劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ロボットですし、持っていかれたの方が良かったのかな?


消えたピクシー

 放課後、生徒会室に入るなり、詩奈が訝しげな声を上げる。

 

「失礼します――あれっ?」

 

「どうかしたんですか、詩奈ちゃん」

 

「あ、いえ、ピクシーはどうしたのかなって……」

 

 

 先に来ていた泉美が、椅子を回して振り返り詩奈に尋ねると、詩奈は一点を見詰めて答えた。確かに詩奈の言うように、いつも生徒会室の片隅に待機していたピクシーがいなくなっている。

 

「あれは達也さまの持ち物ですから」

 

 

 お掃除箱から付近を出した水波が、その問いに答える。そのままテーブルを拭きだした水波に、詩奈は「私がやります」とは申し出なかった。水波がこの仕事を下級生にも譲らないのは、一ヶ月の付き合いでよく分かっている。

 

「ピクシーは達也様の身の回りの世話をさせる為に、ついていってもらったの」

 

「深雪先輩、お疲れさまです!」

 

「お疲れさまです、会長。あの、それって……」

 

 

 何時も通り高いテンションで反応した泉美とは対照的に、詩奈は不得要領な顔で小首を傾げる。

 

「ひゃうっ! き、北山先輩……」

 

 

 深雪が返答する前に、いきなり背後から肩を突かれ、詩奈は声を上げ跳びあがり、慌てて振り返ると、雫が咎めるような目をして首を左右に振っていた。

 

「詩奈ちゃん、達也さんのことは、ねっ」

 

 

 雫の隣から、ほのかが詩奈にささやきかける。それで詩奈は、なんとなく事情を察したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が一高から姿を消した日。深雪はいつも通り授業を受け、何時も通り生徒会の業務を処理した。普段達也と交流がない一科生には、何時と同じ深雪に見えていたに違いない。久しぶりに一緒に下校した友人たちにも、具体的な違いが分からなかった程だ。

 

「深雪、その……大丈夫?」

 

 

 だが、何となく「おかしい」と感じ取ることが出来るのは、さすがに友人という事だろうか。それとも、エリカも心のどこかで深雪と同じような気持ちを懐いているからだろうか。

 

「えぇ、大丈夫よ。ありがとう、エリカ」

 

 

 友人としての思いやりが分かるから、深雪も素っ気なく否定するような真似はしなかった。

 

「達也さん、今どちらにいらっしゃるのですか? もし差し支えなかったら――」

 

 

 婚約者ではない美月は達也の居場所を知らない。その事を失念していたエリカが、少し驚いた表情で美月を見た後、深雪の方へ視線を向けた。

 

「構わないわよ。達也様は今、伊豆の別荘でお休みになられてるわ。偶にはのんびりされるのも良いのではないのかしら」

 

「いろいろと面倒臭い事情が無ければ羨ましいんだけどね」

 

「その面倒臭い事情があるから、達也は別荘に避難しなきゃならなかったんだろう」

 

「うっさいわね。それくらい分かってるに決まってるでしょ。そんな細かい事を言ってるからモテないのよ」

 

「なっ……! 余計なお世話だぜ。達也程じゃないにしても、俺は女子に嫌われてるわけじゃないんだ。そうだよな、桜井」

 

「……はい、そうですね」

 

 

 レオの同意を求める言葉に対する水波の回答は、歯切れが悪いものだった。

 

「あ~、やだやだ。こんなところで権力を振り回しちゃって。ああはなりたくないわね~」

 

「はぁぁ!?」

 

 

 裏返った声で抗議するレオを無視して、エリカは水波に顔を向けた。

 

「水波、部長だからって庇わなくてもいいのよ?」

 

「はぁ……」

 

「エリカ。西城君も、水波ちゃんを困らせないで」

 

 

 困り顔でエリカとレオを交互に見ていた水波に、深雪が助け舟を出した。注意された事で二人は深雪に向かって同時に頭を下げ、水波は漸く困惑から逃れる事が出来た。

 

「達也さん、日曜日にはこちらに戻ってきたりはしないんですか?」

 

「残念ながら、当分は戻ってこれないって言ってたわよ。まだまだマスコミ連中が五月蠅いだろうからって」

 

「私たちの方からお邪魔するのは、駄目なんでしょうか?」

 

「ご都合を伺ってみなければ分からないわ。もしかしたら、好ましくないお客様が訪ねてくるかもしれないし」

 

 

 深雪のセリフに、香澄と泉美が反応した。

 

「先輩、それって……」

 

「ありそうなことですね」

 

 

 深雪は後輩の双子に、慈愛の籠った笑みを向けた。

 

「泉美ちゃん、香澄ちゃん、もしそんなことが起こって、お家の方が『お客様』の立場に立たれた場合、お父様やお兄様の邪魔をしてはダメよ」

 

「深雪先輩! 私はどんな時でも先輩にお味方します!」

 

「泉美ちゃん、そんな事を言うから、香澄ちゃんが困っているわよ」

 

「香澄ちゃん! 香澄ちゃんは私の味方ですよね?」

 

「いや、そりゃ、ボクは泉美の味方だけど……」

 

 

 真由美からある程度の計画を聞いている香澄としては、事情を知らない泉美を何処まで巻き込んでいいのか戸惑っていた。

 

「泉美ちゃん。せめて、何もしないで? 私も達也様も、本気で泉美ちゃんたちのお父様と敵対するつもりなんてないから」

 

「……分かりました」

 

 

 惚れた弱み。誤解しようがない言葉で深雪にお願いされてしまえば、泉美に抗いようはない。

 

「深雪こそ、あたしたちの力が必要な時は、遠慮しちゃ駄目だからね」

 

「無茶はして欲しくないのだけど……恐らく、達也様も同じことを仰ると思うわ」

 

「自分から無茶をするつもりなんかないわよ?」

 

 

 エリカが白々しく嘯く。その表情はあまりにも平然としていて、深雪は曖昧な笑みを浮かべる事しか出来なかったのだった。




好ましくないお客様多数……

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