劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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相変わらずの小物感……


貢との面会

 四葉家の分家の一つ、新発田家の次期当主・新発田勝成の職業は、表向き防衛省の事務官である。勝成の魔法戦闘力は極めて高いのだが、自分が魔法を使って戦うのではなく魔法をどうやって使って戦うべきかを考える業務に従事している。

 南米、アフリカ、中央アジアと立て続けに大きな戦闘が続いているが、東アジア、西大西洋地域は一昨年の秋以降、小康状態が続いている。そのお陰で防衛省の職員も、このところ比較的早い時間に退庁出来ていた。

 トーラス・シルバーの正体でマスコミが大騒ぎした翌日、十九時前に庁舎を出た勝成は、自宅ではなく都心のホテルに向かった。海外まで名前が知れ渡っているような一流ホテルではないが、ビジネスマンの間では食事が美味くセキュリティがしっかりしていると好評なホテルだ。待ち合わせの相手は、指定されたレストランですぐに見つかった。と言っても個室方式の店だから、部屋を間違わなければすぐに分かるのは当然だ。

 

「やぁ。呼び出してすまないね」

 

 

 勝成の父親と同年代の、平凡なスーツの男性。その中身を知っている勝成にも、ただのビジネスマンにしか見えない。

 

「いえ。父の都合がつかなかったものですから。代理人を寄越した非礼をお許しください」

 

「いやいや。当日いきなり会いたいなどと非常識な事を言った私の方に非はある。謝罪するのはこちらの方だよ」

 

「そう仰ってもらえると助かります。黒羽さん」

 

 

 勝成を案内してきたウエイターが、テーブルにやってきた。貢と勝成は酒と軽いおつまみだけを注文してウエイターを下がらせた。

 

「さて、と。今日、来てもらったのは他でもない。彼の事を相談したかったんだ」

 

「達也君について、ですか」

 

「そうだ。昨日、遂にトーラス・シルバーの正体が一般に知られてしまったわけだが、あれについて勝成君はどう思うかね」

 

「エドワード・クラークがトーラス・シルバーの名前を出した段階で、避けられなかったのではないでしょうか。四葉家にとって好ましくない事ではありますが、達也君に責任があるとは思えません」

 

「しかしそもそも、彼が一高に進学せず本家で大人しくしていれば、避けられた事態だと思わないか? エドワード・クラークのディオーネー計画はトーラス・シルバーの実績ではなく、彼が去年の春に行った恒星炉実験を念頭に置いている事が明らかだ」

 

「達也君が一高に進学したのは、彼の意思ではありません。ガーディアンという四葉家の制度上、避けられない事でした」

 

「勝成君は知らないかもしれないが、横浜事変の後、ご当主様は彼に本家で謹慎するよう命じられた。しかし彼はそれを拒んで一高に通い続けた。あの時点で表舞台から消えていれば、目をつけられることは無かったはずだ」

 

「いいえ。形は変わっていたかもしれませんが、マテリアル・バーストを使った時点で達也くんが国際政治の裏舞台に引っ張り出されるのは時間の問題となりました。そしてあの時、マテリアル・バーストを使わないという選択肢は無かった。あの魔法が無ければ、日本は甚大な被害を受けていたでしょう」

 

「そうだろうか。九州には八代家もいる。海戦ならば五輪家が出てくるだろう。海上戦闘に限って言うなら、澪嬢の『深淵』でなくても五輪家は大きな戦力となる。大亜連合は強敵だが、マテリアル・バーストが無くても負けていたとは思えない」

 

「それでも、です。それでも、あの局面でマテリアル・バーストを使わないという選択肢は無かった。戦争は、勝てばいいというものではないのと同様、負けなければ良いというものではありません。国土を蹂躙されればその分、次の戦いに投入出来る戦力が少なくなる。戦力の補充に時間がかかることも、その為には時間だけでなく経済力が必要となる事も、マテリアル・バーストで大打撃を被った大亜連合のその後を見ればお分かりのはずです」

 

 

 貢に反論の言葉は無かった。その程度の事は、言われなくても分かっているのだ。勝成に対して今のままでは効果が見込めないと考えたのか、貢が攻め口を変えた。

 

「――今後も彼のあの魔法が国防に欠かせないという、君の考えは理解した。ならば尚更、アメリカに彼の身柄は渡せない」

 

「はい」

 

 

 勝成はただ、肯定の一言だけを返した。初めて賛同を得た貢が、勢い込んで畳みかける。

 

「ならば彼を、四葉家の奥深くで保護すべきではないか? 急死した事にすれば、USNA政府も諦めるだろうし、人間主義者に殺された事にすれば、魔法師に対する世論の矛先を鈍らせることも出来よう」

 

「そうですね」

 

「ならば――」

 

「黒羽さん」

 

 

 貢は分家の意思を一つにして、真夜に達也の監禁を要求するつもりだった。だが共謀を迫ろうとして貢の言葉を、勝成が強い口調で遮った。

 

「私は、分家当主の皆様が達也君に過剰な敵意を向ける理由が理解出来ませんでした。だから先日、父に確かめました。なかなか白状しようとしませんでしたが、最終的には話してくれました」

 

「……そうか」

 

 

 その話は、貢たちの中だけに留めておく約束だった。だが新発田家当主の理を、貢は非難する気になれなかった。いや、出来なかった、と表現した方が正しいだろう。相手が達也本人であるとはいえ、真っ先に秘密を漏らしたのは貢自身なのだから。




コイツは何がしたいんだかイマイチ分からない……今の達也を敵に回したところで、自分が排除されるだろうに……

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