劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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アニメ版のあのシーンはなかなかだった


暗躍する軍人

 深雪の活躍を見て、魅了されずに焦ったのは恐らく彼らだけだろう。会場に送ったやヤツからの情報に目を通し、これではマズイと焦りだした。

 

「電子金蚕を見抜いただけでは無く、まさか飛行魔法まで使ってくるとは」

 

「このままでは一高が総合優勝してしまうぞ」

 

「こうなったらジェネレーターのリミッターを解除して観客を殺すしかないな」

 

「武器は持ち込めなかったが、アイツなら素手で百二百は楽に屠れる」

 

「異論は無いな。ではジェネレーターのリミッターを解除、観客の無差別殺害を命じる」

 

「顧客が騒ぎ出すかもしれんが、そこら辺は知らん顔で押し通せば良いだろ」

 

「儲けは無いが損もなくなるからな」

 

 

 無頭竜のメンバーたちは、会場に送ったジェネレーターが自分たちの思い描いた結果をもたらしてくれる事になんら心配を抱いていなかった。

 彼らの心配はボスの粛清をいかにのがれるかの一点だけに集中していたからだった。だからこの時には既に九校戦に興味を失い、如何やってノルマを達成するかが話題の焦点になっていた。

 

「九校戦で無理だと、少し厳しいかもな」

 

「だが大穴を開けるよりかは遥にマシだ」

 

「そうだな。ノルマならいくらでも達成できるかもしれんが、大穴を開けたとなるとな」

 

「よくてジェネレーターか……」

 

 

 自分たちの護衛に当てられたジェネレーターを見て、メンバーたちはため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 横浜から指示を受けたジェネレーターは能力制限を解除され、命令されたと通りに観客の殺戮に動き出した。

 会場に入ってすぐに、目の前を通った男に襲いかかろうとしたが、そのまま自分の力を利用されて会場外まで放り投げられた。

 

「何者だ。いや、答える必要は無い。どうせ答えられないだろうからな」

 

 

 彼にその事を考える能力は残されていない。相手もその事を理解してるのか、そのまま独自で思考をめぐらせている。

 その格好はジェネレーターから見れば隙だらけなので、観客である相手に再び襲い掛かるのだが、またしても自分の力を利用され吹き飛ばされる。

 

「その身体能力、ただの魔法師ではあるまい。強化人間か?」

 

「答える必要は無いと言ったのは柳君だよ」

 

「答えを期待しての問いではない。ただの独り言だ」

 

 

 ジェネレーターと対峙していた独立魔法大隊大尉柳連に同じく独立魔法大隊大尉の真田繁留が話し掛けた。

 

「それにしても、何時見ても見事だね。それも『(まろばし)』の応用かい?」

 

「何時も言ってるように『(まろばし)』ではなく『(てん)』だ。『(まろばし)』は表の術式、『(てん)』は裏の術式。それに応用ともちがう。本当の『(てん)』なら魔法など必要ない」

 

「僕たちの存在意義に関わる発言だね。隊長に言いつけるよ」

 

「……馬鹿な事言ってないでソイツを捉えるのに力を貸せ」

 

「じゃあそうしようか。と言っても既に藤林くんが『被雷針』で確保済みだけどね」

 

 

 動こうとしたジェネレーターの身体に、無数の針が突き刺さった。それを見て柳も戦闘体勢を解除した。

 

「本当にお二人は仲がよろしいんですね」

 

「藤林、お前は目はよかったはずだが」

 

「視力じゃなくって感受性の問題かな。良いカウンセラーを紹介しようか?」

 

「ほら、やっぱり息ピッタリじゃないですか」

 

 

 響子の言葉に、二人は言葉を失ったが、これだけは伝えておこうと思ったのか柳が口を開いた。

 

「藤林、達也への連絡は任せた」

 

「分かりました」

 

 

 さすがに試合中の達也を呼びつける訳には行かないので、暗号化したメールを送ることで報告するのだが、独立魔法大隊の中でこの暗号化のメールを一番早く送れるのが響子で、その次が達也なのだ。だから柳が達也への連絡を響子に任せたのはある意味で当然なのだが、真田はそれ以上に深読みして楽しそうな表情を浮かべた。

