劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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結構えげつない魔法


霹靂塔の効果

 美月の表情を見て、達也は幹比古に視線を向けた。「説明を代わってみるか」というアイコンタクトで、幹比古はその誘いに応じた。美月に良い所を見せよう、という意思が無かったと言えば、多分嘘になるだろう。

 

「簡単に言うと、電子雪崩を引き起こす魔法は雷に必要な電気を作り出す為のプロセスで、電気抵抗を不均等に引き下げるというのは、丁度絶縁破壊が起こるレベルに抵抗値を設定するプロセスなんだ。それを短いインターバルを置いて断続的に引き起こす事によって、落雷を連続発生させる」

 

「……つまり、雷を次々と落とす魔法なんですね?」

 

 

 幹比古の説明を一言も聞き逃すまいと真剣な顔つきで彼の顔を凝視していた美月だったが、あまり理解出来ているとは言い難かった。

 

「そうだね。その理解で正しいよ」

 

 

 しかし、幹比古の採点は甘かった。それが誰にでもそうなのか、美月に限定しての事なのかは、この場だけでは分からない。

 

「霹靂塔の特徴は、単発の威力より手数を重視しているところにある」

 

 

 そこで言葉を区切って、幹比古がチラリと達也に目を向ける、達也が目だけで頷くと、少し自信が無かったのか、幹比古は微かにホッとしたような表情を見せた。

 

「……一ヵ所に超強力な雷を落とすのではなく、一度の魔法でそれなりの威力の雷を広い範囲に降らせる。軽装の歩兵には悪夢のような魔法だけど、ある程度しっかりした落雷対策をしておけば致命傷にはならなかったんだ。だけどこの魔法には、予想を超えた別の効果があった」

 

「それがインフラ破壊なんですか?」

 

「そう。短いインターバルを置いて断続的に落雷が発生するという事は、その一帯の電磁界が連続して急激に変動するという事だ。しかもその瞬間はエリア内の全ての物体の電気抵抗が、ギリギリで絶縁破壊を引き起こすレベルにまで引き下げられている。細かい説明を省くと、霹靂塔は広い範囲で電子機器に深刻なダメージを発生させる魔法なんだ」

 

「つまり霹靂塔の正体は、魔法によるEMP兵器ってことか」

 

「原理は違うけど、効果を見ればそう言えるね」

 

 

 ここでレオが口を挿んだ。美月との語らいを邪魔されても、幹比古は気分を害すことは無かった。

 

「直接的な殺傷力が高くないから、死者は少なかった。その理屈は分かったような気がするぜ。でもよ、そうすると別の疑問が出てくるんだが」

 

「疑問って、何?」

 

「ずっと陣取り合戦が続いていた紛争地帯だ。高度に技術化した都市の建設なんて出来ないだろ? EMP兵器でダメージを受けるような機械は資源採掘設備くらいなもんだと思うんだけど?」

 

「詳しい事は分からないけど、そうだろうね」

 

「その採掘施設を今抑えているのは大亜連合だろ? だったら、EMP兵器で被害を受けるのは大亜連合じゃねぇか。自分たちの損になるような魔法を何で使ったんだ?」

 

 

 レオに疑問に対しての答えを持たなかった幹比古は、助けを求めるような視線を達也に向けた。幹比古以外からも視線を向けられても、達也は慌てず騒がず、おもむろに口を開いた。

 

「ニジェール・デルタ地域では最近、大亜連合が劣勢に陥っていると伝えられている。フランスが提供した無人自動兵器の所為で、実質的に支配していた地域の約半分を敵対武装集団に奪われてしまったらしい」

 

 

 この説明だけで、レオはピンときたようだ。学校での成績は並みでも、やはりレオはバカではないのだろう。

 

「無人自動兵器……? それでか」

 

「採掘施設にダメージを与えても、無人兵器の無力化を優先したんだね」

 

 

 幹比古も同じ理解に達していた。よく見れば周りのメンバーも二人の答えに納得したような表情で頷いていたが、達也は二人の解釈に満点を与えなかった。

 

「自国の勢力圏内で霹靂塔を使った動機は無人兵器対策だろう。だがあの魔法は言うまでもなく、殺傷力を有する。十分な避雷装備を持たない軽装な兵士や、平服の民間人ならば簡単に命を奪う」

 

 

 レオと幹比古の顔が強張る。彼らは人的被害がゼロでは無かったという事を失念していた。

 

「実際の死傷者数は……発表されている数を上回ると?」

 

 

 こう尋ねたのは深雪だ。レオと幹比古は既に答えに達したのか難しい顔で無言を貫いており、ほのかたちには衝撃が強すぎて言葉を発する余裕がない。深雪も余裕があるわけではないのか、恐る恐ると言った感じでしか達也に問い掛けられなかった。

 

「霹靂塔の厄介な点は、医療施設も麻痺させてしまう事だ。即死でなくても、助からない者も多いだろうな……」

 

 

 達也が暗い表情で答えた。彼も人の死に無関心ではないので、助けられる命が助からないという事には、少なからず心を痛めるのだ。

 人の死において他の人間より達観している達也ですら暗い表情を浮かべるのだから、普通の女子高生であるほのかや美月、雫の表情はそれよりもさらに酷い物になっている。

 

「じゃあ達也は、最終的にはどれくらいの死傷者が出ると思うの?」

 

「少なくとも現時点で発表されている人数の二倍……下手をすれば三倍以上の死傷者が出るかもしれないだろうな」

 

「三倍以上……」

 

 

 その中には当然戦死者も含まれるのだろうが、それだって医療機器が生きていれば助けられたかもしれない命だ。間接的に霹靂塔で命を奪われたと言えなくもないと、この場にいる全員が理解したのだった。




EMP兵器は間接的被害の方が面倒ですからね……

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