劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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実にタイトル通りの内容だなぁ


余計な事

 別荘に引き上げてきた真由美たちは、その広さに驚き、そして納得した。

 

「さすが四葉家所有の別荘ね。ウチの別荘にも負けてないわ」

 

「普通の家の人間からすれば、これが別荘だって言われても信じられないわね……普通に生活出来るわよ」

 

「まぁ若干街から遠いだけで、広さ的には元いた家と大して変わらないからな」

 

 

 留守を任せていたピクシーにお茶を頼み、達也は軽くシャワーを浴びてからリビングに姿を現した。さほど湯上り感は無かったものの、達也の姿を見たほのかが若干頬を赤らめている。

 

「それにしても、十文字先輩を倒しちゃうなんて、さすが達也だね。どんな魔法を使ったのかは分からないけど、十文字先輩は簡単に勝てる相手じゃないだろう?」

 

「まぁ俺たちが戦ったところで、傷一つ負わせられるか分からないだろうが、達也なら何でもありじゃねぇか?」

 

「アンタたちが束になってかかった所で、達也くんに勝てるわけないわよ。アンタらだって一応知ってるんでしょ」

 

「まぁ、あの魔法は凄かったからね」

 

「ところで先輩。先輩は達也くんにディオーネー計画に参加してもらいたかったんじゃなかったんですか?」

 

 

 エリカには事情を話していなかったので、真由美は鋭い視線を浴びせられていた。さすがに耐えられなかった真由美は、達也の背後に移動して事情を話した。

 

「達也くんから頼まれてたのよ。十文字くんの――魔法協会の動きを探ってほしいって」

 

「もういいんですか? 十文字先輩が負けたからといって、魔法協会が大人しくなるとは思えないんですけど」

 

「十師族の動きは十文字くんから聞き出せるだろうし、響子さんも帰ってきたから大丈夫だって達也くんが」

 

「そう言えば藤林さん、家にいなかったわね」

 

 

 納得出来たのか、エリカはピクシーが持ってきたお茶に手を伸ばして一気に飲み干した。豪快に見えて全く不快に思わせないエリカの所作に、真由美は苦笑いを浮かべて自分もお茶を啜った。

 

「そろそろ帰った方が良いんじゃないか? エリカたちは明日授業があるんだろ?」

 

「それは達也さんも一緒です。免除されてるからと言って、参加しても問題は無いんですよね?」

 

 

 ほのかが懇願するように達也を見上げる。その隣では雫も同じような目で達也を見つめている。

 

「参加する事自体に問題はないが、まだ完全に面倒事が片付いたわけではないからな。もう少し落ち着いてから顔を出す事にする」

 

「そうですか……」

 

 

 しょんぼりと肩を落としたのは、ほのかや雫だけではなかった。エリカや深雪、そして何故か美月までもが肩を落とし残念そうにしている。

 

「とりあえず深雪と水波は、そろそろ迎えが来るから用意しておけ。エリカたちも、警察の人たちがそろそろ引き上げるんじゃないか? ここから東京まで歩いて帰るのはキツイと思うが」

 

「そうね……それじゃあ達也くん、また近いうちに」

 

 

 エリカがそう言って立ち上がり、レオがそれに続く。残るメンバーも渋々ではあるが立ち上がり別荘から去っていく。その間に深雪と水波の用意も完了し、兵庫が運転する車が丁度のタイミングでやってきた。

 

「先輩も送ってあげてください」

 

「かしこまりました、達也様」

 

 

 兵庫に頼み真由美も家まで送らせ、達也は誰もいなくなった別荘で漸く一息吐けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 克人と戦った翌日の朝。達也はピクシーの用意した朝食を、テレビの報道番組を見ながら食べていた。視聴しているといっても、ほとんど聞き流している状態だ。深雪と共にテーブルを囲んだ昨日を別にして、ここでの朝はだいたいそんな感じで済ましている。今朝の朝食も何時も通り終わるはずだった。だがこの朝、テレビの中でアクシデントが起こった。

 

『緊急ニュースです。まずは、こちらのメッセージをご覧ください』

 

 

 画面の焦点が、アナウンサーの横の大型モニターに切り替わる。一面ブルーだったモニターに、怪しい人物のバストショットが浮かび上がった。

 

『私は七賢人の一人。第一賢人とでも名乗らせてもらおう。私は日本の皆さんに、ある真実を伝える』

 

 

 流暢な日本語だが、この言い方だと日本人ではないなと、達也は思った。そう考えるのと同時に「七賢人」という言葉から、ある少年の顔を連想した。吸血鬼事件の大詰め、ビデオレターを送りつけてきた「七賢人」の少年。雫の留学先の知り合いだった彼の名は、レイモンド・クラークといったはずだ。

 

「(クラーク……?)」

 

 

 そのファミリーネームが、達也の意識に引っ掛かる。だが彼はとりあえず、ニュースに注意を向けた。

 

『私はUSNAが提唱したディオーネー計画が、速やかに実行されることを望む。その為に日本からもトーラス・シルバーの参加を望む』

 

 

 達也の頭の中で、三人の人物が結びついた。エドワード・クラーク、レイモンド・クラーク、この怪人物の正体。

 

『トーラス・シルバーこと、司波達也氏の参加を望む。トーラス・シルバーは国立魔法大学付属第一高校三年生、司波達也氏である。日本の方々よ。司波達也氏を説得して欲しい』

 

 

 ビデオメッセージはここで終わった。達也はその映像を見て、また面倒な事になったなとため息を吐いた。

 

『マスター、如何なさいましたか?』

 

「いや、今まで考えていた手ではどうにも出来ない事態になったなと思っただけだ。これはエスケイプ計画を早急に公表するしかなくなったな」

 

 

 この段階で発表するのは達也としても不本意ではあったが、そうしなくてはいけない状況になったと、達也はエドワード・クラークの介入でそう思ったのだった。




孤立編終了です

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