劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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今回もナンパが原因で……


IFルートパート2 その5

 珍しく達也一人で街をぶらぶらしていると、見知った赤毛の少女を見つけた。

 

「エイミィ?」

 

「あっ、達也さん! 如何したんですか、こんなところで」

 

「少し時間が余ってな。エイミィこそ何してるんだ?」

 

「私は新しいリボンを買おうかなって」

 

 

 エイミィはその場でクルリと一回転し、後ろに結んでいるリボンを達也に見せた。

 

「なるほど、だがリボンはこの辺りには無いはずだが?」

 

「そうなんですけどね……」

 

 

 達也の指摘通り、リボン売り場は此処から少し移動した場所にある。だがエイミィにはそこに行けない事情があった。

 

「さっきリボンを見てたんですけど、ナンパされちゃいまして……それで一人で行くのが怖くなってしまって……」

 

「ナンパか……」

 

 

 深雪やエリカたちと比べると、少し見劣るかもしれないが、エイミィも十分美少女の部類に入ると、達也は改めてエイミィを眺めて思った。自分にそういった感情がしっかりとあれば、そんな気持ちになったかもしれないとも。

 

「あの、達也さん?」

 

「暇だし、エイミィの買い物に付き合おう。男連れならナンパもされないだろ」

 

「良いんですか!? 本当に?」

 

「あ、あぁ……どうせまだ時間がある」

 

 

 達也がこの場所で時間を潰していたのは、ヘアサロンに行った深雪の付き添いで、さすがに中で待つわけにも行かなかったからだ。

 

「それじゃあお願いします。あの人、まだあそこらへんをウロウロしてるかもしれないので」

 

 

 恐縮した声とは裏腹に、エイミィはしっかりと達也の腕に自分の腕を絡めていた。

 

「しかし、俺の知り合いはそういった事に巻き込まれるのが多いな」

 

「深雪ですか? それともエリカ?」

 

「この前は美月も絡まれてたし、ほのかや雫も偶にあると言っていた」

 

「そうなんですか。でも、皆可愛いですからね、納得です」

 

「エイミィだってそうだろ」

 

「え……」

 

 

 達也が何気無く言った言葉に、エイミィの足が止まる。達也の言葉は、言外に自分も可愛いといってくれたんだと、エイミィには思えたのだ。

 

「如何かしたか?」

 

「い、いえ! 何でもないですよ?」

 

「………」

 

 

 達也の訝しむような視線に冷や汗を流しながらも、エイミィは再び自分の足に前進を命じた。

 

「あっ、あの人……」

 

「知り合いか?」

 

 

 エイミィの足が再び前進して数歩、またしてもエイミィの足は止まった。しかし今度は立ち尽くすというよりも震えて歩けなくなったと表現したほうが正しいかもしれないが……

 

「おっ、待ってたよ。漸く決心……誰だテメェ」

 

「そちらこそ何方です?」

 

 

 男に視線を向けながら、達也はエイミィにのみ聞こえる声で尋ねる。

 

「あれがナンパ男か?」

 

「はい……怖くて逃げ出したんですけど、まだ待ってるなんて……」

 

 

 エイミィの足は明らかに震えている。足だけでは無くその震えは全身にまで伝わってきてるようで、絡めた腕から達也にもその振動は伝わっていた。

 

「その子は俺が先に目をつけたんだ。部外者は引っ込んでな!」

 

 

 随分と気の短い相手だと、達也はその男を冷静に観察していた。その目、その視線は男の身体能力を測っているかのごとく、無言のプレッシャーにも似た何かがナンパ男に襲いかかったのだ。

 

「黙ってねぇで、何とか言いやがれ!」

 

「………」

 

 

 明らかに相手はビビッている、それは達也だけでは無くエイミィにも分かるくらいにだ。だからあえて達也は何も言わずに観察を続けているのだ。このまま行けば何もしなくとも相手は逃げ出すだろうと思って。

 だがその達也の考えは男がとった行動によって否定された。

 

「クソッ!」

 

 

 折りたたみのナイフを取り出し、達也に向けて構えたのだ。

 

「キャー!」

 

 

 達也に向けられたナイフを見て、横を通っていた女性が悲鳴を上げた。そしてエイミィの震えも強まっていた。

 

「少し離れてくれ」

 

「え……?」

 

 

 達也に絡めていた腕を解かれ、エイミィは呆然と立ち尽くす。達也とくっついていたから悲鳴を上げずに済んでいたのに、その達也が自分から離れてしまった。エイミィは立っていられなくなり、その場にへたり込んだ。

 

「この……!?!」

 

 

 達也に刺しかかろうとした瞬間、その男の視界はブレーカーを落としたように真っ暗になった。

 

「もう大丈夫だ」

 

「……グスッ」

 

「エイミィ?」

 

 

 ナンパ男を撃退し、へたれ込んだエイミィに手をさし伸ばした達也だったが、エイミィが泣きそうになってるのを察し抱き上げその場から移動した。

 

「此処なら目立たないな、俺は少し離れてるから」

 

「居てください!」

 

 

 泣いてるところを見られたく無いだろうと思って気を利かせようとしたのだが、如何やらエイミィは自分に傍にいてほしかったのだと、達也は自分の勘違いに気付き近寄る。

 

「そんなに怖かったのか?」

 

「だって! 刃物ですよ!? いくら達也さんが強いからって生身で対抗するには危なすぎますよ!」

 

「……春先に助けた時も生身だったんだがな」

 

「……そう言われればそうでしたね」

 

 

 ブランシュの一件で、エイミィはほのかと雫と共に達也と深雪に助けられた時の事を思い出した。確かにあの時も達也は生身だったのだ。

 

「ですが、やっぱり心配しました! それにあの男の人、私をジロジロと見てて怖かったですし……」

 

「ちょっと君たち、少し話しを聞かせてもらえるかな?」

 

 

 野次馬が呼んだのだろう、警察官が達也とエイミィの許にやって来た。達也が熨した男はとりあえず銃刀法違反で捕まったそうだ。

 

「それで、君たちの関係は?」

 

「ゆうじ……」

 

「恋人です! ちょっと別行動してた間にあの人がしつこく言い寄ってきたんです」

 

「そうですか……彼氏さん、ちゃんと彼女さんと一緒に行動してあげなくては駄目ですよ」

 

「はぁ……スミマセンでした」

 

 

 エイミィが何故恋人と嘘を吐いたのか、達也には分からなかったが、此処で嘘だと言えばややこしくなると理解したので、その嘘に付き合うことにしたのだ。

 

「では、君の行動は正当防衛って事になるだろうし、向こうに非があるのも確定的だしね。それじゃあ気をつけてデートの続きを」

 

 

 随分と気さくな人だと、達也は警察官を眺めながらそんな事を考えていた。

 

「さて、何故あんな嘘を?」

 

 

 視線を警察官からエイミィにズラして、達也は静かに問うた。問われたエイミィは潤ませた瞳で達也を見上げていた。

 

「嘘の中だけでも、達也さんの彼女で居たかったからかな? 自分でも何で嘘を吐いたのか分からないんですよね」

 

「……それも嘘なんだろ?」

 

 

 エイミィの瞳が、彼女の本心を雄弁に語っていたのに、達也は気付いていた。

 

「一日……いえ、この時間だけでも私の彼氏になってください!」

 

「……今日だけで良いのか?」

 

「……え? それって……」

 

 

 その後の言葉が出てこなかったエイミィを、達也は滅多に見せない表情で見つめていたのだった……




結構話を考えるのが大変でした……原作で絡みが少ないキャラだからですかね……

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