劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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さすがはお兄様ですね


お疲れ様でした

 南盾島上空にオーロラが広がった。ベータ・トライデントによって取り出された電子と陽子が、高層の空気を電離させ、オーロラを生み出しているのだ。

 深雪もリーナも、ベータ・トライデントの説明は受けていない。達也は自分が何をするつもりなのか、話していなかった。だが彼女たちは二人とも、夜空を彩るオーロラは達也が成し遂げた証なのだと、直感的に悟った。

 

「成功したみたいね」

 

 

 リーナが、クールを他所った呟きを漏らす。幹比古が彼女の呟きに頷いている。

 

「さすがです……お兄様」

 

 

 深雪はオーロラを見上げたまま恍惚の笑みを浮かべ、空に向かって両手を広げた。

 

「ねぇミキ、深雪は大丈夫なの?」

 

「ある意味いつも通りですし、大丈夫なのではありませんか」

 

「何時も通り、ね……これが普通に思える時点で、私もだいぶ毒されてるのかしら」

 

「リーナさんは、深雪さんと一緒にいる時間が長かったからじゃないですかね?」

 

「こんなことに慣れたくなかったわよ……」

 

 

 リーナが零したセリフに、幹比古は苦笑いを浮かべて同意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 民間港にたどり着いたエリカ、レオ、克人、そしてわたつみシリーズと盛永たちも、オーロラを見上げていた。

 

「凄く、綺麗、です」

 

「これもあのお兄さんがやったのかな?」

 

 

 見たことも無い壮観な光景に、少女たちは素直に喜んでいる。そんな中、四亜だけはこれが達也がやったものだと直感していた。

 

「こんな場所でオーロラ……? 非科学的過ぎる」

 

 

 盛永たち大人は、あるはずのない光景に立ちすくみ、ブツブツと何かを呟いている。

 

「千葉、西城」

 

「はい」

 

「なんすか?」

 

「これも、司波がやったのか?」

 

「あたしたちは詳しい事は知りませんし、知っていたとしても教えられませんよ」

 

「もし話したとしたら、俺たちもああなるかもしれませんし」

 

 

 そして少女たちよりも少し年上の魔法師は、驚きを露わにしてオーロラを見詰めていた。オーロラの彼方から地上にまで伝わった、あまりにも強大な魔法の気配。

 

「(これが、司波の本当の実力なのか?)」

 

 

 その魔法の気配は、克人ですらも戦慄を禁じ得なかった。

 

「(何をしたのかは分からないけど、達也くんは九亜たちを本当の意味で救ったんだね)」

 

 

 戦慄を覚えている中でも、エリカは達也がわたつみシリーズの少女たちを完全にこの場から救い出したのだと直感していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強大な魔法の気配は、ニューメキシコ艦内のカノープスにも伝わった。発令所のモニターに、この異常なオーロラの暫定的な分析結果が表示される。

 

「大量の中性子がベータ崩壊した? まさか、セブンス・プレイグが……? しかし、どうやって?」

 

「総隊長殿の魔法じゃ無いのか?」

 

「総隊長殿の魔法では、こんな風にはなりません」

 

 

 驚愕の強いる沈黙が支配する中、カノープスの呆然とした声に自分の考えを返した艦長だったが、その問いかけに対する返答は、呆然とした声だった。いったい誰がこんなことをしたのか、USNAはまた新たな戦略級魔法師が誕生したのではないかと恐れを懐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也は、自分を優しく包み込む魔法の波動に意識を取り戻した。すぐに、これが深雪の気配だと気づいた。気を失っていたのは、ほんの短い時間だ。だがそれでも、相当の距離を落下していた。

 今もかなりの速度で降りている。堕ちているのではなかった。深雪が自分を支えている。達也にはそれが分かった。

 スーツの機能は回復している。残念ながら自力飛行はまだ無理だが、魔法に関する機能以外、例えばセンサーは正常に稼働中だ。

 もう大気が随分と濃くなっているにも拘わらず、ヘルメットの外部マイクはさっきから風を切る音を拾っていない。深雪の魔法は、柔らかな繭のように達也を包んでいるのだ。

 達也の肉眼でも南盾島が見えてくる。海に浮かぶ島は達也の視界の中でみるみる大きくなっていき、防衛陣地跡とそこに立つ深雪が肉眼で見分けられるようになる。そのタイミングで降下速度が落ちた。達也の身体が回転し、足が地に向く。彼は着地の体勢を取った。達也は腕を広げた深雪に抱きつかれるような恰好で、地上に帰還した。

 

「お兄様!」

 

 

 深雪が達也にしがみつく。涙をいっぱいに溜めた目で達也を見上げる。

 

「お帰りなさいませ、お兄様……お疲れ様でした」

 

 

 達也は深雪の頭を優しく撫で、彼女の労いに応えた。

 

「ああ。任務……ではないが、完了だ」

 

 

 深雪が達也に強く抱きつく。達也は深雪の背中に、そっと手を回した。

 

「お疲れ様、達也。相変わらず訳の分からない魔法を使うわね、貴方は」

 

「リーナもご苦労だったな。誤差なくやってくれて助かった」

 

「あのままセブンス・プレイグが堕ちてくれば、私たちにだって無関係じゃ済まなっただろうし、せっかく無害化してくれるって魔法師がいるんだから、それを手伝わない手はないわよ」

 

「随分と早口ね、リーナ。照れてるのかしら?」

 

「そ、そんなわけ無いでしょ! というか、何時まで抱き着いてるのよ! 兄妹でそんなことしてるなんて、アブノーマルよ!」

 

「あはは。何時も通りな感じだけど、達也はやっぱり凄いね」

 

「幹比古の祈りが効いたのかもな」

 

 

 目の前で深雪とリーナが言い争ってるにも拘わらず、達也と幹比古は笑顔で突き出した拳をぶつけ合い、互いに労ったのだった。




次で星を呼ぶ少女編は終わりです

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