劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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会談というよりは悪だくみの話し合いかもしれない


三国電話会談

 大西洋を越えて、エシュロンⅢのサブシステムでガードされた極秘通信会談が持たれたのは、日本時間で深夜の事だった。

 

『マクロード卿、お久しぶりです。こうしてお話しするのは、五年ぶりくらいになるでしょうか』

 

 

 ヴィジホンのモニターの中で、まずベゾブラゾフが会話の口火を切る。

 

『そうですね。お久しぶりです、ベゾブラゾフ博士。その節にも申し上げたと思いますが、私は「(ロード)」ではありませんよ。私はナイトの勲位を賜っているにすぎません』

 

 

 ベゾブラゾフの挨拶に、真面目なのか頑固なのか出来の悪いジョークなのか、マクロードがどうでも良い事に拘って見せた。

 

『サー・ウィリアム。そのように堅い事を仰らずともよろしいのでは? 公式の会談ではないのですから、「マクロード卿」でよろしいではありませんか』

 

 

 クラークはそれを笑えない冗談と受け取ったようである。彼はマクロードに対して、軽く窘めるように口を挿んだ。本気でマクロードを非難しているのではなく、ベゾブラゾフが気分を害してせっかくの会談が台無しにならないように気を遣ったのだ。

 

『お気遣いありがとうございます、クラーク博士。こうして言葉を交わすのは初めてでしたね?』

 

『そうですね。初めまして、ベゾブラゾフ博士。エドワード・クラークです』

 

 

 三人の挨拶は、ここで終わった。

 

『早速ですがクラーク博士、あなた方が仰る「グレート・ボム」の戦略級魔法師がトーラス・シルバーであり、トーラス・シルバーの正体が日本の高校生であるというのは事実ですか?』

 

 

 ベゾブラゾフが、やや性急な口調でエドワード・クラークに問いかける。

 

『事実です。「グレート・ボム」の日本側正式名称は「マテリアル・バースト」。質量をエネルギーに直接変換する魔法のようです』

 

『直接変換……?』

 

『実に興味深い。ですが、今ここでそのシステムを論じても意味はないでしょう』

 

『……そうですね。データがない所で幾ら仮説を論じ合っても意味はない』

 

 

 強い好奇心を示したベゾブラゾフを、マクロードがやんわりと牽制する。ベゾブラゾフは、マクロードの制止を受け入れて割合あっさりと引き下がった。

 

『マテリアル・バーストは博士のトゥマーン・ボンバと同じく、偵察衛星のデータを元に地球上全域をターゲットに収めると考えられます』

 

『それは世界の軍事バランスを根こそぎ壊してしまう脅威ですな』

 

 

 クラークの言葉に、マクロードが頷いてみせる。ベゾブラゾフは「トゥマーン・ボンバの仕組みも分かっている」というクラークのほのめかしを無視した。

 

『マテリアル・バーストが何処まで届くのか分かりませんが、さすがに木星軌道から地球には届かないでしょう』

 

『トーラス・シルバーを木星圏に追放するのがクラーク博士のプランなのですか?』

 

『ええ、その通りです』

 

 

 ベゾブラゾフの質問に、クラークはもったいぶった態度で頷いた。

 

『ディオーネー計画のガニメデステージは、トーラス・シルバーの実績に合わせて立案されています。彼にはガニメデで、人類の未来に生涯を捧げてもらいましょう』

 

『クラーク博士。そろそろトーラス・シルバーの正体を明かしてもらえませんか?』

 

『それは直接お目に掛かった時にお話しします』

 

『……良いでしょう。楽しみにしています』

 

『何処で会談を行うのですか』

 

 

 ここでマクロードがクラークにそう問いかけた。

 

『大西洋公海上を予定しております。その方がお互い、しがらみが無くていいと思いましたので』

 

『三国が船で合流するのですか?』

 

 

 ベゾブラゾフがクラークに尋ねる。

 

『既に、予定海域にエンタープライズを派遣しております。お二方にも航空機で御出願うつもりだったのですが……』

 

『エンタープライズですか……』

 

 

 ベゾブラゾフが興味深そうに呟いた。エンタープライズはUSNAの戦闘的艦名を受け継ぐ新空母だ。原子力機関を搭載していないにも拘わらず、これに匹敵する出力と航続時間を実現しているとされていて、そのシステムの謎は世界の注目を集めている。

 

『分かりました。空からお邪魔しましょう』

 

『私もそうさせていただきますかな』

 

 

 ベゾブラゾフに続いて、マクロードが頷く。

 

『ありがとうございます。それでは二、三、もう少し細かい点について話しておきたいのですが、お二方とも、お時間の方は大丈夫でしょうか?』

 

『問題ありません。この会談の為に、既に仕事は終わらせておりますので』

 

『こちらも、これ以上大事な用件はありませんので』

 

『では続けさせていただきます』

 

 

 ベゾブラゾフとマクロードに確認してから、クラークのイニシアティブの下、電話会談はその後三十分程度続いた。

 

『――といった感じですかな』

 

『これで完全にトーラス・シルバーを木星圏に追いやれるというわけですか』

 

『既に我々が参加を表明しているのだから、同盟国である日本が断るなど出来まい』

 

『ではお二方、後日直接お目に掛かる日を楽しみにしております』

 

『私も。トーラス・シルバーの正体を教えてもらえる日を今か今かと楽しみにしておきましょう』

 

『では、また後日に』

 

 

 その言葉を合図に、三人は同時に通信を切ったのだった。




こいつらまとめて消されちゃえばいいのに

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