劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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使えそうな人は使いましょう


救出の前に

 地下二階に移動した達也は警備兵が二人、わざわざドアの前に立っている気配を感知した。監視カメラがあるにも拘わらず扉の番をしている兵士を見たのは、この施設に侵入してから初めてだった。そこに盛永が囚われていると確信したわけではないが、確かめてみる価値あると考えて実行に移した。

 廊下を曲がり、警備兵を視認するや否や、達也は部分分解の魔法を発動し、二人の警備兵は激痛で意識を失い倒れた。

 達也は、警備兵が護っていたドアを分解した。砂となって崩れた扉の向こうには、白衣を着た女性がいた。

 

「貴方は?」

 

 

 達也はその質問には答えず、天井にCADを向け、監視装置を分解した。

 

「九亜という少女を知っているか?」

 

 

 第三者に会話を聞かれる可能性を潰してから、達也はそう尋ねた。

 

「九亜の事を知っているの!? あの子は、あの子は無事なのね!?」

 

「無事だ。貴女が盛永さんか」

 

「ええ……そうです。貴方はもしや、七草家の方ですか?」

 

「そのようなものだ」

 

 

 真由美の縁でここに来たのだから「そのようなもの」と言っても間違いではない。達也は自分でも信じていない理屈で平然と嘘を吐いた。

 

「よかった……」

 

「九亜を逃がしたことがバレたのか?」

 

 

 照明と監視装置以外何もない、壁も床もクッションで覆われていて自殺すら出来ない、閉じ込めておくためだけの部屋を見回して、達也が盛永に尋ねる。調整体の逃亡を唆した主犯にしては、消極的な扱いに思えたのだ。

 

「いいえ。九亜に逃げられた監督不行き届きを咎められて判決待ちです。おそらく、ここを弄られる事になるでしょう」

 

 

 盛永は自嘲的な表情で、自分のこめかみを指差した。洗脳する、という事だろう。それを理解しても、達也は義憤に駆られたりはせず「まあ、妥当だろうな」と思っただけだ。

 

「俺たちは九亜から他の八人も助け出して欲しいという依頼を受けている。協力するなら、貴方たちの逃亡にも手を貸そう」

 

「あの子たちを助けてくれるんですか!? お願いします! 私たちの事は見捨ててくれても構わないわ。どうかあの子たちを!」

 

 

 盛永の反応は、達也の予想を超えて熱が入っていた。その姿に、達也は共感を覚えるのではなく、逆に心が冷めた。

 

「そんなに心配するくらいなら、何故あんな実験をした」

 

 

 盛永を見る達也の目は冷え切っている。

 

「精神の強制リンクなど、ろくな結果にならないと分かり切っている」

 

 

 達也がどんな表情をしているのか、ヘルメットに遮られて盛永には分からない。だが声音と雰囲気で、自分が軽蔑されているのは分かった。

 

「……貴方の言う通りよ。私たちは思いあがっていました。いえ、焦っていたのね。陸軍が大亜連合艦隊を殲滅するために投入した戦略級魔法……その成果である『灼熱のハロウィン』を目の当たりにして、海軍はあの魔法と同等以上の威力を持つ戦略級魔法の実用化を求めました。おそらくは、陸軍との勢力争いの為に……そして私たちは、自分たちにそれが可能だと思っていたのです。ですがそれは、私たちの罪! あの子たちは犠牲者です! あの子たちを助ける為なら、私はどうなっても構いません! ですから!」

 

 

 達也は盛永の訴えに、心を動かされなかった。盛永が言う「あの子たち」――調整体「わたつみシリーズ」を助けるのは、達也にとって既定路線だ。彼はただ、自分が感情的になって無意味な問答をしてしまった事を反省していた。

 

「残りの八人は何処にいる?」

 

 

 盛永の懇願の後に、達也はただ、それだけを尋ねた。その問いかけに、盛永が希望に目を輝かせる。

 

「ご案内します!」

 

 

 達也は頷き、盛永に先導させる為に道を空けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 克人は彼をこのビルに連れてきた一等兵に案内させて、半ば強引に指令室を訪れた。

 

「非常時につき、このままで失礼する。それで、緊急のご用件とは?」

 

「先ほど、島の南東海岸部で生じた爆発は魔法によるものです。高い確率で、ヘヴィ・メタル・バーストだと推測されます」

 

 

 克人の声が聞こえる範囲にいたスタッフの間に動揺が走った。ヘヴィ・メタル・バースト。USNA国家公認戦略級魔法師、アンジー=シリウスの代名詞ともいえる魔法。ヘヴィ・メタル・バーストが使われたという事は、USNA軍から攻撃を受けたという意味になる。

 

「やはりそうですか」

 

 

 司令官の動揺は小さかった。彼の声音からは「馬鹿な」という驚きではなく「そうであってほしくなかった」という諦めが滲み出ていた。

 

「あれは陽動です」

 

 

 克人はあえて慰めの言葉を掛けずに、本題を続けた。

 

「本命は高レベル魔法師を当基地に潜入させ、破壊工作を行う事だと考えられます」

 

 

 司令官は「何が目的で」とは問わなかった。克人はそれで、この基地にUSNA軍の標的になるものが隠されていると悟った。それがおそらく、魔法協会へ提出された訴えに深く関わっているという事も。それが何か、克人は問い詰めなかった。かわりに克人は、司令官に申し出た。

 

「御力に慣れると思いますが」

 

「……撃退にご助力いただけると?」

 

「邪魔でなければ」

 

「邪魔などと、滅相もない。是非、力をお貸頂きたい」

 

「承知しました。戦闘服をお借り出来ますか」

 

「もちろんです」

 

 

 そう答えて司令官は、指令室の外に控えたままの一等兵に克人の案内をさせるよう指図した。




克人も凄みが半端ないからな

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