生徒会の手伝いをしようと申し出たが、深雪に「達也様はゆっくりとお寛ぎください」とやんわりと断られてしまったので、達也はカフェで一人思案していたが、彼の周りにはあっという間に人垣が形成されてしまった。
「達也様、こちらよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないぞ」
「では失礼して」
その人垣をかき分けて達也の隣に腰を下ろした愛梨、そして栞と沓子、香蓮もそれに続いた。現状一高で一番有名人と言っても過言ではない達也だが、彼に声をかけられる猛者はそう多くないのだ。遠目に見ているだけだったギャラリーも愛梨たちが登場した事によって解散していった。
「どうやら、達也殿にどう話しかけようか悩んでいたようじゃな」
「普通に話しかければ良いんじゃないか?」
「達也さんは今、一高だけじゃなくて全世界から注目されている人。そう簡単に話しかけられなかったんだと思う」
「そんなものか?」
栞の言葉に首を傾げた達也だったが、愛梨たちは力強く頷いた。
「達也様は自覚していないようですが、一高校生である達也様が、国家プロジェクトレベルの計画を発表したのです。注目されるのは当然ですわ」
「達也様は以前からトーラス・シルバーの片割れとして、数々の発表をしてきたから感覚がマヒしているのかもしれませんが、あの計画は注目されて当然のものです。その責任者とも言える達也様がこうして側においでなのですから、遠巻きでもその姿を見ようと人が群れるのは当然だと思いますよ」
「全くですわね。達也さんはもう少しご自身が注目されている事を自覚してもらいたいですわ」
「亜夜子か……何かあったのか?」
三高の四人だけでなく、亜夜子までもがカフェに現れたのを見て、達也は何かあったのだろうと確信した。
「私にも達也さんの計画がどのようなものか説明を求めに来る人がいるのですわ。達也さんがいらっしゃっているのだから、直接聞きに行けばいいものを……それも、生徒だけでなく教師までも」
「それは苦労を掛けたな」
「苦笑いを浮かべながら労われても嬉しくもありませんわ」
少し拗ねたような亜夜子の反応を見て、達也は亜夜子の頭を軽く撫でながら愛梨たちに視線を向ける。
「愛梨たちもそうなのか?」
「いえ、私たちはそこまで酷くありませんが、達也様が例のプロジェクトを発表した日は、司波深雪が質問攻めに遭ってましたわね」
「達也殿の血縁者なだけあって、深雪嬢が群を抜いて質問攻めに遭っておったな。もちろん、ほのか嬢や雫嬢も質問されておったが、ワシらはそれ程ではない。やはり他校の人間という感覚なのじゃろうな」
「一緒の教室で授業に参加してても、私たちは所詮余所者。九校戦が中止になったからといって、馴れ合うのは避けるべきだと思われているのかもしれない」
「仕方ありませんわよ。九校戦が中止になったからといって、まだ論文コンペがありますもの」
「それも開催されるか怪しいものですがね……ところで達也さん、昨日はどちらにお泊りだったのですか?」
「亜夜子は知ってるんじゃないのか?」
「えぇ、存じ上げております。ですが、達也さんの口からはっきりとお聞きしたいのです」
明らかに深雪に対する嫉妬心から来る質問だったが、達也はその事は気にせずに正直に答えた。
「昨日は深雪のマンションに泊まった。水波がああなってしまったショックもあり、深雪を一人にするのは得策では無かったからな」
「では今日も?」
「いや、今日は新居に戻るつもりだ。これからしばらくは交互に泊まる予定だ」
「本当ですか!?」
「あぁ。完全に事が片付くまでは何とも言えないが、しばらくは問題ないだろう」
達也としては、既に自分の進路を表明したのだから、周りからとやかく言われる筋合いはないのだが、それで周りが大人しくなるとも思っていなかったので、多少は仕方がないという想いがある。だがさすがに、トゥマーン・ボンバで襲撃されるとは思っていなかったので、その点は自分の認識の甘さを反省していた。
「達也殿、再び襲われる可能性があると考えておるのか?」
「ん? あぁ、その可能性は低くないだろうな。あの程度でベゾブラゾフが諦めるとも思えん」
「ではやはり、伊豆高原を襲った遠距離魔法というのは」
「亜夜子には夕歌さんから報告が行っていると思ってたがな。あの魔法はロシア極東から放たれた攻撃だ。術者は片付けたが、あれはベゾブラゾフではなく別の戦略級魔法師だと思われる」
「未発表の戦略級魔法師ですか? ですが、達也さんが片づけたのであれば、次は無いのではありませんか?」
「ベゾブラゾフ本人を片付けない限りは安心出来ない。恐らくあの攻撃にもベゾブラゾフ本人が関与していたと考えるべきだろう」
「ですが、達也さんでも捕捉できなかったのですよね? それならばその場にいなかったと考える方が自然ですが」
「あの二人を囮に、自分の存在を情報次元から隠していたのだろう」
「そのような事が可能なのでしょうか?」
「出来なくはないだろうが、その場合隠したい存在と囮の存在が近しい存在でなければ難しいだろうな」
「では達也さんが片づけた魔法師というのは」
「それは分からない。だが、次があるなら容赦はしない」
達也の雰囲気が変わった事を感じ取った亜夜子は、それ以上質問を続けられなかった。
引っ張れるところで引っ張っておかないと、次巻が何時なのか分かりませんし……