劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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気付けば九校戦編が終わる……


情報の使い道

 無頭竜の始末をした翌日、達也は再び独立魔装大隊が使っている部屋を訪れていた。

 

「昨日はご苦労だったな」

 

「いえ。ですが、たかが犯罪シンジゲートの情報を内情がほしがってた理由は何ですか?」

 

 

 達也からしたら、無頭竜の情報など興味も無い事なので、気まぐれな感じで聞き出したのだがその情報にどんな価値があるのかが分からなかったのだ。

 

「無頭竜は『ソーサリー・ブースター』の供給元なのだ」

 

「達也君、『ソーサリー・ブースター』の原料が何だか知ってるかい?」

 

「人の脳だと聞いています」

 

「うんそうだね。より細かく言えば魔法師の大脳だ。死の直前に同じ恐怖を与える事で同じ性能のブースターを作ることが可能らしいんだ」

 

「蟲毒の原理ですか……確かに内情が動くには納得の理由ですね」

 

「壬生も喜んでたぞ。達也が持って来た情報はかなり役に立つとな」

 

「そういう事情なら先に言ってくれても良かったのではありませんか?」

 

「お前だって公安相手に取引をしたんだろ? それと同じだ。得た情報を如何使うかは此方次第と言う事だ」

 

 

 風間の言葉に、達也は何も言い返せなくなった。確かに自分も遥から買い取った情報を使って無頭竜を潰したのだからと思ったのだろう。

 

「ともあれご苦労だった。今回は達也の力があってこその早期解決だったからな」

 

「それに、千二百メートルの狙撃データも手に入ったし、ホント達也君には感謝してるよ」

 

 

 無頭竜の事が片付いてホッとしている風間と、達也が無頭竜のメンバーを消した際に得たデータを見てホクホク顔の真田に一礼し、横に座っている柳と山中にも一礼して達也は部屋から出ようとした。

 

「ちょっと待って」

 

「……何でしょうか?」

 

 

 あえて視界に入れないようにしていた相手、響子に捕まり達也はため息を堪えながら振り向く。

 

「例の約束、忘れちゃ駄目だからね」

 

「分かってますが、当分は俺も藤林少尉も忙しいでしょうからね。いけるとしても九月以降になるかと」

 

「約束? 達也、何か藤林としたのか?」

 

「いえ、運転手のお礼をと」

 

「なら日程が決まったら俺に言え。二人同時に休ませる事くらい出来るだろう」

 

「少佐?」

 

 

 何故風間が急にそんな事を言い出したのかが分からない達也は、しきりに首を捻ったのだが、風間の脳内には、昨夜の烈の愚痴が聞こえていたのだ。

 

「(少々歳の差はあるが、藤林は達也に執心だからな。閣下も達也に興味がありそうだったし、この際くっついてくれたら……無理か)」

 

「あの少佐、自分はこれで」

 

「ああ、ご苦労だった」

 

 

 急に考え込んだ風間に、達也は声をかけて部屋を辞したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 総合優勝が決まってるとはいえ、九校戦はまだ全ての競技を終了した訳では無い。達也は本戦モノリス・コードの予選を観戦する為に会場に入り、空いている席が無いかをキョロキョロと探していた。すると斜め前から鋭い氷の塊が飛んできたので、達也はそれを手で受け止めた。そしてその手を下ろすとバッチリ深雪と目が合ってしまった。

 

「随分と手荒な歓迎だな」

 

「お兄様が気付かないフリをするからです」

 

 

 深雪が達也を呼んだのだが、その周りには深雪と同じように思ってる美少女たちが居るのだ。達也もおいそれとその場に近付くような事はしない。なぜなら周りに男共が座っており、空いていた一席を狙ってたからだ。

 

「達也さん、何処に行ってたんですか?」

 

「ちょっと知り合いが居てな。その人と話してたんだ」

 

「知り合い? こんな場所に?」

 

「こんな場所だからだ。エリカだって兄上にお会いしただろ?」

 

「達也君!」

 

「エリカちゃん、お兄さんと仲直りしたの?」

 

