劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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このほのぼの空間がずっと続けばいいのに


四人での帰路

 昇降口前でエリカと話していると、背後から近づいてくる気配が複数、どことなく刺々しい雰囲気であることに気が付いた達也は、その気配の方へ視線を向けた。

 

「達也さん、お待たせ」

 

「てっきりカフェで待ってると思ったのですが」

 

「最初はそのつもりだったんだが、思いの外注目されていてな。居心地が悪かったのでこっちに移動したんだ」

 

「達也くん、自分がどれだけ注目されてるか気付いてないの?」

 

「興味を持たれたり敵意を向けられたりなら慣れているのだが、遠巻きに見られるというのには慣れてなかったからな」

 

「それだけ達也さんが発表したプロジェクトが注目されているという事ですよ!」

 

 

 何故か力強くそう宣言するほのかに、達也は苦笑いを浮かべそうになったが、彼女の隣で雫が力強く頷いているのが視界に入り、恥ずかしそうに頬を掻くだけに留めた。

 

「とりあえず、駅に行くとするか」

 

「深雪は? いいの?」

 

「今日は四葉の人間が迎えに来る事になっているからな」

 

「水波ちゃん、相当悪いんですね」

 

「前にも言ったが、命に関わる事は無いと思う。だが体力がまだ回復していないからな。復帰にはもう少しかかるだろう」

 

 

 ほのかが心配そうにつぶやいたのを受けて、達也は彼女を安心させるようにそう告げる。達也としても水波には一日も早く復帰してもらいたいと思う一方で、ガーディアンとしては働かせられないという思いがある。それでも復帰してもらいたいと思うのは、深雪だけでなく他の婚約者たちも水波の事を心配してくれているからだった。

 

「そういえば雫」

 

「なに?」

 

「御父上が随分と俺のプロジェクトの宣伝をしてくれたようだな。財界から一度会って話したいという申し込みがかなり来ている」

 

「たぶん、お父さんとしたら宣伝したつもりは無いんだろうけどね。自分が達也さんと懇意にしている事を自慢したとか、そんな感じだと思う」

 

「それだとしても、だいぶありがたい結果になっているからな。また近いうちにお会い出来れば良いんだが」

 

「達也さんの方が一段落してからで良いと思うよ? 今は大変な時期だって、お父さんも分かってるだろうし」

 

「そうか。では、お礼だけでも伝えておいてくれ」

 

「ん、分かった」

 

 

 雫もあまり潮と話す機会は無いのだが、それでも達也よりかは機会が多い。そして娘からの電話となれば、潮は何においてでも優先するだろうと、隣で聞いていたほのかはそんな事を感じていた。

 

「というか、外務省や財務省もさっさと達也くんのプロジェクトの方が有益だって判断を下しなさいよね。何時までもぐずぐずして、だから無能だって言われるのよ」

 

「その辺りの人間は、国益や平和なんかも考えなければいけないからな。俺の正体を知らないから、余計に判断出来ないんだろう」

 

「達也さんが本気になれば、この国なんてあっという間に――」

 

「ほのか、人がいるよ」

 

 

 大声で秘密を言いそうになったほのかを、雫が静かに窘める。雫に窘められたほのかは、少し恥ずかしそうな表情で達也に頭を下げた。

 

「ゴメンなさい、達也さん」

 

「気にするな。ほのかがそれ程俺の事を想ってくれているという事なんだろうしな」

 

「は、はい……」

 

「雫も、ありがとう」

 

「うん」

 

 

 素直に達也にお礼を言われ、ほのかと雫は恥ずかしそうに視線を彷徨わせ、エリカは少し膨れたような表情で達也の事を睨む。

 

「達也くんのそれって、計算なの?」

 

「それ、とは?」

 

「あたしたち婚約者にそういう事を言えば何も言えなくなるって分かって言ってるのかなーって」

 

「別に他意はないんだが」

 

「分かってる。でも、達也くんの性格から考えると、絶対何か企んでるんじゃないかって思えてくるのよね」

 

「酷い偏見だ」

 

「それだけ達也くんの事を見てるって事にしておいてよ。達也くんの悪知恵で助かった事もあるし、ウチのバカ兄貴だって達也くんに救われたわけだしさ」

 

 

 達也が計算でそんな事を言っているのではないという事は、エリカも最初から分かっている。だがそれでも疑ってしまう程、達也の腹黒さを理解しているからだと言い訳をする。無論、達也も自分の黒い部分は自覚しているので、エリカが疑ってしまっても仕方がないと思えるのだった。

 

「さて、それほど空けた覚えはないが、家に帰ったら質問責めに遭うんだろうな」

 

「七草先輩や平河先輩なんか、顔を真っ青にしてたからね。それなりに覚悟しておいた方が良いと思うよ~」

 

「楽しそうな表情で心配されてもな」

 

「達也くんが困るとは思えないけど、少しでも困ってる姿が見れたら面白いかな~ってさ。その二人以外にも、達也くんの事を心配してる人はいるんだし、顔を見せて安心させてあげなさいよ」

 

「他人事みたいに言ってるけど、エリカも相当心配してたよね? それこそ、ほのかと同じくらい慌ててた」

 

「ちょっ!? 雫、それは内緒だって!」

 

「みんな大なり小なり達也さんの事を心配してたんだから、別に慌てる必要は無いと思うけど? 私だって、達也さんの事を心配してたんだし」

 

「そうだけどさ……」

 

 

 マイペースな雫の態度に、ほのかもエリカも慌てるのがバカらしいと思えてきたので、達也から視線を逸らして愛想笑いを浮かべる事しか出来なかったのだった。




結局雫が一番強いのか?

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