劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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千秋も達也側なので


報復の魔法

 一昨年、二〇九五年の九校戦において、達也は自らが考案した『アクティブ・エアー・マイン(能動空中機雷)』という魔法を雫に使わせた。雫はこの魔法で新人戦スピード・シューティング優勝の栄冠を勝ち取り、『アクティブ・エアー・マイン』は魔法大学が編纂する魔法の百科事典『魔法大全』に新種魔法として収録される事になった。

 しかし当時はまだ四葉家の日陰者だった達也は新魔法の開発者としての脚光を浴びる事を嫌い、雫を開発者として登録しようとした。だが雫は他人の手柄を横取りするような提案に頷くはずもなく、結局『アクティブ・エアー・マイン』は開発者不明として仮収録の形で留め置かれた。結局この魔法が正式に収録されたのは、今年の一月だった。四葉家の中で「当主の息子」「次期当主」という地位を達也が手に入れた事により、隠す必要が無くなったからだが、もちろん達也の方から名乗り出たわけではない。魔法大学は当時から真の開発者が達也であることを把握していて、定期的にアプローチを続けていたというのが真相だ。達也が四葉の次期当主だと発表されたことにより、魔法大学は事態の背景に何があったのかを覚ったのだろう。年が明けてからすぐに、達也の許へ説得の電話が掛かってきた。何時までも仮収録のままでは体裁が悪いからという泣き落としの電話が。

 だから本当は乗り気ではなかったのだが、今日になって自分の名前を載せておいてよかったと、達也はしみじみと感じていた。もし雫の名前で載せていたら、彼女に迷惑をかけていたからだ。

 達也の席は、去年と同じ通路側の窓側だ。始業前、その三年E組の教室では、彼の方を見てヒソヒソと囁き交わす生徒の姿が目立っていた。廊下側の窓から内側へ上半身を乗り出しているエリカが、じろりと教室内を見渡す。偶々目が合った生徒が、慌てて顔をそむけた。そのタイミングで、幹比古が教室内に入ってきて達也に声をかけた。

 

「達也が考案した魔法、アクティブ・エアー・マインを武装ゲリラが使ったという話、本当なのかな? 戦術級クラスの破壊力があったんだよね? あの魔法にそれほどの出力があるとは思えないんだけど」

 

 

 興味本位からではなく、達也を心配してわざわざ自分の教室までやってきたと分かっているので、エリカは幹比古に鋭い視線は向けなかった。

 

「殆どの魔法に当てはまることだが、あの魔法にも威力上限はない。規模とスピードにトレード・オフの関係はあるが、魔法師次第で威力はいくらでも上がる。気を遣ってくれるのはありがたいが、死体の状況から見て、あの魔法が使われたのは確実だろう」

 

 

 達也が淡々と答えを返すと、幹比古が顔を曇らせ、教室内の噂話は一層活発になった。クラスメイトの口の端に上がっている話題は、今朝各メディアで報じられたニュースだ。

 二日前、アフリカで戦略級魔法が使用され、多数の死傷者が出た。言質を実質的に支配している大亜連合の発表では、昨日の時点で死者は九百人に満たない。それでも大量の死者が出たと言って良い規模だが、実際には現地人だけで死者は三千人を超えていると欧米のマスコミは推測している。現地人の中には武装ゲリラも含まれているだろう。ゲリラとすら言えないテロリストも紛れていたに違いない。だが、大勢の民間人を含んでいる事も確実だった。

 そして昨晩、その報復が行われた。中央アジアの大亜連合基地が武装ゲリラに襲われたのだ。襲った組織はニジェール・デルタ解放軍。国際テロ組織ニジェール・デルタ解放運動の流れを汲むと自称する武装勢力で、タイミング的に彼らは、戦略級魔法・霹靂塔の使用に関係なく大亜連合基地の攻撃を企んでいたはずだ。無差別攻撃への対抗措置は後付けの理由に過ぎない。

 報復成功の声明を出したのは、奇襲の中心となったギニア西海岸出身の少女魔法師、エフィア・メンサー。そして彼女が使った魔法がアクティブ・エアー・マインだった。

 アクティブ・エアー・マインは疎密波を発生させる振動場により個体を脆弱化させて粉砕する魔法だ。この魔法が作り出す振動領域に捕らえられた人間は、全身の骨が砕かれ血袋となって絶命する。それが今回、エフィア・メンサーが人間に向けて初めて使用したことにより判明した。

 

「使われたのが達也くんの作った魔法だとしても、犠牲者が出たのは当事者の問題じゃない。達也くんに何の責任があるっていうのよ」

 

 

 エリカが苛立たしげに舌打ちをする。達也のクラスメイトは大半が気まずいという表情で顔を背けたが、当事者の達也は苦笑いを浮かべていた。

 

「見知らぬゲリラより、知っている開発者を責める方がやりやすいんだろ。使った人間ではなく、作った人間を非難するなんて、昔からよくあることだ」

 

「ノーベルのダイナマイトにアインシュタインの原子爆弾。因縁のつけようなんていくらでもあるもんだ。マスコミ連中なんて、さっそく魔法大学にどう責任を取るのか聞きに行ってるみたいだぜ」

 

「アホらし……そんな暇があるなら議員の不正でも追いかけてなさいよ」

 

 

 レオの言葉にエリカが心底つまらなそうに呟くと、達也だけでなく幹比古とずっと隣に座っていた美月までもが苦笑いを浮かべたのだった。




これだからマズゴミは……

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