劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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原作では深雪ですが、同居してないので真由美に変更しました


真由美の質問

 深雪と水波を駅まで送り、エリカたちより一足早く下校した達也は、帰宅後に自動録画してあったそのニュースを共同スペースで見ていた。

 

「これは本当に『十三使徒』のベゾブラゾフ本人なの?」

 

 

 いつの間にか達也の背後に立ってニュースを見ていた真由美が、ニュースが終わるなり口にしたのがこの疑問だ。戦略級魔法師は身元を隠す物。暗殺や呪殺を回避する為だ。堂々とテレビに出演する戦略級魔法師というのは、真由美の常識に反するものだった。

 

「影武者の可能性はありますね」

 

 

 達也はこの状況でベゾブラゾフがマスコミの前に出てくることに、それほど違和感を覚えていない。だが新ソ連から発信された報道を全面的に信用しているわけでもなかった。

 

「だが本人か偽物かは、この際大した問題ではないでしょうね」

 

「どういう事?」

 

 

 達也は問いかけてくる真由美と目を合わせ、再び画面に目を戻して録画をベゾブラゾフのインタビュー冒頭からもう一度再生した。

 

「重要なのは、新ソ連がUSNAのプランに協力する姿勢を示したという事実です」

 

 

 達也はインタビューの字幕をじっと見詰めながら、自分に言い聞かせるような口調で答えを続ける。

 

「大亜連合もインド・ペルシアも強大国だが、世界政治の軸はやはり、米ソの対立です。世界群発戦争の後、かつての勢力を取り戻した新ソ連と、ますます国力を増強したUSNAのせめぎ合いを中心にして、現代の国際社会は回っています」

 

「その程度は理解してるわよ」

 

 

 基本的な国際構造については、中学校で教わる内容で、真由美も当然理解している。だから達也の説明に頬を膨らませながらそう答えたのだ。

 

「その新ソ連が『ディオーネー計画』を国際社会における勢力争いの例外とした。実際に新ソ連がプロジェクトに貢献するか否かは、今の段階ではあまり関係がありません。USNAの敵国である新ソ連が協力を表明した以上、USNAの友好国は『ディオーネー計画』を無視できなくなったわけです。新ソ連とUSNAは裏でつながっている可能性があると報告がありましたし、恐らくはそうなのでしょう」

 

 

 達也が出した結論は、レオや幹比古と途中までは同じだったが、あらかじめ響子や四葉家から裏のつながりの可能性を聞いていたので、そこから一歩踏み込んだ結論が導き出された。

 

「USNAと新ソ連が手を組んでたとして、何が目的なの?」

 

「通常兵力では、質量共に米ソが他国を圧倒していますが、大亜連合が一時期それに追いつく勢いを見せました。まぁ一昨年の秋に受けた損害からまだ立ち直っていないので、今は気にしていないでしょうが」

 

 

 他人事のように語っているが、大亜連合艦隊に大打撃を与えたのは達也本人である。

 

「魔法は俗人的な力ですが、通常戦力は政治力と経済力に裏付けられた国家の力です。核兵器が事実上禁止されている状況では、ますます経済力がモノを言うようになっています。日本もそうですが、経済規模が小さな国は通常兵力で米ソ両国に対抗し得ません」

 

「日本の経済規模は、それほど小さくないと思うけど?」

 

「軍備に割ける経済力は、米ソに遠く及びません」

 

 

 真由美の反論に、達也は事実だけを告げた。

 

「世界は魔法というファクターにより辛うじて大国に呑み込まれてしまう事なく現在の形を保っています。今や魔法という兵器が無ければ、小国は大国に対抗できない状況です。その意味では、魔法の軍事利用を一概に否定出来ないのですが……」

 

「……つまり、強い力を持つ魔法師をプロジェクトに集める事で、他国の魔法戦力を奪うのが米ソの真の目的なのね?」

 

 

 達也が魔法の非軍事的利用を目指しているのを知っている真由美は、達也の葛藤を理解し、最後のフレーズを無視して尋ねた。

 

「――そう考えれば、全ての辻褄が合います」

 

 

 達也はそう返しただけで、自分の思考に沈み込んでいく。真由美との問答で、彼は自分のプランの欠点を自覚した。今まで意識していなかった問題だ。

 魔法師を人間兵器の宿命から解放する。その基本コンセプトに間違いはない。魔法師が兵器として使い潰される現実が、肯定されて良いはずがない。だが魔法の経済的利用を推し進めていくことで、軍事の現場レベルに高レベルな魔法師が足りなくなってしまったら。魔法という廉価で高威力な武器が消えてしまったら。小国は最早、大国に対抗出来なくなってしまうのではないだろうか。大国が小国を呑み込み、世界が少数の大国に分割支配された時、世界中で再び泥沼の地域紛争が繰り広げられる未来しか、達也は想像出来なかった。

 

「(やはり、抑止力は必要なのか……?)」

 

 

 自分の手の中にある、究極の大量破壊兵器。未来がどう動こうと、自分が悪名を背負う事は避けられないのではないか。

 

「達也くん、どうしたの?」

 

「いえ、何でもありません……ところで先輩、例の計画を考えると、あんまりこっちに戻られるのは得策ではないと思うのですが」

 

「リンちゃんには事情を話してあるから、こっそり前のリンちゃんの部屋で生活させてもらう事になったのよ。達也くんにそれを報告しに来たら、難しい顔をしてたから」

 

「そうでしたか」

 

 

 真由美にそう答えながら、達也は自分が悪名を背負う覚悟を決めた。真由美はそんな事に気付かずに、笑顔で手を振って鈴音が用意してくれた部屋に向かうのだった。




真由美には活躍してもらわないといけないので

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