達也が発表したプロジェクトは、一高内でも話題になっている。当事者である達也は学校に顔を出していないが、達也に近しい人間が大勢いるので、その相手に質問をする生徒がかなりいるのだ。
「司波さん。司波君が発表したプロジェクトって、いったい何時頃から考えてた事なの?」
「詳しい時期は私にも分かりませんが、少なくとも私がまだ達也様の事を『お兄様』と呼んでいた時から、既にそのような事は計画していた模様です。一年生の頃、達也様は図書室の地下に篭っていろいろと調べておいででしたし、今思えば、あれも恒星炉に使えそうな文献を探していたのかもしれません」
「二年の春先にやった恒星炉実験は、今回のプロジェクトの為の実験だったのですか?」
「あの時の恒星炉は、あくまでもあのメンバーが揃って完成出来たものです。今回のプロジェクトで使われる恒星炉より、遥かに性能が劣るものだったと聞いています。もちろん、あのメンバーだからこそ出来た実験だったとも。ですので、あの実験が今回のプロジェクトの布石だったかどうかは、私には分かりかねます」
「少なくとも、ディオーネー計画が発表されてから考えたものではないというのは本当なんですね?」
「私が言っても、達也様をUSNAに取られたくないからと思われるかもしれませんが、達也様は昔から、魔法師を兵器として使い潰す現状を打開したいと考えておられでした。今回のプロジェクトは達也様にとって、前々から温めていたものの一つでしょうが、ディオーネー計画への当てつけではありません。これだけは断言出来ます」
深雪の返答に、クラスメイトの大半は納得したように頷いたが、一部の男子生徒たちはつまらなそうな表情を浮かべている。
「やっほー、深雪。ちょっといいかしら?」
「あらエリカ。何かご用かしら?」
「ミキが質問攻めに遭ってるのよね。助けてやってくれない?」
「吉田くんが? もしかして、達也様の件かしら?」
「そっ。ミキに聞いたところで詳しい話なんて分からないって思わないのかしらね? 確かにミキは達也君の友達ではあるけど、実験の協力者ってわけじゃないんだから、一般向けに公表された事以上の事なんて知りようがないのに」
深雪はエリカの言葉を素直には受け取らなかった。確かに世間一般に公表された情報以上の事は知らないだろうが、幹比古は達也があのプロジェクトに付けた非公式な名称を知っているのだ。
「ほのか、雫。ここはお願いしてもいいかしら?」
「分かった。行ってらっしゃい」
ほのかと雫にこの場を任せて、深雪は幹比古を助けるべく隣のクラスへと向かったのだった。
三年の教室で見受けられる光景は、当然のように二年の教室でも見受けられていた。水波が在籍しているクラスでは、エスケイプ計画について詳しく知りたがっている生徒たちが水波に殺到していた。
「桜井さんは司波先輩から何か聞いていないの?」
「私はあくまでも四葉家に援助を受けている人間です。次期ご当主であられる達也さまが勧めておられるプロジェクトの概要など、私のような人間には入ってきません」
「でも、司波会長と一緒に生活してるんだから、何か聞いたりとかしてないの?」
「例え聞いたとしても、それを話す事など出来ません」
水波の返答は、従者としては満点の返答だったが、クラスメイトたちを納得させる威力は無かった。それどころか、何かを知ってて隠しているのではないかと疑われるものだった。
「別に私たちに話したところで、理解出来るかどうかも分からないんだし、話してくれてもいいんじゃないかな?」
「それとも、私たちみたいな子供には分からないって思ってるの?」
「そうではありません。ですがあのプロジェクトは様々な妨害を受ける可能性があるのです。無関係な人を巻き込まない為にも、達也さまはプロジェクトの概要を必要最低限の方にしかお話ししていないのです。手伝いも出来ない私に、話すはずがないではありませんか」
「妨害って、やっぱりディオーネー計画に参加しろってやつ?」
「実際達也さまが魔法恒星炉エネルギープラント計画を発表してからも、USNAからはディオーネー計画に参加しろという要請が来ていますので」
「そりゃ向こうも司波先輩の技術が目当てだったんだから、何としてでも参加してもらいたいんじゃないの?」
クラスメイトの疑問に、水波は苦笑いを浮かべそうになったのを何とか堪えた。さすがにエドワード・クラークが達也をディオーネー計画に縛り付けたい理由を話すわけにはいかないし、話したところで信じてもらえるわけがないと理解しているからだ。
「発表こそしていませんでしたが、ディオーネー計画よりも魔法恒星炉エネルギープラント計画の方が先に動き出していたものです。そして達也さまはその計画の実質的な責任者でもありますので、最初からディオーネー計画に参加は出来なかったのです」
「それで司波先輩はトーラス・シルバーの片割れとして世間に顔を出したというわけなんだね」
「私はそう聞いていますし、それが真実だと信じています」
水波の説明を聞いていたクラスメイトたちは、水波が一片も疑っていないような目をしているのを見て、それで納得するしかなかったのだった。
水波は従者の鑑だねぇ