劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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甘さ控えめ、無理矢理感ハンパ無いですがどうぞ


IFルートパート2 その1

 九校戦も終わり、大抵の生徒は部活動に汗を流したり、一学期の成績を愁いて勉強などに勤しむのだろうが、達也の場合は本人の意思とは関係無く部活動で汗を流していた。

 

「面!」

 

「脇が甘いです!」

 

 

 夏休み明けまで剣道部の代理部長を任されている為に、達也はFLTでの飛行デバイスの最終チェックや独立魔装大隊での訓練の合間を縫って剣道部で指導をしていたのだ。

 

「次!」

 

「お願いします!」

 

 

 春の一件で暫く部活に参加してなかった紗耶香も、六月辺りから復帰し、今では部長候補にまで名が挙がるようになっていた。

 

「面! 面! 胴!!」

 

「無駄な動きが多いです! だからすぐに息が上がる」

 

 

 紗耶香の攻撃を全て払い、達也は紗耶香の面に一撃入れる。

 

「面あり! 勝者司波!」

 

「指導ですので、判定はいいですよ」

 

 

 そもそも剣道の試合中に私語は厳禁なので、この戦いは試合として成立してないのだ。

 

「では、少し休憩にしましょうか。皆さん疲れてるようですし」

 

 

 達也の指導はそれなりにハードなメニューが組まれてるため、普通の高校生には結構キツイレベルなのだ。

 

「一番動いてるのに、何で司波君は涼しい顔してるのよ」

 

「何でと言われましても……無駄な動きを最小限に抑えれば、それだけスタミナの消費を抑えられるとしか」

 

 

 実際はこれ以上のメニューをこなしてるからなのだが、その事を言う訳にもいかないのでもっともらしい嘘で紗耶香の質問に答えた。

 

「休み明けには大会があるんですよね? それまでにはこのメニューをこなせるようになれば上位入賞も確実視出来るでしょう」

 

「その頃はもう司波君は剣道部代理部長では無くなっちゃってるけどね」

 

「元々、何で俺なんて推薦したんですか? 武器術は専門外なんですがね」

 

 

 例の一件の後、紗耶香をはじめとする女子部員と、達也の実力を間近で見た男子部員の要望があってこうなってるのだが、正直達也は何故自分に指導を頼んだのか聞いてなかったのだ。

 

「司波君の動きを見て、『この人は武器術でも私たちの上をいってるんだろうな』って思ったからだけど」

 

「俺のは徒手格闘、これは前にも言いましたよね? それだけ見て武器術の腕は判断出来ないと思うのですが」

 

「細かい事は今更いいじゃない! 司波君はこうして指導してくれてるんだからさ」

 

「細かく無いような気も……」

 

 

 本来なら兄と過ごせる時間を奪われたと、家には吹雪を巻き起こしている妹が待ってるのだと、達也は頭痛を覚えながら紗耶香の言い分に呆れた。

 

「それでは次は……」

 

「え!? もう休憩終わり?」

 

「既に五分は経ちましたけど?」

 

 

 達也の感覚では、五分は休みすぎなのだが、剣道部一同からすれば、あのメニューで五分の休憩では、正直足りないのだ。

 

「普段どんな練習をしてたんですか? 今更ですが」

 

「こんな感じよ」

 

「三十野先輩」

 

 

 剣術部でありながら、達也の指導を受ける為に剣道部に顔を出している三十野巴が一般的な練習メニューが掛かれた紙を達也に手渡した。

 

「なるほど……これは剣術部の練習メニューですよね?」

 

「……何で分かったの?」

 

「剣道に魔法は使いませんから」

 

 

 三十野の手渡したメニューには、魔法を使っての練習項目が含まれていた。だがそれは一見しただけでは分からないはずだと、横から覗き込んだ紗耶香は思っていた。

 

「降参。やっぱり君は凄いのね、司波君」

 

「でもまぁ、このくらいだと分かりましたので、ありがとうございました三十野先輩」

 

