劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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まだ平和な感じがする


模擬戦後の歓談

 模擬戦の後始末を終えた頃には、閉門時間が迫っていた。深雪たちはそこで生徒会活動を切り上げ、エリカやレオと合流して何時もの喫茶店に集まった。

 

「へぇ。水波、そんなに強かったんだ」

 

「いえ、今日は運が良かっただけで……」

 

 

 香澄の言葉を、水波が恥ずかしそうに否定する。

 

「運もあるだろうけどさ。実力が無きゃ十三束くんには勝てないよ」

 

「エリカ、桜井の実力を知っていたのか?」

 

「分かりにくく鍛えてあるけどね。よく見れば相当やれるって伝わってくるわ」

 

「そんなもんかね……」

 

 

 レオが感心したのはエリカに対してか、水波に対してか。たぶん、その両方だ。

 

「でも、体育の成績はあまり良くないと聞いていますが?」

 

 

 泉美が特に他意はなく、単なる質問として水波に尋ねた。

 

「その、球技は苦手で……」

 

 

 本気で苦手なのか、水波は少し恥ずかしそうだ。体育全般があまり得意ではない泉美は――出来ないのではなく心理的に「不得意」なのである――それ以上、問い詰めたりしなかった。

 あまり持ち上げすぎるのも気の毒だと思ったのか、幹比古が話題の方向性を変えた。

 

「でも、実力だけの結果じゃなかったというのは、桜井さんの言う通りだと思うな。十三束君は本当にやり難そうだったよ」

 

「女子が相手だから?」

 

「うん。白兵戦形式のルールだったから余計に、だろうね」

 

「魔法だけで戦えば良かったんじゃないですか?」

 

「十三束先輩の魔法特性上、そういうわけにはいかないの」

 

 

 十三束の事をよく知らない侍朗が疑問を呈したが、詩奈から速攻で却下を喰らう。詩奈が侍朗に『レンジ・ゼロ』の二つ名の意味を説明している横で、ほのかが「だったら止めればよかったのに」と十三束を非難した。

 

「本当は喜んでいたとか?」

 

 

 雫が冗談にしては悪質な、本気ならばもっと悪質なセリフを呟く。

 

「そう言えば十三束くん、水波ちゃんのおへそに見惚れていたような……」

 

「ほのか、詳しく」

 

 

 水波がほのかを止めるよりも先に、雫が油を注いだ。

 

「水波ちゃんは体操服だったの」

 

「大胆」

 

「それでね。水波ちゃんが十三束くんの攻撃を避ける為にバク転したのよ」

 

「おおっ」

 

「その拍子にシャツの裾が捲れて、お腹が結構派手に露出したの。もちろんすぐに隠れたんだけど、十三束くん、しばらく固まってて、水波ちゃんのおへその辺りをジーっと見てたんだよね」

 

「ギルティ」

 

 

 話を聞いていた雫は、躊躇なく決めつけた。

 

「水波ちゃんに背中から組み付かれた時も顔を赤くしていたみたいだし……」

 

「本当ですか!?」

 

 

 ほのかの追加証言に、水波が悲鳴を上げた。

 

「うん。たぶん……胸が当たってたんじゃないかな」

 

「――っ」

 

 

 水波が両手で顔を隠して俯く。レオと幹比古も少し赤面して、決まり悪げに顔を背けた。

 

「ふーん……もしかして、それが目的で体操服だったの?」

 

「水波ちゃんは十三束君に、模擬戦を中止にしてもらいたかったのよ。元々十三束君は、私に試合を申し込んできたの」

 

「勝負にならないじゃん」

 

 

 答えられる状態に無い水波の代わりに深雪が代弁すると、エリカは考えるポーズも見せずに一刀両断した。

 

「十三束君は明らかに、冷静な判断力を失ってる状態だったわ」

 

「で、その頭を冷やさせる為に、水波が身体を張ったというわけか」

 

「そう言えば聞いてなかったけど、十三束君は何故、模擬戦を申し込んだりしたんですか?」

 

 

 今更ながら、幹比古は自分が模擬戦の理由を知らなかったことに気が付いた。

 

「十三束先輩は、司波先輩が何処にいらっしゃるのかを知りたがっておられたのです」

 

「達也の居場所を?」

 

 

 深雪の代わりに応えた泉美の言葉に、幹比古だけではなく数人も頭上に疑問符を浮かべた。

 

「十三束先輩のお母様が、心労で入院されたのだそうです」

 

「十三束君の御母上って……確か、魔法協会の会長だよね?」

 

「ええ。さすがは吉田先輩、よくご存じですね。翡翠様――十三束先輩のお母様のお名前です。翡翠様は政府から、司波先輩を説得するよう随分圧力を掛けられていたご様子です」

 

「説得って、ディオーネー計画に参加するように?」

 

「はい。そのストレスで急性胃潰瘍になられたようで……一ヶ月程入院されるとか」

 

「……でもそれは、達也の所為じゃないだろ?」

 

「私もそう思います」

 

 

 泉美の言葉にレオが横から口を挿むと、泉美はその言葉にすぐ頷いた。レオと泉美の判断に異論は出なかった。

 

「十三束先輩もそう仰っていました。ですが本音では……司波先輩の責任だとお考えだったのでしょうね。USNAの宇宙開発に参加するよう司波先輩を説得したいから、という理由で司波先輩のお住まいを知りたがっていらしたのです」

 

「お母様の為に……何か、したかったんでしょうね」

 

「でも達也くんの所為にするのは、はっきり言って逆恨みよ」

 

 

 美月が同情的な口調で呟いたが、エリカがそれを断ち切った。

 

「達也はもう、自分がこれから何をするのか明言してるだろ? それに横からごちゃごちゃケチをつけるのは間違っていると思うぜ」

 

 

 レオは別の角度から十三束の行動を否定した。

 

「ですが、十三束先輩とおなじようなことを言い出す人たちは、いなくならないと思いますよ。達也先輩が間違っていて、自分が正と思っている人たちは」

 

 

 香澄はある程度第三者的な立場で推測を口にした。その予言を、深雪もエリカも、誰も否定出来なかった。




全員達也側だったとさ……

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