劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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リーナが珍しく考えてる……


別の考え

 司令官室を退いた後、バランスは別室を借りて、そこにリーナを連れて行った。

 

「リーナ、最近調子はどうだ?」

 

「問題はないですが、早いところ日本に――達也の側に戻りたいですね」

 

 

 二人は一つのテーブルを囲んで座っている。立ったままでは話がしにくいと、バランスが座るように言いつけたのだ。

 リーナの前にはハニーミルクのカップではなく、アメリカンコーヒーのマグカップが置かれていた。ミルクでは示しが付かないと考えたのか、パラサイト騒動以降私室以外ではコーヒー党で通すようになっている。もっとも最近になって、胃が荒れているのか濃く淹れたコーヒーは飲めなくなった上に、クリームと砂糖を欠かせないのだが。

 バランスの前にもアメリカンコーヒー。ただし彼女はブラックだ。元々かなり濃く淹れてあったので、クリームと砂糖を入れたらコーヒーの味が分からなくなっていただろう。

 

「さっきの話だが……」

 

「はぁ」

 

 

 リーナは椅子の上で背筋を伸ばしかけて、バランスがそれを苦笑いを浮かべながら制した。室内には彼女たち二人しかいない上に、バランスはリーナが既に軍人ではない事を知っている。だからリーナの口調を咎める事も、立ち居振る舞いを注意する必要もないのだ。

 

「ウォーカー大佐はああ言っていたが、参謀本部がどのような決定を下すかはまだ分からない。もしかしたら、私たちが出勤を命じられる事になるかもしれない」

 

「その時は、私は達也側につきます」

 

「そうだろうな」

 

 

 同じ女として、バランスはリーナの気持ちが理解出来るのだ。もし自分の婚約者を殺せと言われて、素直にそれを実行出来るかどうかはバランスにも分からないのだ。

 

「国防省内には別の意見もある」

 

「それは、達也に対する別の方針があるという意味でしょうか」

 

 

 バランスの口調は独り言じみていたが、リーナは聞き逃さずに問い返した。

 

「そうだ。経済的には魔法核融合炉のノウハウ吸収。軍事的には抑止力の分担」

 

「抑止力の分担……?」

 

 

 ピンと来ずに戸惑っているリーナを見て、バランスは失笑した。

 

「分担案の当事者は君だ、九島リーナ」

 

「はっ? 私が当事者……?」

 

「まだ分からないか?」

 

 

 バランスの笑みは「馬鹿なヤツめ」というより「仕方のないヤツめ」というニュアンスが強かった。リーナの察しが悪いのは前からなので、バランスはさらに詳しい説明をリーナにする事にした。

 

「『灼熱のハロウィン』の状況からして、向こうも衛星照準システムを使えるようだ。恐らく、我々の物より精度が上だろう。そのノウハウも取り込む事が出来れば、君のヘヴィ・メタル・バーストと司波達也のマテリアル・バーストで世界中の軍事勢力を制圧出来る。少なくとも、大規模な軍事行動を思いとどまらせる事は出来るに違いない」

 

「私と達也が協力……?」

 

「元々我が軍は君の戦略級魔法を国防の為だけに使用するつもりは無い。拠点防衛・拠点攻略に特化している『リヴァイアサン』と違って、ヘヴィ・メタル・バーストは使用場所を選ばないからな」

 

 

 正確に言えば、ヘヴィ・メタル・バーストは重金属がある程度の塊で存在する場所でなければ十分な威力を出せないし、起伏が激しい地理条件の下では効果が限られる。だが海や広い湖、大河など水が豊富にある地形で無ければ真価を発揮出来ないリヴァイアサンに比べれば、ヘヴィ・メタル・バーストは自由度が高い。地理条件に左右されないという点では『オゾン・サークル』や『アグニ・ダウンバースト』に劣っているが、威力や発動速度といった他の条件を加味すれば、ヘヴィ・メタル・バーストは戦略弾道ミサイルに代わる抑止力に適した魔法だと言える。

 

「驚く事ではあるまい? 新ソ連と日本。同盟を組むなら、日本の方が御しやすい相手だ。だからもしそうなっても、余り変な態度は取るなよ」

 

「しかしバランス大佐。私のヘヴィ・メタル・バーストは、先だっての襲撃の際に無効化された事があるのですが」

 

「何だとっ!? そのような報告は受けていないぞ」

 

「表面上は任務を達成した形になっていましたし、余計な不安を煽るのもどうかと思い黙っていましたが――」

 

 

 リーナは南盾島襲撃の際、ヘヴィ・メタル・バーストが不発に終わった事をバランスに話す。対抗魔法を使ったのが達也なのではないかという考えは伏せ、リーナはヘヴィ・メタル・バーストが止められる可能性がある事をしっかりとバランスに告げた。

 

「そうなってくると、抑止力の分担という考えも難しくなるな……」

 

「既に自分はUSNAの人間ではなく日本の人間なのですから、分担といわれても結局は日本が大きな力を持つだけだと思いますが」

 

「それはそうなのだが、君は表向きまだスターズ総隊長なのだよ。だから、国防省の連中は君を使って司波達也の脅威を取り除こうと考える」

 

「先程も申し上げましたが、達也は相手がちょっかいを出してこない限り――自分に不都合でない限り無関心を貫き通します。下手に刺激して達也の怒りを買う方が危険ではないかと」

 

「なるほどな……一応、覚えておこう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 自分の言葉は一考に値するとバランスが受け取ってくれたので、リーナはバランスに対して頭を下げた。バランスは苦笑いを浮かべながら右手を振り、リーナは笑みを浮かべて部屋を後にしたのだった。




既に日本に帰化してるから、分散にはならないよ……

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