四亜たちはエリカとレオが乗ってきたクルーザーで南盾島を離れた。操船は盛永の同僚の江崎が務めた。達也、深雪、そして幹比古は防衛陣地跡に着陸したティルトローター機で飛び去った。煮えたぎる溶岩とは違い、凍り付いているだけなら伊達も平気であるようだ。
飛行機は媒島ではなく父島に着陸し、クルーザー組を乗せて横浜に向かった。なお達也は、誰もいなくなったクルーザーに戻って着替えを済ませ、私物を回収し、何食わぬ顔で離陸直前のティルトローター機に乗り込んだ。
「達也くん、おつかれー」
「エリカたちも、何とか無事のようだな」
「レオはやられそうだったけどね」
「おめぇだって、得物をぶった切られてただろうが!」
「余計な事を言うな!」
「ぶった切られた? 分子ディバイダーでも使われたのか?」
「たぶんね。あたしには視る事が出来なかったから、今度会ったら倍返ししてやるんだから!」
「恐らく会う事は無いと思うがな」
USNA軍の潜水艦が潜航している方に目を向け、達也はそう答えたのだった。
「ところで、何で達也くんが一番後ろなの? 前に座ってればいいのに」
「四亜たちは兎も角、盛永さんたちには顔を見られたくないからだ」
「あぁ。そういえばずっと隠してたもんね」
そんな会話をしていると、いよいよ魔法協会関東支部が入居している横浜ベイヒルズタワーが見えてきた。屋上にあるヘリポートには、ほのかと雫と美月、そして九亜が立っている。
「九亜!」
その姿を見つけた盛永が、泣き出しそうな顔でその名前を叫び、四亜たちも九亜の存在に気が付いた。ヘリが着陸しタラップを下ろすと、四亜たちわたつみシリーズの少女たちが九亜に駆け寄り、そして抱き合って再会を喜んだ。
「達也さん、お疲れさまでした」
「約束だったからな。必ず無事に送り届けるって」
「九亜たち、嬉しそう」
泣きながら喜んでいるわたつみシリーズの少女たちを見詰めるほのかと雫の目にも、光るものがあったのだった。
表面的には手ぶらで東京に帰還した克人は、魔法協会関東支部でテレビ会議の準備を終えて、他の九家に今回の件についての報告をしていた。
「――以上が今回の事の顛末となります」
「その戦略級魔法のオペレーターとして使われていた少女たちですが、どのようにするのが一番でしょうか?」
克人の報告を聞き終えて、議題はわたつみシリーズの少女たちの処遇に移った。彼女たちは、世話役の研究員も含め、いったん北山家が身柄を預かっている。これは達也が救出前にお願いしたからもあるが、雫たちは最初からそのつもりだったようだ。だがその状態を今後も続けるのは不適当だと、十師族は考えていた。
「当初、盛永研究員から救助を求められたのは当家です。最後まで我が七草家でお世話させていただきたいと思うのですが」
七草弘一の発言に、やんわりと反論したのは四葉真夜だった。
「七草殿の責任感はご立派だと思いますが、東京近郊では国防軍の目が厳しくはありませんこと?」
「大丈夫ですよ。国防軍の不当な干渉を退けるくらいの力は、当家にもありますので」
「それは存じ上げておりますわ。ですが避けられる摩擦は避けた方が良いと思いますのよ」
言葉を武器とした二人の争いに口を挿んだのは、一条剛毅だった。
「では、四葉殿がわたつみシリーズを引き受けられると?」
「ええ。当家は精神体の治療についても、多少のノウハウを持っております。魔法の影響で自我崩壊を起こしかけているという女の子のお世話は、我が四葉家が適していると思います」
「そうですね。調整体関係のノウハウならば、我が八代家も決して引けを取っているとは思いませんが、精神体関係では四葉家に及びません」
「精神体の治療でしたら、九島家も得意とされているのでは?」
「えぇ、五輪殿。ですが今回は、四葉殿にお任せしたいと思っています」
「では四葉殿、わたつみシリーズの少女たちの受け入れをお願いできますでしょうか?」
「構いませんよ。迎えはこちらで出しますので、十文字殿には北山家への連絡をお願い出来ますでしょうか?」
「かしこまりました」
九島家が辞退したことで、会議は一気に終息に向かい、克人が北山家に連絡するという事で話は纏まったのだった。
北山家の玄関前に、三台のリムジンが駐った。屋敷の中から、わたつみシリーズの少女たちが出てくる。彼女たちは次々にリムジンへ乗り込んだ。そんななか、九亜と四亜が最後に残った。九亜はエリカとほのかに抱きついて泣き、四亜はレオに髪がくしゃくしゃになるまで頭を撫でられて、迷惑そうな顔をしている。
レオの手から逃れた四亜が、九亜に声をかけて、二人は見送りの列の一番後ろにいた達也と深雪の前に移動した。
「お兄さん、私たちを助けてくれてありがとう」
「お礼なら九亜に言ってやってくれ。九亜が君たちも助けたいと願わなかったら、俺はきっと動かなかっただろう」
「ううん、九亜が願っても、お兄さんの力が無かったら私たちは助からなかった。だから、ありがとう」
四亜が生意気な感じで微笑みながらお礼を言った隣で、九亜が照れながら達也に笑みを向け、そして口を開いた。
「ありがとう、お兄さん。本当に嬉しかった、です」
「ああ。みんな仲良くな」
達也の言葉に九亜は、満面の笑みを浮かべて頷いたのだった。
九亜より四亜の方が好きかもしれないと気づいた……