劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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状況証拠だけで凄い推理だ


最悪の可能性

 世間話と言うには少し物騒な前置きを終え、達也は本題に入る事にした。響子の方も達也が何を聞きたいのか何となく見当がついているようで、真面目な表情に変わる。

 

「国防軍がベゾブラゾフの襲撃を察知していた事は、響子さんには伝わっていなかったのですね?」

 

 

 先ほど会話の流れで既に達也も理解している事だが、確認の為にもう一度質問の形で問いかける。

 

「えぇ。私が知れば達也くんにも伝わって、トゥマーン・ボンバの観測が出来なくなるかもしれないと思われたみたいね。その所為で水波ちゃんが――」

 

「その事は響子さんが悪いわけではありませんので。そこまで気に病む必要はありません」

 

「ありがとう」

 

 

 達也に慰められ、響子は沈鬱な表情を無理矢理笑顔に変えて頷く。響子が無理をしているのは達也にも分かったが、彼はどうしても確認しなければいけない事が他にあったので、響子を気遣うのは後回しにしたのだった。

 

「光宣が水波の見舞いに来たようですが、水波が何処に入院しているかを教えたのは響子さんですね?」

 

「えぇ。何が何でも隠さなければいけない情報では無かったし、光宣くんから電話で確認されて、水波ちゃんが入院したと教えたら物凄い勢いで『教えてくれ』って言われたからつい……何か問題でもあったかしら?」

 

「今のところは特に問題はありませんが、水波が感じた限りでは光宣は何処か焦っているように思えたと聞かされたものでして。響子さんならその理由を知っているんじゃないかと思っただけです」

 

「焦っている……? そういえば光宣くん、私が教える前に達也くんたちが襲撃された事を知っていたのよね。魔法の気配だけで、一方が達也くんの魔法だって見抜いたとか言っていたけど」

 

「光宣が、そんな事を?」

 

「え、えぇ……東の方で強い魔法がぶつかり合うのを感知したとか言っていたわ。それで一方が達也くんの魔法の気配で、達也くんは無事なのかって」

 

 

 響子の話を聞いて、達也の中に疑問が浮かび上がる。

 

「響子さん、光宣はエレメンタル・サイトの持ち主なのですか?」

 

「私もそう思ったわ。でも、私が知る限りでは光宣くんのソレは、達也くんのソレに遠く及ばないものだったはずなの。それが、暫く会わない内に達也くんをも凌ぐ能力に目覚めてるようなのよね……何かあったのかと本家に確認してみたけど、特に何も無いらしいのよ……」

 

「光宣は水波に『治療法を探す』と言ったらしいのですが、九島家には魔法演算領域のオーバーヒートに対する治療が研究されているのですか?」

 

「私が知る限りでは、そんな研究してないと思うんだけど……」

 

 

 自分が知らないところでそういう研究が行われているのかとも思ったが、どうやら響子も知らないとなると行われていないらしいと、達也は判断した。そうなるといよいよ、光宣の行動理由が分からなくなってくる。

 

「水波と光宣は昨年の論文コンペ前の京都奈良散策の際の数日だけの付き合いです。光宣が水波に執着する理由が良く分からないのですが……」

 

「光宣くん、水波ちゃんの事が好きみたいなのよね。普段から寝たきりの状態が多い光宣くんにとって、同世代の女の子と仲良くなる機会が少なかっただろうし、水波ちゃんは可愛いからね」

 

「そんな理由で、学校を休んでまで見舞いに来ますかね? 俺が知っている限りの光宣らしくない行動だと思うんですが」

 

「それは私も気になっているのよね……ここ最近光宣くんは発作を起こすことも無く行動出来ているらしいのよ。でも、学校に行かないで何かを調べて、たまに一人で頷いたりしてるって報告が来てるの」

 

「響子さん、一つ確認したいのですが」

 

 

 達也の雰囲気が今まで以上に真面目になり、響子も居住まいを正す。何か自分の考えが及ばない事を想いついたのだろうと察知し、響子は驚愕しないように身構える。

 

「俺が封印を施し、九島家が横から持っていったパラサイト、今どうしてます?」

 

「……何でそんな事を聞くの?」

 

「いえ、パラサイトだけではなく、それを元にして作ったパラサイドールでも構いません。厳重に保管してあるなら良いですが、特に変わった事は無いでしょうか?」

 

「さすがにそこまでは……本家に確認してみないと分からないわ」

 

「そうですか……では、パラサイドールを作った際に使った忠誠術式。あれを光宣が使えるかどうかは分かりますか?」

 

「そのくらいなら使えると思うけど……達也くん、貴方、何を考えているの?」

 

「いえ、殆どあり得ない可能性ですので、響子さんが気にする必要はありません」

 

 

 達也としても突拍子もない事だと思っているので、下手に喋って不安を煽る事は避けたが、響子はそれで納得するはずもなかった。

 

「教えてちょうだい! 達也くんが考えた、最悪の状況っていうのを」

 

「……少し、残酷かもしれません。それでも構いませんか?」

 

「え、えぇ……」

 

 

 覚悟を決めていても、いざ達也の視線に射抜かれるとたじろいでしまう。それでも響子は、達也の考えが知りたかった。

 

「以前退治したパラサイトに乗っ取られた人間ですが、能力が飛躍的に上がっていたのです。さっきのエレメンタル・サイトの話もそうですが、光宣の能力が飛躍的に上がったとなると――」

 

「パラサイトに憑りつかれてるって言うのっ!?」

 

「だから、殆どあり得ない可能性だと申し上げたんですよ」

 

 

 驚愕する響子に、達也は苦笑いを浮かべて誤魔化したが、その可能性は低くないだろうと思っていたのだった。




響子さんもびっくりだよ、そんな考え……

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