真由美たちから解放された達也は、まずは自室で着替えてからリビングへ降りてきた。そこにいるメンバーの大半は学校で顔を合わせた相手なので、さほど心配されなかったし、向こうも達也の顔を見てホッとしたという事は無かった。
「ニュースで見た時は驚いたけど、達也さんならあんな魔法に負けるわけないって思い出したら心配するのも馬鹿らしくなってきたしね」
「随分な嘘を吐いているね、エイミィは。あんなにオロオロしてたくせに」
「ちょっとスバルッ!? それは内緒だって言ったじゃない!」
「君が素直にならないのが悪いんだろ? 学校で達也さんの姿を見た時、泣きそうになってたのはどこの誰だったかな?」
「それはスバルだって一緒でしょ! あのスバルが泣きそうになったって、女子の間ではかなり噂になってるんだから」
「それは……かなり恥ずかしいな。ボクのイメージからして、泣き顔を女子に見られるなんて幻滅ものだろうね」
エイミィとスバルの会話を横で聞きながら、やはり電話の一本くらい入れておいた方が良かったのかもしれないと、達也は少し後悔していた。だが、過ぎたことを何時までも気にする達也ではないので、次の瞬間には既に別の事を考え始めていたのだった。
「何を考えているのかな?」
「いや、日本にいるスバルたちがそこまで心配してくれたのなら、USNAにいるリーナはかなり心配しているんじゃないかと思ってな」
「まぁ、リーナの性格上、大慌てしているか逆に冷静になっているかのどっちかだろうね」
「リーナは達也さんの事が大好きだから、きっと大慌てしてると思うけどな。すぐにでも日本に帰ろうとするんじゃないのかな? というか、何時まで向こうにいるんだろう?」
「さぁな。表向きはリーナはまだ軍所属という事になっているから、そう簡単に出国出来ないんだと思うが」
「大人の世界というのはいろいろと面倒なんだね。リーナは既にUSNAではなく日本――いや、達也さんを選んだというのに」
「そう簡単に諦められる程、リーナの実力は低くないからな」
「あのお調子者からは想像がつかないくらいなんだろ? スターズの総隊長、アンジー・シリウス少佐の実力というのは」
「七草先輩の実力でも太刀打ちできないって聞いたよ?」
「まぁ、十師族の中でも上位の先輩でも、戦略級魔法師に真正面から一人で挑めば勝てないだろうな」
真由美はあくまでも普通の魔法師の中での強者であり、その普通からはみ出た存在であるリーナや達也と正面から戦えば、万に一つも勝ち目はないだろう。それだけの実力差があるのだと言われ、スバルとエイミィの中でのリーナの評価ががらりと変わった。
「おっちょこちょいとか能天気とか、そんな風に思ってたんだけど、実はすごい人だったんだね」
「あのポンコツっぷりも演技なのかい?」
「あれはリーナの素だろうな。アンジー・シリウス少佐であるときは多少マシなんだろうが、九島リーナは二人が思ってる通りの人物だ」
「つまり、アンジー・シリウス少佐の時はかなり無理してたって事?」
「だろうな」
実際に見た事がある達也はそう言い切れるだけの根拠があるのだが、あくまでもリーナとしてしか彼女の事を知らないスバルとエイミィは、まったく想像が出来ないと言いたげな表情を浮かべている。
「そういえばエリカはアンジー・シリウスとしてのリーナと対峙した事があるんだよね? どうだった?」
「どうって言われても……達也くんが助けに来てくれなかったら危なかったとしか言えないわね……何時かお礼参りをしたいと思ってたけど、同じ立場に収まってしまったわけだし、何時までも遺恨を抱えてるのもどうかと思って、今はおっちょこちょいのリーナとしか見てないから分からないわよ」
「エリカでも苦戦したのかい?」
「苦戦なんてものじゃないけどね……あれは完全にあたしの負け。ミキが達也くんに電話してなかったら、もしかしたら吸血鬼にやられてたかもしれないし」
「そんな危ない事をしてたんだ……あの事件って、結局どうなったわけ? 連日報道してたかと思えば、ある日を境にぱったり報道しなくなっちゃったし」
「まぁ、報道しても信じてもらえなかったでしょうからね。警察の方でうやむやにしたのよ」
事の顛末を知っているエリカからすれば、報道したところで信じてもらえないどころか虚報だと言われかねないと思っていたし、余計な不安を煽るくらいならうやむやにして人々の関心を逸らした方が良いだろうと思えるが、真相を知らない二人からしてみれば、興味が惹かれる話題だった。
「警察がうやむやにしたがるほど、信じられない真相という事かい? それはぜひとも聞かせてもらいたいものだ」
「さぁさぁエリカ、観念して私たちに真相を話して!」
「達也くんに聞けばいいじゃないの――って、あれ? 達也くん!?」
説明するのが面倒だと思った達也は、スバルとエイミィがエリカに詰め寄るより早くこの場を離脱していた。
「説明はエリカに任せる」
「う、裏切者ー!」
達也がいるからペラペラと喋っていた節があるエリカとしては、まさかこんな形になるとは思っていなかったのだろう。恨みがましい視線と、悲鳴を達也に向けたが、達也はそれに応える事は無かった。
彼女のポンコツっぷりは、隠そうとしても隠せないか……