 

「藤林くんは達也君に気があるからね。暗号を使って余計な事は言わないようにね」

 

「何だそれは?」

 

「柳君だって知ってるだろ」

 

「……職務に私情を挟むな」

 

「やはり仲がよろしいようで」

 

 

 再び響子に指摘され、二人は苦い表情で捕らえたジェネレーターを運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合が終わり各校からクレームがくるかもしれないからという理由で、達也は飛行術式がインストールされているCADを大会本部に預け、自分の部屋に戻っていた。

 

「身の回りの事をキチンとするのは美点ですが、少しくらい深雪に頼ってくれたって良いじゃありませんか」

 

 

 試合が終わって疲れてるだろうに、深雪は達也の身の回りの世話をしたいとぼやいていた。

 

「深雪、少しは休め」

 

「…あの、お兄様」

 

「ん、なんだい?」

 

「傍に居てくれませんか? せめて深雪が眠るまでは」

 

「いいよ。子守唄は歌ってあげられないけど」

 

「もう!」

 

 

 さすがに自分が使ってるベッドに寝かすのは問題があるので、達也は片付けていたもう一個のベッドを取り出して深雪を寝かした。そして自分はそのすぐ傍に椅子を置いて深雪の手を握っていた。

 達也に手を握られた事で安心したのか、深雪はすぐに眠りに落ちていった。

 

「深雪?」

 

 

 声をかけても反応しないのを確認して、達也は端末に送られてきた内容をもう一度確認する。

 達也にとって観客が何十、何百人と殺されてもさほど問題は無いのだが、彼が怒りを覚えたのは「妹を地に落とそうとした」事に対してだけなのだ。

 

「(今のタイミングならあそこには誰も居ないだろうな)」

 

 

 普段達也が使用している『シルバー・ホーン』を懐のホルスターにしまい部屋から移動する。向かうのは小早川が寝かされている本部医務室だ。

 

「(これで打ち消せるかは微妙だが、とりあえずの恐怖は拭えるだろう)」

 

 

 小早川に照準を合わせて引き金を引く。紗耶香にしたのと同様の処置を小早川にも施し、達也は誰にも会わずに部屋に戻ろうとした。だがそんなに現実は甘くはなかった。

 

「あれ、達也君?」

 

「会長、如何かしたのですか?」

 

「いえ、小早川さんの様子を見に……達也君も?」

 

「ええ。ですが恐怖からか意識を失ったままですからね。それだけ確認してすぐに出ました」

 

「そう……やっぱり小早川さんはもう……」

 

「決め付けるのはまだ早いとは思いますが、後は本人次第でしょう」

 

 

 達也のセリフに、真由美は引っかかりを覚えた。

 

「それって如何いう意味?」

 

「気の持ちようという事です。魔法に対する不信感を拭いきれなかったら魔法師としては駄目でしょうが、魔法が使えなくとも如何とでも出来ますからね」

 

「……何だか知ってるような口ぶりね」

 

「さぁ? 俺は知人から聞いただけですから。実際は如何なのかは知りませんよ」

 

 

 堂々と嘯く達也だが、真由美にはその真相を知りようが無いのだ。

 

「まぁいいわ。ところで達也君、深雪さんは?」

 

「ちゃんと寝かせましたよ。ですから会長が気にする事はありません」

 

「そっか。ねぇ達也君」

 

「何でしょうか?」

 

 

 真由美の目がランランと輝いてるのを見て、達也は何となく嫌な予感を感じ取っていた。

 

「今度時間がある時でいいんだけども、飛行術式を私のCADにインストールしてくれないかな?」

 

「……お抱えの技術者でも出来ますよね? 起動式は公開されてるんですから」

 

「達也君がいいの!」

 

「はぁ……時間があれば」

 

 

 達也の返事に、真由美は気を良くして部屋まで帰っていった。一方で達也は、「また面倒事を引き受けてしまった」と肩を落としながら部屋まで帰るのだった。




小早川も一応救済、フラグは未定で……

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