劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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嘘八百を並べ立てたところで、達也に勝てるわけないのに


白々しいインタビュー

 何となく後味の悪いムードがティールームに居座っているのを感じて、空気と一緒に雰囲気を入れ替える為、雫は窓を開けるよう女性使用人に指示した。自分はリモコンを操作してテレビをつける。これも気分を変えようとしての事だったが、映った番組が逆効果だった。

 

「雫、このままで頼む」

 

 

 チャンネルを変えようとした雫を達也が制止する。画面の中ではインタビューに答えるエドワード・クラークのコメントが続いていた。

 

『――ですから、魔法を真の意味で人々の未来に役立てようとするなら、宇宙開発に活用すべきです』

 

 

 テレビの中のエドワードは英語で喋っており、字幕が彼のセリフを同時通訳している。

 

『魔法核融合炉は素晴らしい発明だと思います。しかしそれは燃料の補給が困難で太陽光の供給も不安定な、例えば木星の衛星上で用いられるべきです。核融合発電なら、衛星が公転により木星の陰に入る時期でも安定して電力を供給できます』

 

「ガニメデの公転周期はたったの七日、カリストでも十七日弱しかないけどな」

 

 

 達也が皮肉な声音で呟く。無論テレビの向こう側に、彼の声は届かないが、深雪と雫は達也の呟きに力強く頷いた。

 

『海洋開発は魔法を使わなくても、他の技術で代替出来ます。海上太陽光発電や地熱発電を使えばプラントに必要な動力は確保出来るはずです。魔法という希少な才能は、もっと有意義な用途に使われるべきなのです』

 

「さっき、聞いたような話ですね?」

 

 

 深雪が皮肉でも嫌味でもなく、素朴に疑問を覚えた口調で達也に尋ねる。

 

「向こうの公的機関に確認したわけではないので断定は出来ないが、親子だから似たような事を言っていても不思議ではないだろう」

 

「どうしても達也さんを宇宙に追いやりたいんだね」

 

「こいつらは恐らく、俺の魔法を知っているのだろう」

 

 

 使用人の耳を気にしてはっきりと言わなかったが、達也が『マテリアル・バースト』を指している事は深雪はもちろん雫にも理解出来ていた。

 

『司波達也さんには是非、人類の未来を切り拓く我々の計画に参加してもらいたい。そう考えています』

 

 

 テレビの中ではエドワードが建前を力説している。彼の本音を正確に見抜いている達也は、その言葉に嘲笑で応えた。

 

「雫、もう消して良いぞ」

 

 

 エドワードの会見が終わり、雫がリモコンを持ったまま固まっていたのを見て、達也が雫に指示を出す。達也の言葉に頷いて、雫はテレビを消した。

 

「それにしても、達也様に裏の目的を知られていると思わないのでしょうか?」

 

「思ってるだろうな。それでも俺を宇宙に追いやりたいんだろう、自分たちの身の安全を確保するために」

 

「エドワード・クラークは兎も角として、ベゾブラゾフは戦略級魔法師のはず。無理に達也さんを宇宙に追いやろうとする理由が分からない」

 

 

 本気で分からないという感じの雫に、達也は憶測でも良いならと前置きしてから説明を始める。

 

「俺の魔法は理論的には範囲の限界はない。衛星とリンクして画像を確認出来れば、何処までも射程範囲になる。だがさすがに宇宙空間からではそれが難しいから、自分たちの身の安全の確保と、日本の戦力ダウンを目的としての事だろう」

 

「じゃあやっぱり、さっき達也さんが言ったように金星のテラフォーミングは建前なんだ」

 

「そっちが主の計画ではない事は確かだろうな。別に俺がいなくても出来なくはない計画なのに、俺に固執してるのを考えればそれが分かる」

 

「でも、メディアはそうは考えていない。だから達也さんが一高に復帰出来ない――で、あってる?」

 

「簡単に言ってしまえば、それであっている」

 

 

 雫の上目遣いに、達也は表情を和らげて頷く。その隣で深雪がムッとした表情を浮かべたが、ここで雫と争っても仕方ないと思い我慢したようだった。

 

「達也さんはこの後、どんな反論に出るつもりなの?」

 

「こちらから仕掛けるつもりは無い。魔法協会の職員がいる前で拒否を叩きつけたから、あいつらが使う手段は限られてくる。それに対応すればいいだけだ」

 

「でもそれじゃあ、何時まで経っても達也さんがこっちに帰ってこれない」

 

「いずれ向こうが自爆するだろうから、そこで反論すればいい。例えば、ベゾブラゾフがしびれを切らして攻撃してくれば、こちらとしては最高の反撃手段となる。魔法の平和利用を謳っている計画の賛同者が、戦略級魔法で攻撃を仕掛けてくるんだ。これほどディオーネー計画にダメージを与える餌はない」

 

「ですが達也様。トゥマーン・ボンバがどのような魔法か分からない以上、迎撃は難しいのではありませんか?」

 

「問題はそこだ。俺一人ならいくらでも対抗策はあるが、人がいるところを襲われると厄介だ。だから俺はもうしばらく伊豆に引っ込んでいる」

 

 

 達也一人ならという考えを、深雪も雫も「自信過剰」だとは思わなかった。むしろ自分たちが側にいるせいで達也の足を引っ張りかねないという考えの方が自然なのだ。

 

「伊豆の別荘の側には、夕歌さんたちがいるのではありませんか?」

 

「彼女たちなら身内だし、巻き込まれるのも覚悟しての事だろうからな。もちろん、見捨てるつもりは無いし、みすみすやられるつもりも無い」

 

 

 達也の答えに、深雪と雫は出来るだけ穏便に済めばいいと願いながらも、それは無理なのだろうと悟ったのだった。




穏便に済むなら、達也が伊豆にいる意味がなくなりますから……

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