劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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素性を隠すつもりがないとはいえ、これはやりすぎ


ヘヴィ・メタル・バースト

 南盾島東岸の岸壁に人工地盤を築き、その上に構築された遠隔操作の防衛陣地。その鉄の大地に、ロケットランチャーの隊列がせりあがる。防衛陣地は迅速に対潜ミサイルの発射準備を整えた。

 

「ロケットランチャーの起動を確認。衛星映像を転送します」

 

 

 その様子はUSNAの低軌道衛星に捉えられていた。そしてその映像は防衛陣地からギリギリ視認できない、水平線に隠れる距離に停止していた強襲艇に転送されていた。

 南盾島基地が、水面下のニューメキシコを探知しているのに海面上の強襲艇に気付かないのは、サイズに違いがあるとはいえ、不自然であるように思われる。実際、そこには不自然な力が働いていた。

 アンジー=シリウスとなったリーナが乗る強襲艇を操縦しているのは、スターズ第一隊所属、ラルフ=ハーディ=ミルファク少尉。ミルファクのクラスは二等星級で、一等星級の隊員に比べれば些か戦闘力は落ちるが、彼にはそれを補う魔法技術がある。ミルファクは探知装置に使われている電磁波や音波を中和する障壁を構築する領域魔法の使い手だ。通常の魔法障壁は物体やエネルギーの遮断を目的とする。物質であれば運動エネルギーの消失、運動方向の転換。エネルギーであれば中和、反射、散乱。ミルファクが得意とする対探知魔法の性質はエネルギーの中和に属する。

 リーナの頭上のハッチが開く。立ち上がる動作に合わせてシートが後方へ移動し、足元の床が持ち上がる。リフトアップされたリーナは、強襲艇のハッチから上半身を出して小銃形態の技術補助デバイスを構えた。戦術情報ネットワークからデータを引き出して遠隔照準を補助する機能を持つ特化型CADだ。

 

「映像を確認。照準、中央ロケットランチャー」

 

 

 リーナが指差し確認の要領で、自分自身に対して狙う対象を指示。バイザーに浮かび上がるクロスゲージに防衛陣地中央のランチャーを合わせる。探査衛星が観測した当該ランチャーとリーナの相対座標データを起動式の座標データに変換したものが、ニューメキシコから強襲艇を経由してCADに送信される。

 

「起動式展開」

 

 

 リーナが小銃形態CADの引き金を引いた。ターゲットの座標データを追加した起動式が展開されて、リーナの中に流れ込む。

 

「ヘヴィ・メタル・バースト、発動!」

 

 

 発声によって明確化された意思が、構築された魔法式をリーナの「外」へ送り出す。

 

 戦略級魔法、ヘヴィ・メタル・バーストが発動した。

 

 

 中央のロケットランチャーが激しい放電と共に、丸ごとその形を失う。ロケットランチャーを焼き、ミサイルを誘爆させ、人工地盤を溶かし、溶岩の大地を抉る。海にこぼれたプラズマが、海面を煮えたぎらせる。岩肌を赤く熱された火山灰に変えて、プラズマが防衛陣地後背の斜面を駆けあがる。灼熱の火山灰とプラズマからなる雲は、稜線を越えて南盾島上空に広がった・熱く暗い雲の中を、電光が縦横に走る。それはまるで、終末を告げているような光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南盾島司令は、パニックに陥っていた。

 

「東岸防衛陣地のコントロール、消失。完全に破壊されたものと推測されます!」

 

「電磁波障害により全てのレーダーが麻痺しています!」

 

「偵察ドローンとの交信も途絶えました!」

 

 

 何が起こっているのか理解出来ないのは司令官も同じだ。だが彼は、最高責任者としての矜持で辛うじて自分を保っていた。

 

「レーダーと通信機器以外の電子機器に異常は見られないな?」

 

「ハッ! 戦術コンピューターを含め、電子機器は正常に作動しております!」

 

「EMP兵器による攻撃ではないか……敵が東岸陣地を攻撃した手段は分かるか?」

 

 

 司令官は、領海侵犯をしている潜水艦が同盟国の物だという推測を、一先ず忘れる事にした。基地の一部を破壊されたのだから、敵であることに最早疑いの余地はない。

 

「ミサイル、フレミングランチャーなどの飛翔物による攻撃ではありません」

 

「まさか、荷電粒子砲か? ……いや、あり得んな。となると、魔法か……? まさか……」

 

 

 司令官の呟きはそこで止まった。彼の脳裏に浮かんだのは、有名な戦略級魔法の名前。あの国が、それを実戦で使った事はない。少なくとも、知られていない。

 戦略級魔法の中でもずば抜けた破壊力を持っているが故に、使われない抑止力としてあの国はそれを扱ってきた。それが使われたと考える事は、彼のキャパシティを超えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘヴィ・メタル・バーストの爆発は、克人のいる応接室も揺らした。窓が鳴り、照明が不規則に明滅する。

 

「これは……」

 

 

 突然の揺れに、克人は驚いて立ち上がる――ような反応は見せなかった。ソファに座ったまま、ただ視線を巡らせた。

 顔を横に向ける。彼が振り向いた先は壁。その向こうには、東岸の防衛陣地があった。

 

「この魔法は、まさか?」

 

 

 きわめて強力な、克人でさえ初めて感じるような、強烈な波動。

 

「(いや……初めてではない。二回目だ)」

 

 

 横浜事変のあの日、侵攻軍の船が逃げていった先の、遥か南の海上で生じた、世界の根幹に踏み込む事象改変。あの時に匹敵する、世界を深く揺るがす波動だ。

 克人は立ち上がり、窓際に歩み寄った。雷鳴轟く、暗雲に覆われた空を見上げる。

 

「――間違いない」

 

 

 克人の中で、疑念は確信に変わった。彼は案内を呼ぶために、テーブルの端末を操作した。




USNAは恍けられると思ってるのだろうか
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