの一瞬の隙を突かれ将輝と達也の距離は五メートルにまで詰まっていた。達也の体術ならば一投足の間合い、一投足を必要とする間合いだ。
将輝の表情に紛れも無い恐怖が浮かんだ。実戦経験のある将輝にとって、達也の動きは恐怖以外の何でもない。
試合だという事を忘れ、将輝はレギュレーション違反のオーバーアタックを達也に向けて放つ。それも一発では無く一瞬で二十発も……
「(しまっ!)」
魔法を展開してしまってからでは、最早遅すぎるのだ。将輝は我を取り戻し後悔していた。
一方の達也も、如何抵抗したものかと悩んでいた。対抗魔法『術式解体』は、一回毎にサイオンを圧縮して放つ為に非常に効率が悪い。達也本来の魔法が使えるのならば、これくらいなんてこと無いのだけれども、その魔法は大勢の人間が見ているこの場では使えない。風間にも深雪にも言われたように、達也は本来の魔法を使わずに、一撃一撃を『術式解体』で撃ち落していく。
将輝の魔法が完全に放たれるまでの間に、達也は十七発の魔法兆候を破壊した。残り三つ、だが今の体勢からでは精々一つ破壊出来れば良い方だと達也は察した。
「(これは無理だな……せめて誰にもバレ無い程度で収まれば良いのだが……)」
自分では制御する事が難しいもう一つの魔法の事を考えながら、達也は『術式解体』で将輝の魔法式を破壊する。
だがついに将輝の魔法は発動され、達也目掛けて二発のオーバーアタックが襲い掛かってきた。
一般観客席からはエリカと美月、そこから少し離れた席で紗耶香、選手席からはほのかと雫、天幕では真由美と摩利と鈴音がそれぞれ達也の名前を呼ぶ。だが深雪だけは何も発せずに戦況を見守っている。
そしてその妹の思いが裏切られる事なく、吹き飛ばされた達也は将輝の目の前に着地したのだった。
達也の事情は、次回ちゃんと説明します