劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こっちも過激……


深雪の計画

 達也からの電話を受けた水波は、急ぎ深雪を呼びに部屋へ向かった。

 

「深雪様、達也さまからお電話です」

 

『すぐに行きます』

 

 

 扉越しに声をかけてすぐに部屋から出てきた深雪を見て、水波は彼女も電話の内容を理解しているのだろうと小さく頷いて、自分も画面の端に映るように移動した。

 

『朝早くに済まないな』

 

「いえ、問題ありません。それで達也様、わざわざお電話くださった理由は、先ほどまで報道されていた、あの胸糞悪い記者会見の事ですよね?」

 

 

 深雪の言葉を聞いて、達也は画面越しに苦笑いを浮かべるだけに留めたが、水波は驚きを隠しきれなかった。いくら腹立たしい事だったとはいえ、深雪が『達也の前』で汚い言葉を使うとは思っていなかったのである。

 

「も、申し訳ありません、達也様」

 

『いや、腹立たしいのは俺も同じだ。付き合ってやる義理は無いが、日本のマスコミは名誉だからと騒ぎ出すだろうな』

 

「達也様は四葉家の次期当主として正式に決定しているお方。そのお方をUSNAの訳の分からない計画に参加させるわけがございませんじゃないですか」

 

『どうもここ最近、マスコミは四葉家の事を甘く見ている節があるからな。まさか、同じ日本のマスコミだから、逆鱗に触れても滅ぼされないなんて考えているわけではないと思うが』

 

 

 達也の考えに、深雪と水波はその可能性もあるかもしれないと感じた。

 

「達也様、一度四葉家の恐ろしさを日本に住む全員に再認識させた方がよろしいのではありませんか?」

 

『何も無いのにそんなことをすれば、四葉家の立場が悪くなるだけだ。そもそも、名誉の押し売りなど迷惑でしかないと分からない連中に、こちらからレベルを合わせてやる必要などない』

 

「そ、そうですね……申し訳ありません」

 

 

 自分が昂り過ぎたと自覚があったのか、深雪はすぐに頭を下げた。

 

『現段階で最も避けなければならない事は、トーラス・シルバーの正体を世間に知られてしまう事だ。逃げ口は用意してあるとはいえ、現段階ではまだ都合が悪い』

 

「エドワード・クラークの記憶を消しても、意味はありませんものね……」

 

『そうだな・トーラス・シルバー=司波達也だと世間に知られることを前提として、事を進める必要があるだろうな』

 

「エドワード・クラークの誘いに応じるという選択肢はありませんものね」

 

『当たり前だ。先に深雪が言ったように、今の俺の立場は四葉家の次期当主だ。USNAのくだらない誘いに乗ってやる必要などないし、大勢の婚約者が納得するとも思えない』

 

「当たり前です」

 

 

 力強く頷く深雪の背後で、水波も頷いていたのを達也は見たが、特にその事に対しては指摘しなかった。

 

「もし叔母様がお認めになったとしたら、達也様はこの計画に参加するのでしょうか?」

 

『母上もこの計画の裏に隠されている真の目的については知っているだろうし、そもそもあの人が俺を手放す選択するとは思えないからな』

 

「そうですね」

 

 

 しばらく達也と話し合った後で、深雪は達也から送られてきたディオーネー計画についての詳細資料に目を通していた。

 

「深雪様、難しい顔をされておりますが、如何なさいましたか?」

 

「達也様から送られてきたこの資料を見ていたのだけど、巧妙に真の目的に気付かせないようにしてあるのよ」

 

「拝見してもよろしいでしょうか?」

 

 

 深雪に断ってから、水波は深雪が見ていた資料に目を通す。確かに一見しただけでは、人類の為の宇宙開発計画にしか見えないが、計画上必要な魔法技術を持ち合わせている魔法師が圧倒的に少ない事がこの資料からはっきりと読み取れる。

 

「やはり達也様や四葉本家が懸念したように、この計画の真の目的は……」

 

「えぇ……自分たちに都合の悪い魔法師を宇宙空間に葬り去ることでしょうね」

 

「しかし、この程度の事を読み解ける人間は、我々以外にも大勢いるのではありませんか?」

 

「いるかもしれないけど、大衆は裏があるなんて考えないでしょうから、達也様にこのくだらない計画に参加しろと騒ぎ立てるでしょうね」

 

「真夜様が達也様がトーラス・シルバーだとお認めになるとは思えないのですが」

 

「叔母様も何か手を打ってくるでしょうけど、四葉家内にはまだ達也様の事をお認めにならない愚か者がいると聞いていますので、これ幸いと達也様を追い出す算段を立ててくるかもしれません」

 

「その時は、私たちで達也様をお守りすればよろしいのではありませんか? 達也様をお認めにならない不届き物を四葉家中枢から排除出来るのと合わせれば、他の婚約者の方々も協力してくださると思いますが」

 

「そうね。特に夕歌さんや亜夜子ちゃんなんかは、積極的に参加してくれるでしょうね。彼女たちも、達也様の事を認めようとしない不届き物に苛立っているでしょうし」

 

 

 ディオーネー計画の資料画面を閉じ、そのまま完全に削除はせずに保存した深雪の行動を見て、水波は深雪が本気であることを確信した。

 

「深雪様」

 

「どうかしたの?」

 

「微力ながら、私もお手伝いさせていただきます」

 

「ありがとう。水波ちゃんだって、達也様が地球上からいなくなるなんて耐えられないのかしら?」

 

「そうかもしれませんね」

 

 

 より正確に言うのであれば、達也がいなくなったことで苛立ちが募り、魔法を常時発動させている深雪の傍にいる事が耐えられないのだが、水波はそんな事おくびにも出さずに、平然と嘘を吐いたのだった。




達也もですが、深雪も怒らせたら怖いですから……

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