劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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考え無しの三高男子はカット


三高女子たちの会話

 九校戦の中止は、噂ではすでに流れていたが、正式に決定したという事は、少なからず魔法科高校生に衝撃を与えた。

 

「愛梨、聞いたか?」

 

「えぇ、昨年の種目が軍事色が強かった事に非難が集中した事で、今年の九校戦は中止になったと」

 

「昨年の種目はおかしかったもんね。変更の報告を受けた時から疑問だった」

 

「お陰で選手の選考からやり直しでしたからね……吉祥寺君が文句を言いながらもやっていたのを覚えています」

 

 

 一高で授業に参加していてもやはり他校の生徒という認識をされているのか、愛梨たち三高女子のグループの会話に割って入ってくる者はいない。

 

「その事なんじゃが、一部の人間たちの間では達也殿の所為という事にされているようじゃ」

 

「何で? 達也さんは何にもしてないでしょ?」

 

「沓子さん、その話は何処から出てきたものなのですか?」

 

 

 愛梨が自分の事を呼び捨てではなく、敬称付きで呼ぶのは、かなり怒っている時だと弁えているので、沓子はもったいぶらずに噂の出所を告げる。

 

「先ほど一科の男子共が話しているのを聞いたのじゃが、どうやら達也殿の功績に対する嫉妬からじゃろうな。時期的に能動空中機雷が問題になっていたから、その所為で九校戦が中止になったと決めつけてるみたいじゃった」

 

「自分たちが活躍出来てないからといって、大活躍した達也様に対する嫉妬ですか……小者ですね」

 

「ですが、大多数の魔法科高校生は、達也様の所為という事にしているのではないかと思われます」

 

「香蓮、どういう事?」

 

 

 四人の中で参謀役である香蓮の言葉に、栞が反応を見せる。香蓮が達也の事を悪く言うとは思っていないので、何かそう言うだけの根拠があると知っているからだ。

 

「先ほど三高の状況を確認したのですが、一条君や吉祥寺君の周りでも達也様が悪いと決めつけているようです」

 

「一条や吉祥寺まで、ですか?」

 

「いえ、その二人はさすがに達也様の所為だとは決めつけていないようです。同級生や後輩を説得しようと試みたらしいですが、あまり積極的にでは無かったらしいと」

 

「どうせ達也さんに勝てないからって、達也さんだけを出場停止にすればいいとかなんとか言ってるんだと思うけど、相変わらず言ってる事が小さい。だから達也さんに勝てないんだよ」

 

 

 栞がバッサリと三高の仲間を斬り捨てる。だがその事に関して三人とも何も言わなかった。

 

「同じ一高に通っている人間ですら、達也様の所為にしているのですから、他校の生徒にその傾向が多くみられても仕方ない、という事でしょうか……」

 

「この事は、深雪嬢の耳には入れない方が良さそうじゃの。最悪、一高が氷の彫刻だらけになりかねん」

 

 

 愛梨たちは、深雪の魔法が暴走しやすい事を知っているし、その影響がどのように出るかも重々承知している。だからこんな話が深雪の耳に入れば、噂している生徒を残らず凍らしてしまうだろうと心配したのだ。

 

「司波深雪じゃなくても、噂話をしてる連中を殺してしまいたいと思いますものね」

 

「愛梨、分かっているとは思いますが、実際に行動に移せば、達也様に多大なるご迷惑を掛ける事になるのですから」

 

「分かっているわよ、香蓮さん。でも、貴女だって許せないと思っているはずよね?」

 

「それは、そうですけど……」

 

 

 ここで愛梨の言葉を否定する事は香蓮には出来ない。彼女も達也の婚約者の一人であり、今回の中止が達也の所為ではないと理解しているからだ。

 

「一高内ではこの噂は早めに終息すると思う」

 

「何故じゃ?」

 

「だって、司波深雪や千葉エリカといった、怒らせたらヤバい人間が達也さんの側にいるから」

 

「確かにの……深雪嬢も確かに危ないが、エリカ嬢もなかなかに危険じゃからの……」

 

「北山雫や光井ほのかも、怒らせると何をするか分からない」

 

「一高生が一斉に昏睡状態とかは避けたいからの」

 

 

 ほのかは戦闘魔法師ではないが、敵を眠らせたりすることは出来ると沓子の耳にも入っている。そして達也に調整してもらったCADのお陰かは分からないが、一高程度の規模なら一斉に魔法にかける事も可能だという事も。

 

「今回の件で、三高からは一時的に石川に戻ってこいと通達がきていますが」

 

「無視して構いません。そもそも、私たちは既に四葉家の庇護下にあると言っても過言ではありません。もし三高側の申し出を受ければ、それはつまり達也様を信じていないと四葉家に思われかねないという事。四葉家の恐ろしさは、我々数字付きなら誰もが知っているはずです」

 

「まぁ、深雪嬢だけでも手に負えるかどうか分からないからの。それが大勢襲いかかってくると考えると、下手に手は出せないと考えるのが普通じゃろうな」

 

「だけど最近は、四葉家の恐ろしさを忘れ始めている家も多くあると思う。実際七草家は四葉家に喧嘩を売ったし、九島家も四葉家に喧嘩を売りかけた所為で、十師族から落とされたし」

 

「自業自得ですけどね。下手をすれば私たち魔法科高校生の殆どが、九島家の陰謀の所為でドロップアウトするところだったのですから」

 

 

 愛梨はパラサイドールの事を家の伝手で知っているが、詳細までは知らない。ましてや九島家の陰謀を止めたのが達也という事は、軍関係者でも把握していないので、師補十八家の一色家が把握しているはずもなかった。

 

「とにかく、達也殿を悪く言う連中には、それとなく忠告しておいた方が良いかの。ワシらだって、クラスメイトが物言わぬ彫刻になるのは見てられないからの」

 

「それが良いと思います」

 

 

 沓子の提案に香蓮が賛成し、愛梨と栞も渋々ながらも頷いたのだった。




冷静に考えれば分かるだろうに

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