劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こういう雰囲気もたまには


エリカと達也

 部活動を終えたエリカは、他のメンバーを待つために昇降口に向かった。そこで昨日まではいなかった相手を見つけて、慌てて駆け寄った。

 

「達也くん、今帰り?」

 

「いや、今日は新居の方へ泊るから、ほのかたちを待ってたところだ。エリカも一緒に帰るだろ?」

 

「どうしようかな~?」

 

 

 明らかに一緒に帰りたいのを隠しきれていないのだが、エリカはそんな事を口にする。レオから「素直じゃない女」と評されるくらい、エリカは自分の気持ちを正直に口にする事が苦手なのだ。

 

「別に先に帰っても良いが」

 

「別に嫌だとは言わないわよ? でも、達也くんと一緒にいると質問攻めに遭いそうなのよね。あたしに聞かれても詳しい事なんて分かりっこないって何で分からないのかしら」

 

「エリカもそういう目に遭っていたのか」

 

「あたしもってどういう事?」

 

 

 達也は先程カフェで聞いた話をエリカに話して聞かせた。その話を聞いて、エリカは納得したように頷いてから、盛大にため息を吐いた。

 

「ここに本人がいるんだから、素直に聞けばいいものを」

 

「質問攻めに遭った時は、俺は一高にいなかったからな」

 

「気になるならそういえば良いのよ。それをディオーネー計画から逃げる為のものなんじゃないかとか言いながら質問してくるのよ? 相手にしたくないって思っても仕方ないでしょ」

 

「校長にも言ったが、ESCAPES計画はディオーネー計画からエスケイプするための計画ではない。元々あっちが後出しであって、ESCAPES計画は恒星炉実験以降温めていた計画だ。本来ならばもう少し準備が整ってから発表したかったのは否定しないがな」

 

「達也くんが悪知恵を働かせるのは確かだけど、あんなプロジェクトをすぐに思いつくわけ無いじゃないの。しかも小規模じゃなく大々的なプロジェクトを、ディオーネー計画が発表されて間もないと言っても過言ではないこの時期に発表できるわけないって、何で分からないんだろうね」

 

「ディオーネー計画の表向きの目的しか見ていない連中からすれば、国家プロジェクトと一民間人でしかない俺が立ち上げたプロジェクト、比べるまでもないと思っても仕方がないのかもしれないな」

 

「散々達也くんの事をトーラス・シルバーだって決めつけて報道してたくせに」

 

 

 エリカは最初から達也がトーラス・シルバーの片割れであることを知っていたからマスコミに対して否定的なのだが、達也の正体を知らなかった一高生たちは、エリカとは違う考え方をしているのだ。

 

「レオやミキ、美月だって直接聞いてたわけじゃないけど、だいたい予想してたでしょうし、他の連中だって、達也くんの技術力の高さは知ってたでしょうに」

 

「自分の方が優れていると一度でも思ってしまうと、相手を認める事が出来ないんだろう。元々俺は二科生でも下から数えた方が早い成績で入学したわけだし」

 

「でも、達也くんの理論の結果は他の連中だって知ってるし、実技だってそれ程悪くなかったでしょ? それこそ、ミキと一緒に一科に転籍出来たんじゃないかって言われるくらいには」

 

「さすがにそれは無理だろう。魔工科を作る原因である俺が、魔工科に在籍しないのは学校としても具合が悪い事だっただろうし、学校の評価に当てはめるなら、俺は間違いなく劣等生だったからな」

 

「達也くんは実戦魔法師だもんね」

 

 

 学校や軍の評価では達也の実力を計れないと理解はしているが、それでも何処か納得出来ていない様子のエリカを見て、達也は苦笑いを浮かべる。

 

「俺の事でエリカが不貞腐れる必要は無いと思うんだがな」

 

「そうだけどさ……せっかく実力があるのに、それが正当に評価されない世の中なんておかしいじゃない」

 

「そんなこと今に始まった事じゃないと思うがな」

 

「それもそうだけどさ……」

 

 

 達也の言葉に、エリカはつまらなそうに同意するが、やはり納得はいっていないようで頬を膨らませたままだった。

 

「不特定多数の人間に評価されなくても、エリカたちが俺の事を評価してくれているだけで十分だがな」

 

「達也くんってさ、ズルいよね」

 

「何だいきなり」

 

 

 似たようなやり取りをしたことがあったので、達也は冷静にエリカの言葉を受け止めていた。エリカの方も、達也が自分が言いたい事を何となく察してくれているだろうという考えがあっての発言なので、達也の反応に驚いたりはしない。

 

「そうやって、あたしたちを喜ばせるような事を素面で言うんだもん。こっちの顔が熱くなっちゃうじゃないの」

 

「そんな事を意図した覚えはないんだがな」

 

「だから、それがズルいって言ってるのよ。達也くんの感情に欠落があるのは知ってるし、それは言っても仕方がない事だっていうのも分かってる。だけど、少しくらい照れてくれても良いんじゃない?」

 

「別に恥ずかしい事を言った覚えもないし、これくらい普通に言える事だろう?」

 

「はぁ……達也くんが普通じゃないって分かってるつもりだったけど、やっぱりズレてるわよね」

 

「酷い言われようだ」

 

「バツとして、ほのかたちが来るまであたしと腕を組む事」

 

「別に構わないが、エリカが恥ずかしいんじゃないのか?」

 

 

 達也の反撃に、エリカは失念していたとでも言いたげな表情で達也を見上げたが、開き直って達也と腕を組んでほのかたちを待つことにしたのだった。




バツになってるかは言わないお約束

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