劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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普通ならここまで想像出来ないし……


想像力の限界

 響子からの情報収集を終えた達也は、自分の部屋に戻ってすぐに来客を迎えていた。

 

「他の人には聞かれたくない内容だったのですか?」

 

「そんな事は無いけど、あんまり人がいるところで話す内容でもないし」

 

「そうですか」

 

 

 部屋に入ってきて暫く何も言わなかった真由美に、達也から水を向けると、彼女も覚悟を決めたように話し始める。

 

「達也くん、十三束君と話したんでしょ? 彼は納得してくれたの?」

 

「何故先輩がその事を? 十三束と話したの今日――日付が変わったから昨日の事です。一高生ではない先輩が知るには早すぎると思いますが」

 

「香澄ちゃんが偶然見たらしいのよ。達也くんと十三束君が屋上に行くのを。それで、その事を私に教えてくれたわけ」

 

「そうでしたか」

 

 

 達也は当然香澄が自分たちの事を見ていた事に気付いているし、その事を真由美に話すだろうという事も分かっていたが、あえて真由美に尋ねる事で、彼女にやりやすさを感じさせようとしたのだ。

 

「十三束には、自分で公開されている情報をもう一度確認して、本当にディオーネー計画が魔法師にとって有益な計画かどうか調べてからもう一度来い、といいました」

 

「誰もが達也くんのように理解力があるわけじゃないと思うんだけど……まして今、十三束君はお母さんが倒れた事で視野狭窄を起こしてるみたいだし」

 

「そもそも十三束の母親が倒れたのは俺の所為ではなく外務省の責任です。そして十三束に何を言われたからといって、俺がディオーネー計画に参加しなければならない理由にはなりませんし、参加するつもりもありません」

 

「相変わらず黒い事を平然と言ってのけるのね……十三束君は達也くんを説得しようと意気込んでるみたいなことも聞いたけど」

 

「アイツが何を考えどう動こうとアイツの勝手ですが、その都合に俺が付き合わなければいけない理由はどこにもありません。まして、人の一生を縛り付けるような事は誰にも出来ないのですから」

 

「まぁ、USNAの動きもあからさまだったし、新ソ連のベゾブラゾフも強硬策に出るくらいだからね……達也くんの計画を邪魔したい何かがあるって考えるのが普通よね……」

 

 

 元々達也派の真由美ではあるが、ここ最近のUSNAや新ソ連の動きを見て、ますます裏があると確信出来てきているのだ。達也が言ったから、という理由だけでなく、彼女は自分で調べてディオーネー計画の真の目的に辿り着いたのだった。

 

「どうやら国防軍はベゾブラゾフの動きを察知していて放置していたらしいですし」

 

「何それっ!? そんな事初耳よ!」

 

「大っぴらに言える事ではないでしょうし、初耳でも不思議ではないと思いますよ。それに、国防軍全体が放置したのか、一○一旅団が放置したのかは定かではありませんので」

 

 

 達也は少し嘘を吐いて真由美の怒りを逸らそうとする。彼は放置したのが一○一旅団――もっと言えば佐伯と風間だという事を知っている。だがそれを真由美に教える義理は無いのだ。

 

「一○一旅団って、達也くんが特務士官として配属されてるところよね? 何でそこが達也くんを見捨てるような事を?」

 

「俺を餌に、ベゾブラゾフの戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』の観測をしようとしたのではないでしょうかね」

 

「でも、その所為で水波ちゃんが倒れたのよね? 達也くんはそれで良かったの?」

 

「水波が倒れたのは、完全に俺の力不足が原因です。国防軍に責任を問うつもりはありません」

 

「でも――」

 

「ただ、俺の力不足と国防軍が『民間人』を犠牲にしてまで敵の情報を探ろうとしたのとは別問題ですが」

 

「っ」

 

 

 達也が纏う空気が変わったのに気が付いた真由美は、思わず息を呑んだ。真由美は達也が、自分一人ならどうとも思わなかっただろうが、深雪とその他の人間を巻き込んだ事に対して怒っているのだと理解したのだ。達也が深雪の事にだけは『本当の感情』をすぐ懐けることを知っている。彼女に万が一のことがあったらどうなるか、それは達也の実力を知っていればすぐに思いつく事だった。

 

「報復、するつもりなの?」

 

「今のところ国防軍を敵に回すつもりはありません。ですが、似たような事が続けば分からないでしょう」

 

「それで、新ソ連の方はどうなってるの? 政府はあくまで犯人を特定しないで引き渡しを要求してるようだけど、達也くんはあの魔法がベゾブラゾフのトゥマーン・ボンバだと確信してるんでしょ?」

 

「遠距離魔法が放たれたのは新ソ連の極東、特別車両の中からでしたから。威力と時期から考えて、ベゾブラゾフのトゥマーン・ボンバであると考えるのが普通です。ですが、倒した魔法師二人は女性でした」

 

「女性!? というか、達也くん倒したの!?」

 

「正確には消し去ったんですが」

 

「そ、そう……」

 

 

 達也の『分解』を見た事がある真由美は、それがどういう意味なのかを理解し口を押さえる。克人の腕が焼け落ちたのとは比べ物にならないのだろうという事は理解しているが、実際に人体を消し去るのを見た事があるわけではないので、彼女の想像力では実際の悲劇を正確に推し量る事は出来なかったが、吐き気を催すくらいには想像できたようだった。

 

「兎に角七草家は――私たちは何があっても達也くんの味方だからね」

 

「ありがとうございます」

 

 

 今更な感じもしたが、真由美は改めて宣言してから達也の部屋を出て、我慢出来なくなりトイレに駆け込んだのだった。




十師族の一員とはいえ、真由美はそこまで深く関わってないからな……

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