 

 雫の質問に、達也は修次の話を持ち出す事で興味を逸らす事に成功した。達也の立場上、知り合いを詳しく聞かれると困るのだ。

 

「エリカのお兄さんって、あの『千葉の麒麟児』って呼ばれてる?」

 

「雫、知ってるんだ」

 

「まぁね」

 

「そうよ。でも今は変な女に騙されたヘタレだけどね」

 

「変な女って?」

 

「エリカちゃん、渡辺先輩を悪く言うのは止めなよ」

 

 

 美月の言葉に、今まで黙ってたエイミィが食いついた。

 

「何々~エリカのお兄さんの彼女って、渡辺先輩なの?」

 

「ちょっと止めてよ! そろそろ試合も始まるんだから黙れ!」

 

 

 エリカの言葉に、漸く静けさを取り戻した客席とは対照的に、フィールドには騒音が響いていた。

 

「さすがは十文字先輩ですよね」

 

「俺らとは安心感が違うな」

 

「そんな事無いですよ! 達也さんたちも凄かったです!」

 

「そうだよ。だから達也さんも自分に自信を持って」

 

「……ありがとう」

 

 

 ほのかと雫に慰められるような形になり、達也は少し困りながらも何とか笑顔で返した。

 

「達也さんって、そんな表情も出来るんだね」

 

「ん? どんな表情だ?」

 

「いや、さっきのだけど」

 

 

 エイミィに指摘されたが、達也は何の事か理解出来なかった。完全に無意識な上に自分の表情は自分では確認出来ないのだから仕方ないが、達也が見せた表情に客席の女子たちは魅了されていたのだった。

 

「お兄様、後で少しお話があるのですが」

 

「ああ、構わないが」

 

 

 無意識に、無自覚で女子を魅了した兄に、深雪は嫉妬の感情をぶつけた。だが深雪も先ほどの達也の表情に魅了された一人である事には違い無いのだ。

 

「(お兄様の笑顔、深雪でも滅多に見られないのに……それを雫とほのかに向けてらっしゃったのを見ると、やはりあの二人はそれなりにお兄様と親しくなってるという事よね……)」

 

「そう言えばレオと幹比古は何処に居るんだ? アイツらも観てるんだろ?」

 

「あの二人なら医務室。ミキが気持ち悪くなったって言うからレオが連れて行ったわ」

 

「幹比古が? 人込みに酔ったのか?」

 

「そうじゃない? それで、男一人になるのを気にしたのか、レオが連れて行ったって訳」

 

 

 エリカの説明に、達也は納得したように一つ頷いた。

 

「だがレオが連れて行く必要があったのかは微妙だな。アイツがそんな事を気にするとは思って無かったから」

 

「アレでも男って事でしょ。まぁ、魅力は達也君の方が何十倍も上だけどね」

 

「兄上には負けるがな」

 

「達也君!」

 

 

 達也を困らせようと放った言葉を逆手に取られ反撃されたエリカは、顔を真っ赤にして達也に殴りかかろうとしたが、今が試合中で、周りには他の客が居る事を思い出して大人しく席に留まった。

 

「ねぇねぇ、終わったらアイス食べに行かない? さっきワゴン販売してるのを見つけたんだ」

 

「良いですね」

 

「熱くなってきたし丁度良い」

 

「そうですね、お兄様は如何します?」

 

「そうだな……偶には良いか」

 

「じゃあ達也君の奢りね」

 

 

 さっきの攻撃の仕返しなのか、エリカがそんな事を言い出した。だが達也としても、さっきはやり過ぎたと少なからず思っていたので、その条件を飲むことにした。

 

「それじゃあ皆、終わったら達也君の奢りでアイス食べるわよ~」

 

「待て、全員分か?」

 

「当然でしょ!」

 

「まぁいいが……」

 

 

 懐は問題ないが、達也は男一人に美少女六人の構図が、周りから如何見られるのかを失念してしまっていたのだった。




前回の「老師の愚痴」の流れを引き継いでの風間の思考……

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