劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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最後にちょっとした爆弾が


記者会見 後編

 記者たちのざわめきが収まるのを待たずに、達也は説明を開始する。

 

「魔法恒星炉、重力制御魔法による核融合炉を実用化し、家庭用、産業用に広くエネルギーを供給する新規事業です」

 

 

 達也の説明を聞いた報道陣が、無秩序に仲間内で会話を始める。達也は今度は騒ぎが収まるまで、無言でそれを眺めていた。

 

「プラントの仕組み自体は、それほど目新しいものではありません」

 

 

 秩序を取り戻した会場に、達也の声が響く。報道陣は、彼の言葉を質問で遮ろうとはしなかった。

 

「プラントは離島、あるいは海上に建設する予定です。魔法恒星炉により生み出された電力で海水から水素を作り出し、本土に輸送します。水素生産の過程で同時に海水中の有害物質を取り除き、海洋環境の浄化にも貢献したいと考えています」

 

 

 プラントの仕組みを表す簡単なアニメーションが大型スクリーンに映し出される。動画の解説は、達也ではなくFLTの女性従業員が務めた。

 動画が終了し、会場内に軽いざわめきが走る。工業系産業紙の記者が、興味をそそられた表情で手を上げた。

 

「――核融合炉から直接送電する事は考えていないのですか?」

 

「魔法恒星炉の安定性に懸念を懐く方もいらっしゃると思いますので、当初は市街地から十分距離を置いた場所にプラントを建設する予定です。ですから、送電ロスを考慮し、水素燃料に変換するスキームを計画しています」

 

「核融合炉の稼働には、相当数の魔法師が必要になると思いますが」

 

 

 今度は魔法関係雑誌の記者から質問が飛ぶ。

 

「仰る通りです。この事業に参加する魔法師は、プラントのある島、あるいは海上基地に移住してもらう事になります」

 

「魔法師の独立国を作るつもりですか!?」

 

 

 この質問は、魔法に否定的なメディアの記者によるものだ。

 

「プラントの性質上、魔法師だけでは運営出来ません。スタッフの内訳はむしろ、魔法師以外の技術者の方が多くなるでしょう」

 

「つまりそこでは、少数の魔法師が多数のスタッフを支配するという事ですか」

 

「プラントは法令を遵守して運営します」

 

 

 魔法師に対する反感を剥き出しにした難癖を、達也はまともに取り合わなかった。だがその答えは教科書通りのものであるが故に、具体的な材料が無い今の段階では、これ以上言い掛かりを続ける事が出来なかった。

 

「ディオーネー計画への参加要請はどうするのですか?」

 

 

 援護射撃なのだろう。同系列の報道機関の記者から挑みかかるような口調で質問が飛ぶ。

 

「USNA国家科学局の要請は、トーラス・シルバーを名乗る高校生の参加です。ですが先ほど、トーラス・シルバーはいなくなったのですから、応えようがありません」

 

「屁理屈だ!」

 

 

 達也の人を喰った回答に、記者が反射的に叫んだ。達也自身、屁理屈だと分かってて言っているので、そう指摘されても動揺はない。むしろこの程度の屁理屈で大人しくなられたら、拍子抜けの気分を味わっていただろう。

 

「ではUSNA国家科学局のエドワード・クラーク氏は、この私に参加を求めてきているのですか?」

 

 

 反論もあらかじめ用意してあったものである。記者には「そうだ」と応えられない反問だ。何せエドワード・クラークが参加要請をしていたのは『トーラス・シルバーを名乗る高校生』であって『司波達也』個人ではないのだから。

 

「しかし、クラーク氏が貴方の事を指してトーラス・シルバーと言っていたのは明らかですよね!」

 

 

 それでもその記者は、更に食い下がった。どうしても達也をディオーネー計画に参加させたいのだろうと、達也の新規事業に興味をそそられたメディアの記者たちはそう感じていた。あるいは、形だけの同盟国に対する義理を果たせとでも言いたいのかもしれないと。

 

「そうなんですか?」

 

 

 記者が言っている事は事実だと達也は知っているが、世間に大して明らかにはなっていない。達也は「Yes」とも「No」とも答えず、ただそう聞き返した。

 記者の方は、完全に憶測だ。だから「そうなのか」と問われると、答えに詰まってしまった。

 

「仮に今後、ディオーネー計画からお誘いがあっても受けられません。魔法恒星炉プラントの計画は、既に建設地の選定段階に入っています。他の大型プロジェクトに関わっている時間は、私にはありません」

 

「第一賢人を名乗った人物に心当たりはありませんか?」

 

「推測の域を出ませんが、エドワード・クラーク氏のご子息、レイモンド・クラーク氏ではないかと思われます」

 

 

 記者の質問に対しての達也の答えに、今日一番のざわめきが走った。もし達也の推測が当たっていた場合、民主国家のUSNAの公人関係者が、魔法師と未成年の人権を侵害したという事なのだから。

 

「何故そう思われたのでしょうか?」

 

「私は一度だけ、レイモンド・クラーク氏を映像でお見かけした事があります。その時の骨格と、第一賢人の骨格は非常に似ていました。骨格照合したわけではなく、あくまでも私の見立てですので、推測の域を出ないと申し上げました」

 

「ではもし骨格照合をして、レイモンド・クラーク氏だと判明した場合、貴方はどのような行動に出るのでしょうか?」

 

「具体的には何もしません。ただ、人権を平然と侵害する国家が推奨するプロジェクトに参加を強要するのはどうなのだろうかとは申し上げたいと思っています」

 

 

 そう締めくくって、トーラス・シルバーの記者会見は終了した。




達也の眼は誤魔化せない

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