劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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USNAに隕石爆弾を非難する権利は無かったと……


エンタープライズの真実

 今後の大まかな行動プランを決めて、会議は特に対立もなく終わった。会議が無事終了したことで、リーナの任務も終わり。帰りの機が発進するまで手持無沙汰になった彼女は、艦長の許可を得てエンタープライズ艦内を彷徨っていた。名目は「見学中」なのだが、彼女の意識はここにいない一人の人物に向けられていた。

 

「(まさか出発前に達也が言っていたことが殆ど的中するとはね……達也本人は遠見のスキルは無いと言っていたから、あらかじめ会談の内容を知っていたわけじゃないでしょうけど、ここまで的中させると、それも嘘なんじゃないかって思っちゃうわよ)」

 

 

 リーナが達也の正体を探るべく日本で活動していた頃、達也は精神干渉系魔法を得意にしている魔法師だと信じ込まされた事を思いだし、リーナは苦笑いを浮かべながら足を進めていた。

 

「(あの時はまさか、達也が戦略級魔法師で、天才技術者のトーラス・シルバーの片割れで、挙句四葉の御曹司だとは思いもしなかったわね……私の魔法を受けても平然としてたのを見たら、幻術でも掛けられたと思う方が自然だし)」

 

 

 達也の魔法特性を聞いている今でも、そっちの方がすんなり納得出来ると思っているリーナは、当時の光景を思い出して身震いをした。

 

「(もしあのまま達也の腕が無くなっていたら、今回のような茶番に巻き込まれることはなかったのかしら? でもそうなると、私は達也の婚約者の一人になれなかっただろうから、兵器としての宿命から逃れられる事は無かったのよね……その前に、深雪に氷漬けにされて一生四葉家のモニュメントとして飾られる運命だったのかしら?)」

 

 

 いるはずのない深雪の姿を探すように辺りを見回して、リーナは立ち入り禁止区域に足を踏み入れかけていた事に気が付いた。

 

「(立ち入り禁止区域に入りかけて――ん? なに、この想子波……)」

 

 

 リーナは自分がこの場から離れようと焦っていた事も忘れて眉を顰めた。この区画に入るまで感知出来なかった想子波だ。隔壁に想子波を減衰させる感応石のグリッドが仕込まれているのだろう。

 一瞬原子炉を隠す為の措置かと疑ったが、リーナはすぐに自分の勘違いに気付いた。感応石は想子波を電気信号に変換する。その副次的効果として想子波は減衰し、波として観測出来なくなる。しかし、感応石に放射線を吸収したり遮断したりする機能はない。

 

「(魔法? でも、これって……)」

 

 

 禁じられた原子力利用の疑惑が去ると、新たな疑念が彼女の意識に浮かび上がった。魔法は個人で使う物。複数の魔法師が一つの魔法を共同で発動する事は原則的に無い。稀にそのような能力を備えた魔法師が生まれてくることはあるが、その場合も協働出来るのは精々二人か三人だ。

 だがリーナが感じている想子波は――

 

「(少なくとも十人以上。もしかしたら二十人近い……どういう事? 魔法師から強制的に魔法を引き出すのは、軍規で禁じられているはず。……魔法自体はフライホイールを回転させるだけの簡単なものだけど、こんな単純作業を長時間続けさせるのは、ストレスの蓄積でかえって難しい……十人以上の魔法師を集めているのは、ホイールの質量が大きいのと回転速度が高いからだわ)」

 

 

 そこでリーナは、一つの結論にたどり着き、思わず声を上げてしまった。

 

「まさか!? (これって……発電システム!? まさかこれが、エンタープライズの出力の秘密!?)」

 

 

 リーナはすぐに両手で口を押え、慌てて左右を見回した。周りに人影は無く、監視カメラは作動しているようだが、モニター越しでは立ち入り禁止区画に間違って入り込み、狼狽えているように見えただろう。リーナは自分にそう言い聞かせて、早足に通路を逆戻りした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰りの輸送機も、リーナはクラークと一緒だった。護衛の任務は会議が無事幕を下ろした時点で完了していたが、本土へ戻るのにわざわざ別の飛行機を準備するのは無駄な手間だ。だからワシントンD.C.まで同行するのも仕方のない事だった。

 

「シリウス少佐、ご苦労様でした」

 

「恐縮です」

 

 

 クラークに話しかけられて、リーナはつい不愛想な答えを返してしまう。彼女は今、誰とも会話したくない気分だった。本当はパレードによる偽装を解いて、何も考えずに眠りたいところだ。口調に棘が混ざらないようにするので精一杯だった。

 クラークは年の功なのか、リーナの態度を気にした様子はない。

 

「少佐には改めて申し上げるまでも無いと思いますが、トーラス・シルバーの正体については他言無用です。ウォーカー大佐にも、バランス大佐にも告げてはなりません」

 

「……小官には報告義務があるのですが」

 

「大丈夫です。少佐が咎められる事はありませんし、もし少佐の口からトーラス・シルバーの正体が明かされたと分かれば、四葉家は少佐の素顔を公開するかもしれませんよ」

 

 

 自分が既にスターズから抜けている事を知られていると、リーナは驚きを表情に出してしまった。

 

「何故、それを……」

 

「少佐をシルバーに接触させたのは、軍の大きな失態だったと思います。貴女はまだお若い。情が移ってしまうのも、仕方がない事でしょう」

 

 

 クラークはニヤリともせず、そう告げた。リーナが日本で何をしていたか、軍が把握している以上の事を知っているとほのめかす。

 

「シルバーの正体だけではありません。エンタープライズの真実についても、報告の必要はありませんから」

 

 

 そうして、リーナを完全に口止めするセリフを付け加えたのだった。




ちゃっかり使ってるのに……

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