「何だか仲良さそうね……」

 

 

 三十野と達也の一件を知らない紗耶香は、つまらなそうに頬を膨らませた。

 

「おや~紗耶香は司波君が取られちゃうって嫉妬してるのかな~?」

 

「剣道一筋だった紗耶香がね~」

 

「そんなんじゃないわよ! 勝手な事言わないで!」

 

「紗耶香が怒った~」

 

「それ、逃げろ逃げろ~」

 

「……それだけ体力があるのなら、グラウンド五周してきます?」

 

「「真面目に練習させてもらいます!」」

 

 

 達也のジト目に耐えられず、からかった二人は逃げ足を止めてその場で頭を下げた。

 

「まったく! 私と司波君はそんな関係じゃ無いわよ!」

 

「じゃあ桐原とか?」

 

「桐原君は弟みたいな感じよ。そういう三十野さんこそ、桐原君とはどんな関係なのよ」

 

「別に。ただの部活仲間よ」

 

 

 何だか弟を取られそうになった姉を見てる気分だと、達也は内心呆れていた。桐原は別に誰とも付き合って無いのだから、誰と懇意にしてても良いのだが、今このタイミングだけは、達也は桐原に対して同情したのだった。

 

「さて、いい加減再開しますよ。何時までも無駄話してては時間がもったいないですから」

 

「無駄話って……ッ!?」

 

 

 反論しようとした紗耶香は、達也の目が笑ってない事に気がつき言葉を飲み込んだ。あの目は図書館でテロリストに向けていた目だと、紗耶香だけが気付いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 練習も終わり、片付けの最終チェックをしていた達也の許に、先に帰ったはずの紗耶香がやってきた。

 

「何か忘れ物ですか?」

 

「そうじゃないの。さっきはゴメンなさい。まさかあそこまで怒るとは思って無かったから」

 

「あそこまでとは?」

 

「ほら、さっきの目、春先にテロリストに向けてた目にそっくりだったから」

 

「ああ、あの場所に先輩も居たんでしたね」

 

 

 達也の中では、紗耶香があの場所に居た事は大きな意味を持っていなかったので忘れていたのだが、言われてみて達也は、確かにあの場に紗耶香が居た事を思い出していた。

 

「あの時、司波君が止めてくれなかったら、今頃私は如何なってたんだろう」

 

「分かりません。もしかしたら刑務所に収容されてたかも知れませんね」

 

「怖い事言わないでよ」

 

 

 達也の冗談に聞こえない冗談に本気で身震いして、そこで会話が途切れた。

 

「さて、鍵を返したら俺も帰ります。先輩も用が済んだら早めに帰る事をお勧めしますよ」

 

 

 ヒラヒラと手を振って遠ざかる達也の背中に、紗耶香は声を掛けた。

 

「待って!」

 

「まだ何か?」

 

 

 達也としては、早く帰って深雪の機嫌を取らないと家中の家具が凍り付いてしまうのではないかと気が気じゃないのだが、紗耶香はまだ肝心な事を達也に伝えてないのだ。

 

「あのね、剣道の大会で優勝したら……」

 

「大会? 休み明けのですか。それで?」

 

 

 言葉が続かなかった紗耶香を見て、達也は何となくではあるが用件に当たりをつけた。だが自分から切り出すほど、彼は優しくないし自惚れてもいない。もしかして勘違いかもしれないのだから、達也は紗耶香が自分の口で言うまで黙っていた。

 

「優勝したら、私と付き合ってください!」

 

 

 それだけ言い、紗耶香は全速力で武道場から去っていった。

 後日紗耶香が見事優勝を果たしめでたく付き合う事になったのだが、深雪と真由美が祝福してるのにも関わらず、目が笑って無かった事に達也だけが気付くのだった。




とりあえず、本編で達也を選ばせ放置していた紗耶香をIFで回収。代理部長はこの伏線で入れてました。

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