劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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珍しい光景だと思う


久しぶりの生徒会室

 達也が校長室から退出したのは、あと十分もしない内に昼休みになるという時間だった。当初はこのまま伊豆に戻るつもりだったのだが、先ほど校長に言ったように、友人たちと会っておこうと考え、少し迷った末に生徒会室へ向かう事にした。授業中の教室から見られないルートを使って、四階の一番端の部屋へ向かう。先ほど校長が言っていたように、達也のIDカードは問題なく――まだ一高の生徒であるから当然だが――鍵の役目を果たした。

 そんなに長い事留守にしたわけではない。達也は特に懐かしさを感じるでもなく、何時も通り自分の席に座って端末を立ち上げた。業務の進捗状況をチェックする。深雪たちは特に滞りなく生徒会の仕事を進めていた。

 久しぶりに「仕事」と関係のない作業で気を紛らわしていると、すぐに昼休みが訪れた。とはいえ、深雪たちが来るのは食事を済ませてからだろう。達也はそう思っていたが、彼の予想に反して深雪たちはすぐやってきた。

 

「達也様?」

 

「達也さん?」

 

 

 深雪だけではなく、ほのかも、生徒会役員ではない雫も、学年が違う泉美と香澄と水波もほぼ同時に生徒会室へやってきた。

 

「久しぶり、でもないか」

 

 

 今日は金曜日で、前回この一高の、校門のすぐ側で会って、深雪と水波、ほのかと雫を家まで送ったのが月曜日。久しぶりと挨拶するのは微妙なところだ。ちなみに、深雪とは毎晩ヴィジホンで話しているので、彼女に関して「久しぶり」が適当ではないのは確実だが。

 

「……本日の記者会見について、学校へ報告に来られたのですか?」

 

 

 達也の顔を見て少し考え込んでいた深雪だったが、すぐに気を取り直していきなり正解を言い当てた。

 

「そうだ。知っていたのか?」

 

「記者会見の事は伺っておりましたので、おそらく、そうではないかと……」

 

 

 深雪が言う通り、記者会見を開く事は、東道青波から許可をもらい、真夜に報告してすぐ深雪にも伝えていた。

 

「ああ。たった今、校長先生とお話しさせてもらったところだ。ディオーネー計画への参加を断っても、授業の免除は続く事になった」

 

「そうですか」

 

「……何かここでする事があったのか?」

 

 

 深雪だけでなく、ほのかも何となくそわそわしている。自分がいると都合が悪いようだと、達也はそんな印象を持った。もちろん、深雪やほのかたちが、達也を追い出すなんてことはないが、達也は何となく出ていった方が良いのだろうと感じていた。

 生徒会室に集まったメンバーは、深雪、ほのか、雫、泉美、香澄、水波。先に来ていた達也を除けば女子ばかりだ。もしかしたら、女の子だけで話し合う事があったのかもしれないと考えての問いかけだ。

 

「いえ、その……達也様の記者会見を、ここで拝見しようと思っていたものですから」

 

「……なるほど」

 

 

 達也が記者会見を開いていたのは、授業中の事だ。真面目な生徒が生中継をリアルタイムで視聴出来るはずがない。今日の会見を知っていた深雪は、生徒会室のサーバーで中継を録画していたのだろう。魔法関係のニュースが充実しているあのチャンネルは、学校単位で視聴契約している。

 

「図書館に行っているから、帰りに声を掛けてくれ」

 

 

 自分の記者会見をテレビで見るのは、いくら達也でも気恥ずかしいものだ。彼は逃げるように、生徒会室を後にして図書室へ向かった。その途中、カウンセリング室と保健室の前を通ったのが失敗だったと、達也は後悔したが既に遅かったのですぐに切り替えた。

 

「随分久しぶりね、達也さん」

 

「小野先生と安宿先生とはあまり会わなかったですからね。それに、今俺は一高に籍は残ってますが、通ってはいませんので」

 

「達也さんが何か会見を開くというのは聞いていたけど、まさかあんなことを計画してたなんてね~。ディオーネー計画に参加出来ないと言っていたのは、あのプロジェクトもあったからなの?」

 

「前にも話しましたが、ディオーネー計画には裏の目的がありますから。あんな計画に参加したら、地球で生活出来なくされてしまいます。そうなったら、小野先生や安宿先生も困るのではありませんか?」

 

 

 この二人は真夜が認めた愛人である。結婚もしていないのに愛人も無いだろと達也は思っているのだが、婚約者の間にはそう発表されているので、達也はその表現に関しては何も言わなかった。

 

「それにしても、校長や教頭が達也さんをディオーネー計画に参加させようとしているって聞いた時は、本気で潰そうかと思ったわよ。私の『もう一つの職場』でも、あの計画の事は話題になってるし」

 

「そっちの反応は?」

 

「まぁ、一応情報に長けてなければやっていけない職場だから、ディオーネー計画の真の目的についてはすぐに気づいた人が多いから、無理に参加させるべきではないって言ってたから、多分今頃大騒ぎになってると思うわよ」

 

「魔法協会の職員たちも、それぐらい理解力があれば良かったのですが」

 

「何かあったの?」

 

 

 達也が面倒臭そうに呟いた言葉に、怜美が反応する。達也は軽く頭を振ってFLT本社から一高に向かう間にあった出来事を話した。

 

「――というわけです」

 

「それは、面倒そうね」

 

「最初から参加しないと言っているのに、向こうはどうしても達也さんに参加させたいのね」

 

「俺の『別の秘密』を知っているのでしょう」

 

「あー……それはありえそうね」

 

 

 戦略級魔法の使い手である事を知っている二人は、エドワード・クラークが達也を地球から追いやりたい理由はそっちなのだろうなと、ますます苛立ちを募らせたのだった。




照れて逃げ出す達也はレア

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