劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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これが後で問題になる


普通の高校生の限界

 香蓮たちがどいたので、今度はエイミィたちが達也の周りを取り囲んだ。

 

「何だかこうして達也さんとお話しするの久しぶりな気がするよ~。最近が学校にも来てないから、会う機会が無かったから仕方ないのかもしれないけど」

 

「まぁボクたちより深雪たちの方に顔を見せるのも仕方ないとは思うけど、少しくらいボクたちの事を意識してくれるとありがたい」

 

「司波君がクラスからいなくなった所為で、柴田さんが質問攻めに遭ってるんだよ」

 

「美月が?」

 

 

 達也と美月の関係はクラスメイトだ。友人という関係もあるが、達也的には友人の彼女という感覚が強くなってきているので、クラスメイトと思うように最近切り替えたのだ。

 

「だって柴田さんと吉田くんがお付き合いしてる訳でしょ? 司波君と吉田くんは仲が良かったから、その彼女である柴田さんが何か知ってるんじゃないかって」

 

「そんな事を考えるヤツがいるのか?」

 

「十三束君が、司波君の居場所を聞き出そうとしてたよ」

 

「十三束君が? 何で彼が達也さんの居場所を知りたがってるの?」

 

 

 十三束が達也を探す理由が、エイミィやスバルには分からなかったが、達也はすぐにピンときていた。彼の母親が魔法協会の会長である事を知っている。恐らく外務省あたりが十三束の母親を使って自分をディオーネー計画に参加させようとしているのだろうという考えに達し、その母親を助けようと自分を探しているのだろうと。

 

「十三束には悪いが、居場所を教えてやるわけにはいかないな。こちらとしても、魔法協会の妨害をこれ以上無視出来ない状況だからな」

 

「魔法協会の妨害? なんだい、それは?」

 

「恐らく外務省からの圧力で、俺をディオーネー計画に参加させようと画策しているようだ。しばらくすれば外務省もそんなことを考えなくなるだろうが、いきなり考えが変わるほど頭は柔らかくないだろうからな」

 

「達也さんが発表したのだって、十分国際的なプロジェクトですよね? なのになんでまだディオーネー計画に参加させようとするんですか?」

 

「USNAが同盟国だからだろうな。同盟国が発表したプロジェクトに対抗するようなプロジェクトを発表したのが気に食わないのと、俺が未成年だという事も意地になっている理由の一つだろうな」

 

「未成年である達也さんに出し抜かれたと思っているというわけかい? 随分と子供っぽい理由だな」

 

「そもそもが俺を地球から追いやりたいという理由なんだから、多少子供っぽくても仕方ないとは思うがな」

 

 

 達也があっさりと言うものだから、スバルたちはどう反応すればいいのかに迷ってしまった。確かにディオーネー計画の真の目的が自分たちの気に入らない魔法師を地球上から追いやる事だという事は聞かされていたし、政府の人間がその事に気付いていない事も知っている。だが未成年を保護するのではなく、自分たちの面子を守る為に達也を生贄にしようなど、彼女たちにはそんな黒い考え方が出来なかったのだ。

 

「どれだけ妨害策を講じようと、相手にする理由は無いがな。むしろ、日本という国に拘る理由が無いのだから、何処か別の国でプロジェクトを進めれば良い。そうすれば魔法協会からの妨害も無くなるし、日本政府がUSNAからちょっかいを出されることも無くなるだろう。ただし、得られるはずだった国益を丸々犠牲にするだけの覚悟が政府側にあるのなら、だがな」

 

「達也さん、そんな黒い事を平然と言わないでくれるかい? ボクはなんとか踏みとどまったが、エイミィがあまりの衝撃の大きさに意識を失ってる」

 

「司波君が黒い事を平然と言うのは今更だけど、さすがに今回のは衝撃が大きすぎるよ……」

 

「そうか?」

 

「幾ら四葉家次期当主であり、世界的なエンジニアである君だろうが、政府相手に戦おうなんて考える高校生は普通じゃない。その普通じゃない人の婚約者であるボクらから見ても、今の話はあまりにも荒唐無稽であり、普通の高校生には耐えられない程の衝撃だ」

 

「そんなものなのか……深雪や雫たちは、普通に聞いてくれたから分からなかった」

 

「深雪は兎も角雫たちも……」

 

 

 自分たちとさほど変わらないだろうと思っていた雫たちすら、達也の考えを普通に聞いていたのかと、スバルはその事の方がショックだった。彼女たちが普通じゃないと感じたからではなく、自分たちの達也に対する想いはその程度だったのかというショックだ。

 

「達也さんを失うかもしれないという恐怖と、達也さんが日本を敵に回すという恐怖、どっちが恐ろしいかと聞かれれば比べるまでもなかったな……ボクたちはそこまで考えが回らなかった」

 

「恐らくそれが普通の感覚なんだろう。だから、あまり自分を責めない事だな」

 

「私たちは普通とは無縁の世界に飛び込んだんだから、普通の考えを持ったままじゃ駄目だって分かってたんだけど……いざとなるとやっぱり普通の考えしか出来ないんだって思い知らされただけ……明日にはもう切り替えられるとは思うけど、今はそっとしておいて」

 

「そうか」

 

 

 千秋も同じようなショックを受けたようだと、達也はスバルたちをその場に残して部屋に向かうのだった。

 

「まさかほのかまでもが達也さんの考えに同意したとはな……」

 

「あの子は達也さん第一だから仕方ないにしても、冷静な考え方が出来る北山さんまでもがとはね……」

 

 

 それぞれ違った相手にショックを受けていたので、二人は顔を見合わせて同時に肩を落としたのだった。




達也並みの頭脳を持つ高校生がそうそういるとは思えないが

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