劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この程度なら可愛いものです


雫のちょっとした我が儘

 達也が部屋に戻ると、すぐに雫が部屋にやってきた。何時もならほのかも一緒なのだが、今日は雫一人だったので、達也も少し不思議そうに雫を眺めた。

 

「どうしたの?」

 

「いや、雫一人というのも珍しいなと思っただけだ」

 

「そんなに一緒にいるイメージがある? 達也さんと深雪みたいに」

 

「学校では俺たち以上に一緒にいたんじゃないか?」

 

 

 昔真由美にずっと一緒にいると言われた事を思い出して、達也は苦笑いを浮かべながら雫に問いかける。一緒に暮らしていたので自分たち以上とは言えないが、学校では自分と深雪は別行動が多かったので、その部分では雫たちの方が一緒にいたのではないかと。

 

「クラスも一緒だったし、部活も一緒だしね。でも、達也さんだけにはほのかとセットだと思われたくない」

 

「別にセットだとは思っていない。ただ珍しいと感じただけだ、他意は無い」

 

「そう」

 

 

 達也がちゃんと自分を見てくれていると分かり、雫はホッとした表情で達也の前に腰を下ろす。真由美と違ってただ遊びに来たわけではないと分かっているので、達也も真剣な表情で雫を見つめ返す。

 

「達也さん、明日私もついて行っていいかな?」

 

「ついていくって、魔法協会にか?」

 

「明後日はウチに行くわけだし、私も一緒に達也さんの車で帰ろうと思って。そうすれば余計な人員を割かなくても良いし」

 

「だが、明日は深雪の家に泊まる予定なんだが」

 

「だから、私も一緒に。もちろん深雪の邪魔はしないし、達也さんがダメって言うなら諦めるけど」

 

「別に俺は構わないが、魔法協会に来ても退屈だと思うぞ? エドワード・クラークに面と向かって参加拒否を告げて終わりだからな」

 

「なんなら車の中で待ってても良いし、出資予定者の娘として一緒にエドワード・クラークに会っても良いよ。既に出資するつもりがある企業があるプロジェクトを潰すなんて、さすがに出来ないだろうし」

 

「最初から潰されるつもりも無いが、そっちの方がより効果的かもしれないな。雫が良いなら、同席してもらおうか」

 

「うん、良いよ」

 

 

 付き合いの短い相手なら分からない程度の変化だったが、雫は確かに嬉しそうな表情を浮かべている。達也が自分を必要としてくれているから嬉しいのか、達也と一緒にいられるのが嬉しいのかは達也には分からなかったが、とにかく雫が嬉しそうにしているので、達也も何となく優しい表情を浮かべた。

 

「ところで達也さん、さっきエイミィたちと何を話してたの?」

 

「エスケイプ計画とディオーネー計画についてちょっとな。日本政府が邪魔して来たらどうするのかとか、そんな感じの会話だ」

 

「邪魔してきたところで、達也さんが大人しく引き下がるとは思えない。そもそも邪魔をする意味が分からない。外交問題に発展するかもなんて、そもそも未成年の権利を無視してる時点で向こうが悪いんだから」

 

「記者会見で第一賢人の正体がレイモンド・クラークではないかと言ったお陰で、メディアは幾分かこちらに同情的になってるが、全てがそうなっているわけじゃない。USNA側に立って報道するメディアも少なくないから、外交問題を気にするのは仕方ない事だとは思うが」

 

「達也さんは優し過ぎだよ。あんな連中、気にするだけ無駄なのに」

 

「雫の知り合いじゃなかったか?」

 

 

 達也の問いかけに、雫はムッとした表情を浮かべる。確かにレイモンド・クラークは顔見知りだが、雫の方には何の感情も無いただの知り合い程度なのだ。婚約者である達也に何か特別な感情があるのではないかと思われているのが、雫にとって面白くなかったのだろう。

 

「レイはただの知り合い。向こうが言い寄ってきただけで、私にとってはただの情報源の一人にすぎないんだから」

 

「まぁ俺が雫にパラサイトの出所を調べて欲しいと頼んだ所為で、雫とレイモンドの間に縁が出来てしまったのかもしれないからな。勘違いしてるわけじゃないから、そうむくれるな」

 

 

 達也に頭を撫でられ、雫は複雑な思いを懐きながらも、達也の手に身を委ねた。

 

「達也さん、私は深雪じゃないよ」

 

「分かってる。だが雫だって撫でられるのが嫌なわけでは無いんだろ? 本当に嫌なら手を撥ね退ければいい。俺は無理に撫でるつもりは無いからな」

 

「分かってて言ってるのが達也さんの人の悪さだよね。嫌なわけじゃないけど、妹扱いされてるみたいで複雑なだけだよ」

 

「そういうつもりは無いんだがな……深雪の髪を撫でてる回数が多いから、そう思うだけじゃないか?」

 

「そうかもしれないけど、何となくそう思っちゃうんだよね……達也さんが大人びてるのも、要因かもしれないけど」

 

「どういう意味だ?」

 

 

 達也も自分が彼女たちと同い年に見られないだろうという自覚はある。どちらかと言えば真夜たちの方に近いと思われるだろうとすら思っているが、それと妹扱いしているように見られるのがどう結びつくのかが分からなかったのだ。

 

「七草先輩ですら、達也さんの前では妹キャラになりかけてるって事だよ」

 

「あの人は子供っぽいから仕方ないんじゃないか?」

 

「かもしれないね」

 

 

 達也と雫は、互いの顔を見て笑い合う。ここに真由美がいたら文句を永遠に言ってきそうな感想だったが、二人にとってはそう思っても仕方ないだけの真由美の行動を見てきたのだから、笑ってしまっても仕方なかっただろうと開き直っていたのだった。




会う前からレイモンド敗北決定

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