新居に帰ってきた達也を出迎えたのは、魔法大学組だった。
「達也くん、無事だったのね!?」
「良かった……千秋から聞いてたけど、こうして姿を見たら何だか安心できた……」
「お久しぶりですね、達也さん。無事なら無事と連絡してくれればよかったものを……」
「申し訳ありません。ですが、こちらもいろいろとあって連絡出来なかったんですよ」
真由美、小春、鈴音と泣きそうな顔で出迎えたので、達也も少し申し訳ない気持ちになっていた。だが真由美なら達也の情報くらいすぐに手に入れられると思い、訝し気な視線を真由美に向ける。
「どうかしたの?」
「いえ、七草先輩の情報網なら、俺が無事で水波が入院している事くらいすぐに掴めそうなのに、何でそんな顔をしているのかと思っただけです」
「情報として知っていても、実際に顔を見るまで安心出来ないわよ! というか、私ってそんなに薄情だと思われてるの?」
「いえ、先輩が薄情なら、俺には情が無いという事になってしまいますので」
「それなら私もそうなってしまいますね」
「なに、その連携……」
達也と鈴音が無表情で淡々と告げるのを見て、真由美は思わず呆れてしまう。普段冗談を言うタイプではない二人だけに、この冗談は真由美にとって意外だったのだ。
「冗談はさておき、ご心配をおかけしました」
「達也くんの事を最終的に傷つけられるわけがないって分かってるんだけど、それでも心配はしちゃうわよ。正式に発表されてないけど、あの魔法って新ソ連の戦略級魔法師、ベゾブラゾフのトゥマーン・ボンバなんでしょ?」
「そのようですね。まぁ、術者と思われる女性魔法師二人は片付けたので、次があるにしてもまだ先でしょうね」
「女性二人……? それじゃああの魔法はトゥマーン・ボンバじゃないの?」
「恐らくは新ソ連が隠している別の戦略級魔法師か、出自を明かせない何かがあるのか――でしょうね」
達也の言葉に、真由美と小春は首を傾げたが、鈴音は何となく達也が考えている事を理解出来たのか、息を呑んだ。
「ベゾブラゾフから作り出した調整体魔法師、という事ですか?」
「そこまでは分かりませんが、ベゾブラゾフと近しい関係なのは間違いないでしょうね。イデアを誤魔化すなんて、そう簡単に出来る事ではありませんので」
「イデアを誤魔化す? それって、リーナさんの『仮装行列』をベゾブラゾフが使ったって事?」
「仮装行列とは違いますね。だがまぁ、ベゾブラゾフが関わっていないというわけではないでしょうから、遠からず次があると思っています」
「それって、大丈夫なんですか? 今回の件、国防軍は情報を掴んでいながら達也さんに知らせなかったとまことしやかにささやかれているくらいですし……」
小春が不安げに呟いた言葉に、達也は内心驚いていた。真由美や鈴音ならそのような情報を持っていても不思議ではないが、小春の耳にまでそのような噂が届いているのかという驚きだ。
「達也くん、国防軍と何かあったの?」
「別に何もありませんが。ただ俺の正体を知っているのは第一○一旅団の中でも限られた人間だけですから。国防軍や外務省の背広組が俺の事をUSNAに差し出せと言ってるのはある意味仕方がない事ですよ」
「そんな他人事みたいに……達也くんは気にしてないのかもしれないけど、私たちはそれだけ不安なんだからね? 前みたいに、十文字くんや他の十師族当主と対立するんじゃないかって」
「真由美さんは十文字くんと達也さんの戦いを目の前で見ていたのではありませんか? あの結果を見る限り、例え再び十文字くんや別の十師族当主が達也さんの前に立ちはだかったとしても、達也さんが負けるとは思えません。まして、達也さんと相性がいいはずの十文字くんが真正面から挑んで負けたのですから、他の当主が動くとも思えませんし」
「それはそうなんだけど……またウチのタヌキオヤジが何かしでかさないとも限らないでしょ? ただでさえ四葉家に対して敵愾心を燃やしてるんだし」
「同じ十師族ですから、あの噂を忘れていなければそうそう四葉家の秘密を暴こうだなんてしないと思いますが」
「あの噂って……所謂『アンタッチャブル』って呼ばれてる原因の事よね?」
「さすがにご存じですか」
「これでも十師族の直系だからね」
数字落ちである鈴音や、一般家庭出身である小春には分からないようだが、十師族――それも七草家の人間である真由美なら知っていても不思議では無かった。
「私も詳しくは知らないんだけど、今回の水波さんの件、四葉家からしたら相当な精神的ダメージを負ったんじゃないのかしら? 一条家の御当主のはそれ程ではないみたいだけど、水波ちゃんは四葉家の関係者だし……」
「母上と深雪がそこそこのダメージを負ったようですが、今のところ命に別状はありませんので」
「達也くんが応急処置したからでしょ? もし間に合っていなかったら――」
「仮定の話で盛り上がる趣味はありません。水波は無事、というのが結果ですから。まだ予断は許しませんがね」
「達也くんらしいね」
真由美のその言葉に、達也は首を捻ったが、鈴音と小春は笑みを浮かべながら真由美に同意したのだった。
達也はズレてるからなぁ……