劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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祝140話目&お気に入り登録者数1900名突破。そして次で九校戦編が終わります


九校戦終了

 モノリス・コードの決勝ステージは「渓谷ステージ」に決まり、真由美は別件も兼ねて克人にその事を伝える為に控え室にやってきていた。

 

「スマンな、こんな格好で」

 

「気にしないで、別に裸って訳じゃないんだし」

 

 

 真由美は気にして無いようだが、克人の方が若干自分の格好を気にしていた。普通は男女逆のような気もするのだが、真由美が気にして無い以上、克人もその事をこれ以上話すつもりはなくなっていた。

 

「父から師族会議の暗号メールが来ました」

 

「それで?」

 

「その反応からすると、十文字君のところには来てないのね」

 

「師族会議の暗号メールは解読に時間がかかるからな」

 

 

 本当は違う理由で克人のメールが来てないのだが、真由美は克人の理由を知らないので額面通りに受け取った。

 

「それもそうね。それで内容なんだけど……一条君が達也君に負けたでしょ? それで高校生のお遊びとはいえ十師族の力に疑問をもたれるのは好ましくないって」

 

「あの試合は「遊び」で片付けられるレベルでは無かったがな」

 

「そうだけどさ……」

 

 

 ふと視線を外して、真由美は舌打ちでも聞こえてきそうな表情で続けた。

 

「達也君が傍流でも十師族の血を引いてくれてればこんな三流喜劇なんてしなくても良いのにね……ホント馬鹿馬鹿しいわ」

 

「仕方ないだろ。この国の魔法師界の頂点たる十師族の力を誇示するのは必要な事だ。そしてそれは十文字家次期当主たる俺がするべき事だ」

 

「そもそも達也君の事を認めたくないからこんな事やらせるんでしょ? 老師だって認めてる感じなんだから、さっさと諦めて認めちゃえば良いのに……」

 

 

 真由美の愚痴を無表情で聞きながら、克人は後で達也に確かめたい事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノリス・コード決勝戦は克人の一人舞台だった。十師族の力を誇示する為もあるが、元々そんなメールがなくともこの試合は克人一人で勝つことが出来ただろう。チームメイトである服部と桐原は自陣モノリス前で待機。克人は一人で敵陣に攻め入る作戦なのだから。

 

「あれが十文字家の『ファランクス』ですか……凄い威力ですね」

 

「あれは本来の『ファランクス』の使い方では無いように思えるが……確かに凄い」

 

 

 多重移動防壁魔法『ファランクス』を駆使して、克人は相手選手に体当たりを喰らわせている。魔法障壁越しなので直接攻撃扱いにならないのだが、達也にはそれが本来の使い方には思えなかったのだった。

 

「(何か力を誇示してるような感じがするな……さっき葉山さんから来たメールが原因なんだろうな……)」

 

 

 十師族の中でも特に力のある『四葉家』の関係者として、達也も真由美に送られてきた内容とほぼ同じメールが届いていた。本来なら深雪に送るのが普通なのだろうが、葉山も心得ているので達也に送ったのだ。

 

「(そこまで十師族は頂点に居たいのか……俺が言うのもあれだがな……)」

 

 

 自分が原因で、先輩がこんな風に力を誇示するような戦い方をしてるのだと理解してるので、達也は苦笑いを浮かべていた。

 

「ん? 達也君如何かしたの?」

 

「いや、相手選手に同情をな……十文字先輩と戦わなくてはいけないなんて不運だと思っただけだ」

 

「確かにそうね……」

 

「服部先輩と桐原先輩だけでも強いんでしょうけども、やはり十文字先輩は格別ですからね」

 

「そうだね、でも同情は不要だと思うよ。これも勝負だから」

 

 

 エリカが納得し、ほのかと雫がその後を継ぐようにコメントを続けた。達也はその二人のコメントに更に苦笑いを浮かべそうになったが、それは鉄壁のポーカーフェイスで表情に出さずに終えた。

 

「総合優勝が決まってるとはいえ、やはりモノリス・コードの優勝もほしいんじゃねぇの?」

 

「でも、それなら十文字先輩じゃなくても大丈夫なんじゃないか?」

 

 

 レオと幹比古の見当違いの考えに、達也はのる事にした。

 

「準決勝までは十文字先輩を温存してたからな。決勝くらいは十文字先輩も動きたかったんじゃないのか? それに俺たちと似た戦術で、圧倒的な差を見せ付ける目的もあるのかも知れん」

 

 

 相手選手を全て戦闘不能にして、克人は右手を突き上げるように上げている。そしてその視線は一瞬だけ達也の方に向けられたように見えたので、レオも幹比古も達也の考えに納得した。

 

「でもまぁ、三年と一年だしな。力の差はあると思うぜ」

 

「そうだね。そもそも達也は代理で出たんだから、気にする必要は無いよ」

 

「別に気にしては無いんだが……」

 

 

 何故か慰められる形になった達也は、見っとも無いように見えるように芝居を打つ。そしてその芝居に騙されたほのかや雫に慰められるのだが、深雪は達也の本心に気付いているのか二人を見ても何時もの荒れ狂うような感じは見られなかったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 片付けの為達也が他のメンバーから離れたのを見計らい、深雪は達也の部屋を訪ねた。

 

「お兄様、先ほどの話ですが、やはり十師族が関係してるのでしょうか?」

 

「よく気付いたね。葉山さんからメールで知らされたから知ってるが、一条が俺に負けた事で師族会議で揉めたらしい」

 

「お兄様だって十師族の……」

 

「俺は関係無い人間だ。それにその事は公に出来る事でも無い」

 

「……申し訳ありません」

 

 

 達也に言われた事を失念していた深雪は、恥じるように身体を縮こませた。

 

「お前が気にする事では無いさ。それに叔母上も知ってて師族会議に出てたんだから同罪だろう」

 

「ですがお兄様を侮辱するような輩の考えに従うつもりはありません!」

 

「落ち着け。今はまだその時では無いだろ」

 

 

 達也は怒りを露わにしかけた深雪の頭を軽く叩き、そのまま撫でる。するとさっきまでの怒りが嘘のように消え、深雪は達也に甘えだした。

 

「そろそろダンスパーティだろ。俺は兎も角深雪が行かない訳にはな」

 

「お兄様も当然参加するんですからね? 何せ新人戦優勝の立役者なんですから」

 

「俺は別に関係無いだろ……競技にだって一種目しか出てないんだから」

 

「お兄様はご自分を低く見すぎです! お兄様のお力があったからこそ、新人戦は優勝出来たのです! そしてその新人戦の貯金があったからこそ、本戦も一高が優勝出来たんです!」

 

 

 深雪の言葉に、達也は「大げさだ」とは言えなかった。もし言えばまた深雪がヒートアップすると理解していたからだ。

 

「ではお兄様、そろそろ行きましょうか。恐らくですが、ほのかや雫も待ってますよ」

 

「正直賑やかなのは得意じゃないんだが……」

 

 

 達也の腕を引っ張りながら、深雪は歩を進める。達也の言い訳など、深雪には全く効果が無いのだと、達也自身も理解してるので、諦めて深雪の横に並びホールに向かうのだった。




四葉家からの連絡で知ってるから、達也も克人の戦い方を原作以上に落ち着いてみてます

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