劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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しっかりと練らないとマズい状況ですから


作戦会議

 達也とリーナは、防衛陣地跡にすぐ現れた。到着は達也の方が一足早く、遅れて現れたリーナは、達也の格好に度肝を抜かれているのか、スモークバイザーに隠された顔を彼に向けたまましばらく動かなかった。

 リーナのそんな反応は無視して、達也はフェイスガードを開いて、何が起こっているのか簡単に説明する。隕石爆弾の事は伏せて、廃棄戦略軍事衛星セブンス・プレイグが二十四時間以内に落下する事と、その被害予測を三人に話した。

 

「二十四時間以内……!? それ、本当なの?」

 

 

 達也の説明に最も驚いたのは、セブンス・プレイグの事を詳しく知っているはずのリーナだった。彼女はバイザーを上げて、驚きの目を達也に向けている。

 

「実際はもっと早いだろう」

 

「それをお兄様が阻止……いえ、無害化されるのですね」

 

 

 表情が固まったままのリーナを他所に、深雪は達也の事を信頼しきった顔で尋ねた。

 

「そのつもりだ。だが想定外の理由で、地上からその衛星を照準出来ない。そこでリーナ」

 

「何よ」

 

 

 達也から向けられた視線に、リーナは子供のようなふくれっ面を返したが、達也は全く気にした様子は無かった。

 

「まず君に、俺を高度百四十キロまで運んでほしい。それも十分以内に」

 

 

 十分以内という条件には、衛星が地球を周回してこの島の上空から照準可能な位置に到達する時間と、リーナを説得して実際に宇宙へ飛び立つまでの時間が考慮されていた。

 

「高度百四十キロなんて、もう宇宙じゃない!」

 

 

 リーナが驚いて叫ぶ。彼女が言っている事は、ある意味で最もなのだ。何処からが宇宙か、その基準の一つにカーマン・ラインと呼ばれるものがある。この高さが海抜高度百キロメートル。この基準に従えば、高度百四十キロは確かに宇宙だ。

 

「浮遊物質の影響を避けるためなら、成層圏まで上がれば十分じゃないの?」

 

「今から使おうとしている魔法は何度も撃てるものじゃない。俺の魔法力では一発勝負になる。だから、なるべく確実を期したい」

 

 

 リーナからの提案に、達也を首を横に振り答えた。彼の答えは嘘ではないが、全てを告げたわけでは無かった。高度百四十キロくらいまでは、突入してきた物体による大気のプラズマ化もそれほど激しくないが、それより高度が下がればプラズマの発光で正確な照準が難しくなる可能性がある。既にそこまで高度が下がっていればどうしようもないが、そのケースはとりあえず想定から外し、何としてもプラズマの炎で照準が妨げられる前にセブンス・プレイグを処理する。達也のリクエストには、そういう「背水の陣」的な意味合いがあった。

 

「それとも、出来ないのか?」

 

「出来るわよ! 慣性制御による負荷軽減も含めて、完璧にオーダーをこなしてみせるわ! ……でも、さすがの私も帰りまではフォロー出来ないわよ」

 

 

 達也の意地の悪い口調での挑発にまんまと乗ったリーナだったが、彼女は心配そうな声で付け加えた。厚意で自分の身を案じてくれているリーナには失礼かもしれないが、達也はそこまで彼女に委ねるつもりは無かった。それだったら、わざわざ深雪がいる場所を集合地点にしたりはしない。

 

「それを深雪に頼みたい。深雪、俺は魔法力をほぼ使い切った状態で落ちてくるだろう。受け止めてくれるか?」

 

「お任せください、お兄様。私の全てに代えましても」

 

 

 達也に見つめられた深雪は、彼の目を見つめ返した。その眼差しには、狂おしい程の熱がこもっている。

 

「私の魔法で、お兄様を無事にこの場にお迎え致します」

 

 

 深雪の瞳には、微かな揺らぎもない。自分の全てに代えてもという言葉は、微塵の――いや、極微の嘘偽りのない、彼女の本心だった。

 

「頼むぞ、深雪」

 

「はい!」

 

 

 恋人同士としか思えない眼差しを交わす達也と深雪、特に深雪の様子に呆れたリーナは、二人の間に割って入ってその雰囲気をぶち壊した。

 

「こんなことで時間を使ってる場合ではないんじゃないの? 達也、私の方は何時でも良いわよ」

 

「そうか。なら急いで準備を整えよう」

 

 

 リーナが割って入ってきた事にムッとした表情を浮かべた深雪だったが、彼女が言っている事はもっともなのですぐに表情を改めた。深雪の機嫌が落ち着いたのを見計らって、今度は幹比古が達也に話しかける。

 

「達也、僕は何をすればいい?」

 

「邪魔者を排除してくれ。後は……成功を祈っておいてくれ」

 

「分かった」

 

 

 達也が冗談交じりの微笑みと共に答えを返すと、幹比古は苦笑いをしてそれに応えた。

 

「私も心よりお祈りしております、お兄様」

 

 

 二人の会話に深雪がすかさず便乗し、リーナに意味ありげな笑みを向ける。深雪に視線を向けられたリーナは、少し慌てた様子で答えた。

 

「ふ、ふんっ! 仕方がないから、私もちょーっとだけお祈りしてあげるわ!」

 

「そんな気持ちで祈られても、神様は嬉しくないのじゃなくて?」

 

「別にどんな気持ちだろうと、祈ることに意味があるのよ!」

 

「深雪、リーナを虐めるな。リーナも安い挑発に乗るようでは、今の仕事は務まらないんじゃないのか?」

 

「申し訳ございません、お兄様」

 

「それを言われると……」

 

 

 達也の指摘に、深雪は素直に頭を下げリーナを弄ることを止め、リーナは困ったように頭を掻きながら深雪と達也から視線を逸らして、吹けない口笛を吹いてみせたのだった。




祈らなくても出来そうだけどな……

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