劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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原作より真夜は達也よりですから


四葉の動き

 USNAが外務省に圧力を掛けて達也の妨害を試みている事を、四葉家が知らないはずもなく、真夜は妨害工作をいかに妨害するか頭を悩ませていた。

 

「達也さんを優秀な魔法師として認めているくせに、USNA主催の宇宙開発に参加しろだなんて、政府の方たちは何を考えているのかしら」

 

「達也殿の実力の全てを知っているわけではありませんし、日本政府はUSNAからの圧力に逆らえませんから」

 

 

 真夜の愚痴に応えながら、葉山はハーブティーを真夜の前に置く。真夜は笑顔で葉山にお礼を言ってから、そのハーブティーを一口啜った。

 

「漸く国防軍の方たちを黙らせることに成功したというのに、今度は海外とは……達也さんも大変よね」

 

「恐れながら奥様、国防軍の方も完全に黙らせたかどうかと問われれば」

 

「そうなのよね……一時的なものでしょうし、自分たちが正義だと思い込んでいる連中程厄介なものはないものね」

 

「国内でも国防軍以外の問題もありますし」

 

「外務省の圧力を受けた十三束翡翠が、十師族の抗争を唆そうとしてるって事かしら? あの方にはそんな事出来ないから大丈夫よ」

 

 

 真夜は、十三束翡翠の為人をそれなりに知っている。誰かを唆して抗争を起こすくらいなら、自分の中に溜め込んで自分を傷つける事を選ぶと。それが新たな火種にならなければいいとは考えているが、だからといって素直に達也を差し出すつもりなど更々ないのだ。

 

「確か一高には、十三束翡翠さんのご子息が通っていたわね?」

 

「『レンジ・ゼロ』の異名を持つ鋼殿が確か、深雪様や達也殿と同学年だと調べがついておりますが」

 

 

 それが何か? という感じの葉山に、真夜は少し深刻そうな表情を作って見せた。

 

「万が一翡翠さんが倒れて、それを達也さんの所為にされたら深雪さんが暴走するかもしれないと思っただけよ。十三束のご子息が深雪さんに敵うはずがないけど、我を忘れて深雪さんに勝負を挑むなんてことにならなければいいのだけど……」

 

「花菱の息子を介して、達也殿にそれとなく伝えておきましょうか?」

 

「いえ、その必要は無いわ。深雪さんもそこまで考え無しではないでしょうし、下手をして達也さんの迷惑になるかもという考えは、深雪さんの中にもあるでしょうしね。最悪、水波ちゃんが止めてくれるでしょう」

 

「然様ですか」

 

 

 真夜の考えに葉山は納得がいった様子はないが、今の段階でこれ以上出来る事がないのも事実なので大人しく真夜に従う。

 

「外務省の方には、青木さんを使って少し脅しをかけておけばいいでしょう。四葉家の異名、知らないとは言わせないとでも伝えておけば、しばらくは大人しくしてるでしょうし」

 

「かしこまりました。青木には私めが伝えておきましょう」

 

「お願いね」

 

 

 真夜は別に、同じ日本人だからという理由で外務省相手に手加減を加える必要性を感じていない。むしろ同じ日本人だからこそ、四葉家の脅威を再認識させておく必要があるとさえ感じていた。

 それは外務省に留まらず、政界、財界、国防軍、魔法協会らが相手でも同様で、いっそのこと四葉家は十師族の枠から抜けてやろうと思った事も一度や二度ではないのだ。恐らく四葉家が離脱を表明すれば、それに追随する家も一つや二つでは無いだろう。

 

「四葉家は決して身内を見捨てたりはしない。たとえ世界中を敵に回す事になっても……この事を、もう一度世界中に知らしめる必要がありそうね」

 

「奥様、達也殿が望んでいるのは平穏な日常です。それを手に入れる為にも、無用な戦闘は控えた方がよろしいと思います」

 

「分かってるわよ。世界を滅ぼすのは本当に最後の手段よ。まぁ、今の段階でUSNAという国を滅ぼしたいと思っているのは否定しないけど」

 

「それは恐らく深雪様や、他の婚約者の方々も同じ思いでしょう。ですが、達也殿がそのような事を望んでいない以上、下手をすれば達也殿に嫌われてしまう可能性があります故、くれぐれも慎重に、早まった事はしないようにお願いいたします」

 

「たっくんが本気になれば、世界なんて一瞬で焼け野原に出来るのにね……たっくんは変なところで優しいんだから」

 

 

 呼び方が変わったのを受けて、葉山は真夜が仕事モードからプライベートモードに切り替わったのを察した。この部屋には最初から自分と真夜しかいないので、達也に対する呼び方を気にする人間などいないのだが、真夜は何かにつけてプライベートな呼び方をしないようにしているのだ。

 

「USNAには今、達也殿の婚約者の一人であるアンジェリーナ殿が滞在されておりますので、滅ぼすにしても彼女がこちらに帰国してからかと」

 

「九島閣下の弟さんの孫娘、だったかしら? 九島といえば、何やら怪しい動きをしているらしいから、そっちも調べておくようにしてくれるかしら? たっくんの邪魔になることは、早めに芽を摘んでおかなければいけないもの」

 

「御意に」

 

「そんなに堅苦しくなる必要は無いわよ。私と葉山さんの仲でしょ」

 

「奥様が私めを特別扱いしてくださるのはありがたい事でございますが、私めはあくまで四葉家に仕える者、けじめは必要でございますので」

 

「相変わらず真面目ね」

 

 

 葉山の返事を聞いた真夜は、苦笑い気味の笑みを浮かべてカップに残っていたハーブティーを飲み干したのだった。




葉山と兵庫は兎も角他の従者たちがなぁ……

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