劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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どっかの大学みたいな感じだなぁ……


打開策

 第一高校を取り囲んでいたマスコミは、午後の授業が終わる頃には随分減っていた。最も多かった時間帯の約半分だ。取材事態を諦めたのではなく、FLTの女性従業員が「第一高校で問題を起こしたらトーラス・シルバーの記者会見から締め出す」と脅しをかけた成果だ。

 しかし逆に言えば、脅しに屈しない記者やリポーターが半分近くいたという事。もしかしたら指示が届いていないだけの者も多いのかもしれない。そして半減していても、生徒を怖がらせるには十分な人数を保っていた。

 今回一高に群がっている記者の中に、魔法師はいない。魔法を使える一高生が魔法を使えない「一般人」を怖がるのはおかしい、そう感じる「一般人」は少なくないだろう。確かに力ずくならば、一高生は報道陣を簡単に蹴散らせる。だがその結果、犯罪者として社会からはじき出される。奇跡的な幸運で罪に問われなかったとしても、恐れられ忌み嫌われ排斥されていく未来が容易に想像出来る。一高生は、自分たちが人間社会で生きていくしかない事を理解している。だから、社会の一員として生きていく未来を壊す「ペンの暴力」を恐れている。

 

「強行突破って訳にはいかないよね」

 

「香澄ちゃん、物騒な事は言わないでください」

 

「だから出来ないって言ってるじゃん」

 

 

 泉美にそう応えて、香澄は再度、校門の外へ目を向けた。彼女たちがいるのは正門へ続く一本道への、前庭からの入口だ。記者に見つからないよう、並木の陰に隠れて外の様子を窺っている。

 

「それは……あっ、深雪先輩」

 

 

 校舎の中から出てきた深雪に気が付いて、泉美は香澄との会話を中断した。香澄はマスコミの監視を続けたままだが、二人の背中に隠れるようにして怖々と外の様子を窺っていた詩奈は、泉美につられて校舎へ振り返っている。

 

「深雪先輩、如何でしたか?」

 

「残念だけど、校長先生は警察の介入を避けるおつもりのようね」

 

 

 残念というより「やっぱり」というニュアンスの口調で、深雪が泉美に答える。それは、学校としてマスコミに対応するつもりがない事、学校として生徒を守る気が無いという事を意味していた。

 

「じゃあ、大人しくマスコミに捕まるしかないんですか……?」

 

「マスコミの人たちも、手荒な真似はしないと思うけど……」

 

 

 詩奈が泣きそうな表情で深雪に不安を訴えると、深雪は自信が欠如した口調で答えた。

 

「深雪」

 

「ほのか、通用門の方はどうだった?」

 

「ダメ。大勢が待ち伏せてて、素通り出来そうにない」

 

「柄が悪そうな連中が何人も混じってます。通用門を使うのは、避けた方が良さそうですね」

 

 

 ほのかの回答を、幹比古が補足した。幹比古の言葉を裏付けるように、雫が頷いている。

 

「会長」

 

 

 ほのかたちとは反対側の方から、部活連会頭の五十嵐と十三束、琢磨、それに部活連には関係ないはずの侍朗が近づいてきた。

 

「五十嵐会頭」

 

 

 五十嵐の声に、深雪が振り返る。こんな時であるにも拘わらず、五十嵐は硬直してしまう。深雪の美貌に、五十嵐よりも耐性がある十三束が代わりに口を開く。――ちなみに最も動揺が見られなかったのは、十三束でも琢磨でもなく侍朗だった。彼は最初から深雪に目を向けておらず、詩奈の側に駆け寄って「大丈夫か?」と労わりの言葉を返した。

 

「全クラブに活動中止を通達しました。何時でも帰れる状態で待機させています」

 

「でも、どうするんですか、会長? 全員で一斉に下校しても、捕まる生徒は出てくると思いますし……いっその事、運動部の男子を動員して壁を作らせましょうか?」

 

「男子生徒を『人間の盾』になど出来ません。それは男女差別ですよ、七宝君」

 

 

 男子を差別する琢磨のアイディアを、深雪が優しく窘める。なお雫は琢磨の提案を「良いアイディア」と思ったのか、深雪のセリフに不満げな表情を浮かべていた。琢磨のアイディアを支持しない者も他にアイディアは無いようで、深雪に指図を求める眼差しを向けている。前庭から校門に続く並木道の入口、校門から並木の陰になっている前庭の端で、同級生と下級生の、ある意味無責任な視線を受けて、深雪はため息を吐くような表情を浮かべた。それは彼女たちに不満を覚えているというより「仕方がない」という諦めを表すものだった。

 

「……私が話をします」

 

「深雪先輩がですか!?」

 

 

 泉美が悲鳴混じりに驚きの声を上げる。泉美以外も驚きの表情を浮かべている人は少なくない。

 

「ええ。マスコミの皆さんに、帰っていただけるようお願いしてみます」

 

「危険です!」

 

「私も反対」

 

 

 泉美に続いて雫が深雪を止める。泉美のように興奮していない分、雫の制止には説得力があった。

 

「私も本当や嫌だけど、このまま何もしないというわけにはいかないでしょう? 生徒会長なのだから」

 

「でも、深雪と達也さんは最も特別な関係」

 

「そうね。だからこそという面もある」

 

「逆だよ」

 

「逆?」

 

「深雪が達也さんの元妹で、今は婚約者だという事は調べればわかる。マスコミには、そんなに難しい事じゃない。それが普通じゃないって事は分かるよね? 悪くすれば、深雪一人の問題じゃ無くなる」

 

「……魔法師全体のイメージダウンにつながると言いたいのかしら?」

 

 

 深雪は明らかに気分を害している。法律で認められている自分と達也の婚約に、ある意味でケチをつけられているからだ。




深雪の機嫌が……

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