劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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登校するだけで大騒ぎ


久しぶりの登校

 第一高校への通学路は、最寄り駅から道なりにまっすぐだ。脇道はあるが、事実上の一本道と言える。一高生徒の殆どは、登下校時にこの道を通る。例外は学校から徒歩圏内に住んでいる生徒くらいだ。

 六月十一日、火曜日の朝。この通学路を登校する生徒たちの間にざわめきが走った。一高生の間では知らぬものが無い生徒会長・司波深雪が男子生徒に寄り添っていた。その男子生徒も、生徒会長と同じくらい有名人だ。今や社会的な知名度は彼の方が高いだろう。

 その生徒の名は司波達也。久々の登校だった。

 

「達也さんっ!」

 

 

 一高の校門と校舎の間には、長い直線の並木道がある。その道に入った直後、達也は前方から声をかけられた。登校する生徒の群れを逆走する人影は、一つでは無かった。

 

「さすがは達也様ですね。凄い人気です」

 

「そう思うなら、腕に力を込めるのは止めてくれ」

 

 

 声をかけてきたのはほのかだけだが、彼女の後ろにはほのかと似たような感情を懐いている少女たちが多数見受けられる。その事に嫉妬した深雪が、絡ませていた腕に力を込めてしまうのも、ある意味仕方がない事だった。

 

「達也さん、戻ってこられたですね!?」

 

 

 事情を知る者からは「仕方ないな……」という視線、事情を知らない生徒からは奇異の目を向けられながら、ほのかはそれに構わず達也の許へ駆け寄った。

 

「ああ。今日からまた、よろしく頼む」

 

 

 達也は微かな苦笑いを浮かべて、それでも迷惑そうな素振りは見せずにほのかに応えた。

 

「達也さん、お帰りなさい」

 

「ああ、ただいま」

 

 

 ほのかのすぐ後ろで、恥ずかしそうな表情の雫が達也に声をかける。達也は笑顔で雫の問いかけに応え、雫の頭を撫でた。

 

「達也くん、朝から見せつけてくれるわね」

 

「エリカもして欲しいのか?」

 

「そ、そんなんじゃないけど……達也くんがどうしてもって言うなら、してもいいけど?」

 

「相変わらず素直じゃねぇ女だな。してもらいたいならそういえばいいじゃねぇか」

 

「アンタは黙ってろ!」

 

 

 エリカに対して余計な事を言ったレオは、脛を蹴り上げられて悶絶する。蹴り上げたエリカの方も、レオの堅い脛の所為で何処か痛そうな表情を浮かべている。

 

「何をしてるんだ……」

 

 

 他の生徒に見えない角度で、達也はエリカとレオに『再成』を施す。ここにいる面子には自分の魔法を知られているので、達也も隠す事はしなかったが、他の生徒には知られたくないという達也の考えを察知して、残りのメンバーが壁を作ったのだ。

 

「さっすが達也くん」

 

「悪いな」

 

「別にこの程度なら構わない。それより、幹比古と美月も久しぶりだな」

 

「そうだね。心配はしてなかったけど、大丈夫だったんだね」

 

「俺たちは、な」

 

 

 そこで達也が意味ありげに深雪の背後に視線を向ける。それだけで達也が言いたい事を理解した幹比古は、沈鬱な表情を浮かべる。

 

「大丈夫なのかい?」

 

「まぁ、急に命を落とすという状態からは脱したが、まだ予断は許されない状況であることには変わりない」

 

「そう……お大事に」

 

 

 それ以上何も言えなくなってしまった幹比古に、達也は苦笑いを浮かべながら片手を上げて応えた。

 

「そうだ。ほのかと雫のお見舞いだが、母上から許可が出たから、都合がいい日に調布碧葉病院に来てくれ。受付で名前を言えば通れるようにしてあるから」

 

「本当ですか! ありがとうございます」

 

「ほのかと雫だけ? あたしもお見舞いに行きたいんだけど」

 

「そういうと思って、あらかじめここにいるメンバーの許可は貰ってある。ただ、レオと幹比古に関しては、水波の意思を確認してからにしてくれ」

 

「どういう事だ?」

 

「馬鹿ね。水波だって女の子なんだから、弱ってる姿を異性に見られたくないって事でしょ」

 

「そういう事か。まぁ、桜井が俺や幹比古に見舞ってもらいたいと思うかは分からねぇが、許可が出てるならその内にな」

 

「吉田君は行くんですか?」

 

「柴田さんが行くなら、僕も付き添いでいこうかな」

 

「はいはい、初々しい空気を醸し出すの禁止」

 

 

 美月と幹比古カップルを冷やかすようにエリカがツッコむと、二人は同時に顔を真っ赤にした。

 

「付き合いだしてもう結構経つのに、何時まで恥ずかしがるのよ、あんたたちは」

 

「そんなこと言ったって、エリカだって達也に甘える時は恥ずかしいとか言ってただろ?」

 

「あらエリカ、貴女も人の事言えないんじゃない?」

 

「なっ!? 余計な事を言うな!」

 

 

 今度は幹比古の脛を蹴り上げたエリカ。レオほど鍛えていない為、幹比古の脛を蹴ってもエリカにダメージは無かったが、レオ以上に幹比古は悶絶した。

 

「今のは吉田君が悪い」

 

「幹比古も学習しねぇな」

 

「れ、レオに言われたくない……」

 

 

 悶絶しながらも幹比古はそれだけは言い返さなければという思いに駆られたのか、顔を引き攣らせながらレオにツッコミを入れた。

 

「何時までもここで屯ってるのも他の生徒の邪魔になるだろうし、そろそろ教室に向かうとするか」

 

「そうですね」

 

 

 達也の左隣のポジションをキープしている深雪と、右側を確保したほのかを見て苦笑いを浮かべながらも、達也は二人を振り解くことはせずそのまま校舎へと進んだ。




相変わらずレオと幹比古はエリカのサンドバッグ……

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