マスコミたちが押し寄せてきた所為で、魔法大学側も記者会見を開かざるを得ない状況に追いやられてしまった。
『魔法大学に責任は無いと主張するんですね?』
『魔法大全は魔法学の研究成果を纏める物であり、魔法大学は研究機関としての役目を果たしているだけです』
テレビの中で居丈高な記者の詰問に対して応える魔法大学の広報担当職員は、口調こそしっかりしているが、相手の勢いに怯んでいるのか顔色があまり良くなかった。
『では、人殺しの魔法を開発した一高生に責任があるという事ですか?』
『一高生に責任などありません!』
『ですが現に、魔法科高校生が全国魔法科高校親善魔法競技大会用に開発した魔法で、百人以上の死者が出ているんですが』
『戦死者でしょう。その責任は魔法を兵器として使った武装ゲリラが負うものであって、魔法を作った人間の物ではありません』
『そうでしょうか。通常兵器も、毒ガスやダムダム弾のように残虐な物は条約で禁止されています。国際的に、非人道的兵器は違法と定められているわけです』
『アクティブ・エアー・マインは兵器ではありません!』
『しかしですね、厳に兵器として使用されたわけですし。それに「機雷」という名称をつけたくらいですから、最初っから兵器としての使用も視野に入れていたのではありませんか?』
最初っから魔法を作った人間が悪いと決めつけている記者の質問に対して、職員はいら立ちを覚えていた。
『非人道的兵器は所有も開発も違法であるというのが国際社会のコンセンサスです。我が国が国際社会から人道の敵と非難されないようにする為には、大学が学生や付属高校の生徒に対して適切に指導していくべきではありませんか』
『問題をはき違えているようですが、今回の件で悪いのは魔法の開発者ではなく、その魔法を兵器として使用したゲリラです。そちらを非難するのが貴方たちの仕事でしょうが。これ以上個人を攻撃するような報道を続けるのであれば、こちらとしてもこれ以上お話しする事はございません』
『報道の自由を認めないつもりか!』
『個人攻撃をすると分かっていて、そんな事を認められるわけないでしょうが』
最終的には記者も職員もヒートアップしてしまい、会見はそのまま終わってしまった。
魔法大学の記者会見は、異例ではあるが日曜日に行われた。それだけ緊急の対応が必要だと大学側は考えたのだろう。その模様を自宅の居間で生視聴した達也は、一緒にテレビを見ていたほのかたちから質問を受けた。
「達也さん、国際社会が非人道的兵器の所有だけでなく開発も禁止しているというのは本当なのですか?」
「どうだろう。所有を禁止しているのは事実だが、全く新しい種類の兵器開発を禁止するのは難しいのではないかな。非人道的兵器かどうか、その存在が明らかになるまで分からないわけだし」
「実際に使われるまで、人道に反するかどうか分からないということ?」
「どのような兵器になるかは、使わなくても設計段階で分かる。目的があって作るものだからね」
達也の答えに重ねるように問いかけてきた雫に、達也は笑いながら首を横に振った。
「だが兵器として開発しているなら、完成まで秘密にしている事の方が多いんじゃないかな。完成前に開発計画を公開しているなら、それが非人道的兵器に認定されない自信があるんだろうし」
「あっ、そういう事だったんですね」
「ただ魔法の場合は、少し話が違うかもしれないね。例えば飛行機の場合は、兵器として開発したものではないけど兵器に転用可能だった。ただ初期の軍事利用を除けば、軍用機として開発した機体でなければ戦闘には使えない。しかし魔法の場合は、軍事利用を念頭に置いたものでなくても使用する魔法師の力量次第で、暗殺用の武器にも大規模破壊兵器にもなり得る。正直なところ、あの魔法をここまで使いこなせる魔法師がいるとは思わなかった。際どいタイミングだったな。雫に迷惑を掛けずに済んで、本当に良かった」
「達也さんが気にする事じゃないよ。それに、さっきの魔法大学の職員の人も言ってたけど、達也さんはあくまでも作っただけで、今回責められるべきなのはあの魔法を使って大量殺人を働いたゲリラ魔法師だもん」
自分を慰めてくれているのだと理解した達也は、雫の頭を軽く撫でて力ない笑みを浮かべた。
「先日学校でも言ったが、見知らぬ実行犯より知ってる開発者の方が話題に上げやすいんだろうな。まぁ、世間的にも顔が売れてしまったからな、俺も」
「達也さんが悪いわけじゃないのに、クラスの男子たちは達也さんの事を悪く言ったりして……深雪が何時まで我慢出来るか心配なんですけど」
「どうせすぐに忘れるだろ。人間なんて、真新しいものがあればそっちに興味が向いて、昔の話題などすぐに忘れてしまうんだからな、当事者以外」
「誰もが達也さんのように達観してるわけじゃないよ。それに、この流れに乗じて九校戦を中止すれば、全て達也さんの所為に出来るとか考えてそうだし」
「九校戦の運営本部がか? そんなことすれば、母上から厳重なる抗議があると分かっていそうだがな」
言葉ではそういいながらも、達也は実際に中止になった場合、原因は自分にあると言われるだろうと思っていた。達也自身は気にしなくても、周りに心配をかける事になるだろうと、達也は今からその対応で負うであろう疲労を考え、ため息を吐いたのだった。
同じ事を何度も繰り返し聞いて……見てるだけでも嫌悪感を懐きます