鈴音との会話を終えたのを見計らって、愛梨たちがまず達也の周りを取り囲んだ。
「達也様ならあのようなUSNAの計画に押しつぶされるとは思っていませんでしたが、私たちの想像以上の事をしてくれましたね」
「あの計画なら、USNAの方も気軽に潰す事は出来ないじゃろう。むしろ地球上に居場所が増える分、マスメディアは達也殿の計画を支持するべきじゃろうし」
「全部がそうなるとは思えないけど、既に達也さんの計画の方が良い、ってメディアも出てきてる」
愛梨、沓子、栞の順に達也をほめたたえる中、香蓮だけが複雑な表情を浮かべている。
「香蓮さん、どうかなさったのですか?」
「いえ……達也様が地球上にいてくださるのは嬉しいのですが、結局は私たちと離れて暮らす事には変わりないのかと思い、少し寂しさを感じていました」
「暫くは戻ってこれないが、落ちつき次第ここで暮らすつもりだ」
「達也殿が宇宙空間に放り出されないだけマシじゃと思うがな。香蓮は意外と寂しがりやじゃから、達也殿と出来るだけ長く一緒にいたいと思った、というところか」
沓子に指摘されて、香蓮の顔は真っ赤に染まった。自分で自覚してなかった気持ちを友人に指摘された事で、恥ずかしさが倍増したのかもしれない。
「香蓮さんのその気持ち、分からなくはありませんわ。私たちだって達也様とは出来るだけ長く、一緒にいたいですもの」
「でもその為には、達也さんが陣頭指揮を執って出来るだけ早く新プロジェクトを軌道に乗せなければいけない。それは香蓮だって分かるよね?」
「もちろん理解しています。ですが、なにも手伝えずにいる自分が歯がゆく思ってしまうんです……参謀的な立場でありながら、達也様に大した策も授けられなかった自分が恥ずかしいというか、達也様と張り合おうなんて思ってた自分が恥ずかしいというか……」
もしこの場に将輝や真紅郎がいたら、香蓮の言葉をどう受け取っただろうと、沓子はそんなことを思っていた。香蓮よりあの二人の方が達也に対して対抗意識を燃やしていたから、完膚なきまでに負けたという事実をあの二人はどう受け止めたのか気になったのだった。
「香蓮さんの知識は確かに私たちにとっては役に立ちましたが、達也様なら香蓮さん以上の知識をお持ちでしょうから、私たちはただ達也様のお帰りを待つだけの方が良いと思いますわよ。下手に手伝おうとしても、達也様の邪魔になるだけかもしれませんし」
「それはありえそう。さっき市原鈴音が話してたのも、そういう話でしょ?」
「聞いていたんじゃないのか?」
「興味はあったけど、盗み聞きなんて出来ない」
育ちの良さが邪魔をしたのか、彼女たちは寸でのところで盗み聞きを踏みとどまったのだ。だから達也と鈴音が何を話していたのかは分からないが、だいたいの想像はついていた。
「鈴音さんは大学を卒業したら手伝わせて欲しいと言ってきただけだ。本当なら今すぐにでも手伝いたいが、とも言っていたが」
「口惜しいですが、私たちより魔法に対する知識が豊富な市原さんですら、達也様の足手纏いになるかもしれないと考えて勉学を優先したのですから、私たちがすぐに役に立てるなんて思うのはおこがましいですわ」
「それはそうじゃろうが、少しでも達也殿の役に立ちたいと思ってしまう気持ちも、分からんではないがな。特に香蓮は、立場的には達也殿と同じ参謀というポジションだからの」
「達也さんの場合は、かなり武闘派な参謀だけどね。自分で敵地に忍び込んで、あっという間に片づけるという感じの」
「それは否定出来んの」
けたけたと笑う沓子とは違い、香蓮は真剣な表情で達也を見つめていた。
「達也様は何時からあのような計画を練っていたのですか?」
「恒星炉実験より前、と言っておくが、具体的な時期は俺にも分からない。重力制御型熱核融合炉の実現が目標だと思ったのは、かなり子供の頃だったからな」
「つまり、達也様は昔から魔法師の軍事的利用からの解放を望んでいたと?」
「軍事的利用は仕方ないとは思うが、兵器として扱われるのは改善しなければいけないと思っていたのは確かだ。俺のように、個人には過ぎる力があるのなら兎も角、大抵の魔法師はそこまでの力は有していない。むしろ戦闘向きの魔法師の方が少ないだろう。だが魔法という力を持たない人間は、そんな事を考えない。魔法師というだけで忌み嫌い、戦場に向かわせようとする。魔法師も人で、死ぬかもしれないという事を完全に無視してな」
「達也様は昔、司波深雪を目の前で殺されかけた事があると聞いた事があるのですが、それも関係しているのでしょうか?」
「恐らくは関係しているのだろうが、それだけが原因ではない、と思う。何しろ自分の感情が上手く理解出来ないから、何がきっかけなのかは俺自身も良く分からないんだ」
達也が悲しそうな笑みを浮かべたのを見て、愛梨たちはこれ以上この話題を引っ張ろうとはしなかった。滅多に感情を見せない達也が見せた悲し気な表情は、彼女たちにかなりの衝撃を与えたのだ。
「兎に角、香蓮たちも今は勉強に集中してくれ。何かあれば頼るだろうからな」
達也が自分たちを頼る可能性など、限りなくゼロだろうと感じながらも、香蓮は頷く事しか出来なかったのだった。
学校での成績は兎も角、一歩外に出れば達也の方が圧倒的に優等生。成績も悪いわけじゃないですけど